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コラム

ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント

ソーシャルメディアは、生活者、社員、経営者を結ぶ情報パイプライン

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社内のクローズ空間に顧客の声を取り入れる

大きな組織の中には情報の壁がいたるところに存在している。「チャイニーズ・ウォール」とは、例えば証券会社の引受部門と営業部門間など、部門間に意図的に設けられた情報障壁をあらわす言葉だが、実際の企業内には、縦割り組織の慣行や部門間の競争、過度な部分最適化、果ては部門長間のいがみあいまで、本来あるべきでないチャイニーズ・ウォールが築かれ、オープン化を阻害する要因となっている。

この目に見えないチャイニーズ・ウォールを取り除くにはどうすればよいのだろうか。例えば社内でクローズされた空間にソーシャル・ネットワークやブログ、チャットなどのソーシャル・テクノロジーを導入し、風通しを良くすることがよく提唱されているが、筆者の知る限り、残念ながらその効果は限定的だ。それらの機能を利用して情報共有するインセンティブが不十分なのだ。また現業務との優先順位も不明確で返答義務もない。結果、社内でクローズしたソーシャルの場は、好きな人だけ使うたまり場のようになってしまう。先進企業では情報共有の目標、評価を人事システムに組み込みはじめたが、まだ実験段階で成果にまでは結びついていないものが多い。

そのような社内ソーシャルの場を簡単に活性化する奥の手がある。社内でクローズされた空間に、生活者や顧客の声をとり入れることだ。例えばツイッター上で、自社に関して会話されている声をすべてピックアップし、それを社内の場に流すこと、そして彼らの声の傾聴と対策を業務の一貫と位置づけることだ。顧客の声がクローズ空間に入ったとたん、否応なくその場には緊張が走ることとなる。そして、それが共通の目的、大義名分となり、行動を促していく。

リスクの理解がオープン・リーダーシップのカギ

テクノロジーではなく、顧客と社員、管理職、経営者がひとつの情報パイプラインで結ばれることが大切なのだ。不正アクセス防止法や個人情報保護法などにより、日増しに堅牢性を求められ続けてきた情報システム部門にとって、自社には縁遠い選択肢だと感じている方も多いだろう。しかし現実にはソーシャルメディアの企業活用は着実に浸透しており、米国大企業の80%以上が何らかのカタチでソーシャルメディアを活用している。クローズからオープンへ。情報化の風向きは明らかに変わりはじめている。

ただし、生活者の声がダイレクトに全社に届くのは好ましいことだが、企業内の情報をすべてオープンにすることはできないことは当然だ。重大な経営戦略、製品サービスのロードマップ、顧客データベース、個人情報など、本質的に企業が公開できない情報も存在している。オープン・リーダーシップとて例外ではない。したがって、何をオープンにして、何をクローズするのか、企業としてのポリシーが問われることとなる。

信頼を基礎とした人間的な関係を志すザッポス

例えばザッポスではガイドラインは一切ないが、それは徹底した文化浸透が行われているから成立することだ。一般企業においては、リスク回避のためにソーシャルメディアポリシーを策定し、それに従った社内教育をすすめ、リスクを理解した上でソーシャルメディア活用を促進することが重要だ。ザッポスはオープンなだけではない。「人を信じる」「人に任せる」ことが徹底されている。社員の提言があれば、50%の成功確率でもトライする。90%の人が正しいことをやっているなら、それでよい。たった一人のために性悪説になったりはしない。

パフォーマンスは各部門マネージャーの責任、カルチャーの浸透は人事部門の責任事項であり、ほとんどのことではCEOであるトニーのサインは不要となっている。トニーは社員と同じデスクに座っており、いつでも友人のように話せるが、「人に任せる」ことは徹底されているのだ。チーム・ビルディングのために就業時間中に映画に行ってもいいし、映画代は部門の予算から出る。ピクニックや遊園地などでもよい。部門の判断に任され、承認も要らないという。

ソーシャルメディアの普及で、リーダーも顧客や社員と日常的につながり、親密な関係を築けるようになった。そこで求められるのは、従来のような統制の関係性ではなく、信頼を基礎とした人間的な関係性だ。

斉藤 徹「ソーシャルメディア時代のチェンジマネジメント」バックナンバー