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コラム

NYクリエイティブ滞在記

イタリア人が激怒。アメリカ人は早口でまくしたて、ブラジル人は静かに笑った。そして日本人は…。

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ワシントン・バトル

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AmtrakやLIRRなどが発着するPennsylvania Station(ペンシルバニア駅)。略してペンステ。意外と好きなんです、列車の旅。


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もうひとつ、今回の記事とは関係ない写真を。ニューヨークは映画のロケがとっても多いところ。会社の裏にあるこの消防署も、あの、なつかしい映画の舞台です。わかります?

Amtrak(アムトラック)の夜行列車に乗って、旅に出た。ニューヨークのペンシルバニア駅からワシントンDCのユニオン駅へ。重たい車両は街に轟音を残して南下し、漆黒の窓には時おりナトリウムランプの明かりが走る。そう、僕らは戦いにいくのだ。

…と、慣れない書き方をするのはやめます。最初の3行書くだけで時間かかりすぎです。これ以上時間がかかると編集の方に叱られちゃいます。実は今回、とあるクライアントの仕事でワシントンDCに向かっています。ニューヨークのmcgarrybowen(マックギャリー・ボウエン)というエージェンシーの主催で、世界からクリエイティブチームが集まって、合宿して、クライアントにそれぞれプレゼンするという、天下一武道会みたいなのをやりにいくのです。イタリアのCayenne Milan(カイエン・ミラン)からのチーム、ブラジルはDentsu Brazilのチーム、アメリカmcgarrybowenからは3チーム、そして、日本代表?として僕らが参加します。

そんな訳で、ニューヨークからコトコト電車にのって3時間。ワシントンDCから車でさらに45分。遠い遠い自然あふれる合宿会場までやってきました。鹿がうろうろしています。東京から来た美しきアートディレクター、ショーコさんと、ディグダグで遊んでるのを社長に見つかった先輩、ヨースケさんが一緒です。

こういうバトルロワイヤルのような仕事のやり方は、こちらでも珍しいみたいです。でもクライアントにとってみれば、世界のいろんな視点で作られたクリエイティブをずらっと並べて見られるわけで、きっと面白いに違いないです。合宿は3日間。最初に詳細なオリエンを受けて、あとは会場に缶詰になって、それぞれのチームが限られた時間のなかで表現案を作ります。なんか、ヤングカンヌのコンペみたいですね。このあと結局僕らは3日徹夜することになるわけですが、僕はもうヤングではないので、連続徹夜はキツイです。徹夜はお肌によくないです。徹夜ダメゼッタイ。徹夜、かっこ悪い。

さて今回は企業のブランディングが課題です。途中経過を、それぞれのチームがみんなの前でプレゼンします。これ、それぞれの国のクリエイティブプロセスの違いが垣間見えて、ほんとに楽しい。イタリアチームは、熱い。そしてとても素敵なインテグレーテッド・キャンペーンを提案してきた。デジタルもきっちり活用してるし、よくアイデアも練られてる。プレゼンにはビデオコンテも使っていたりして、うう、手強いぞっ、という感じ。

アメリカチームはみんな、素敵なビジュアルと素敵なコピー、という、オーソドックスなやり方で攻めてくる。テレビCM案も字コンテだけど、それを歌や擬音を交えながらオーバーな身振り手振りで説明する様子は、いとをかし。しかし彼らは英語がうまいから(そりゃそうだ)、説明がうまい。みんなの案は最終的に現場最高責任者であるECDが判断してプレゼンすることになるのですが、アメリカチームはこのECDからひとつ質問がくると、マシンガンのような早口で3倍くらいの答えを返す。これが僕らにできないところなんですよね…。

そしてブラジルチームは、シンプルなアイデアと、デジタル展開案。けっこう日本のやり方に似ているような。そもそもブラジルチームはとってもいい奴らで、意外とシャイで、そしてやさしい。この3日間でこんなにお国柄の違いが見られるなんて思いませんでした。

ファクトとブランディング

じゃあ、日本人チームはどうしたのか。ちなみに日本チームは、ここに来ている3人だけではなくて、東京にも素敵な仲間がいます。時差をつかえば、こっちが寝ている間に東京で考えて、その逆もできて、すばらしい!と思ったのですが、結局全員徹夜でした。ほんとにお肌に悪いです。

そしてここにきて、他のチームのやり方を見て、僕らの広告の作り方はすでに変化していたのだ、と気づきました。かつては、今回のアメリカチームのように、その企業のブランドに上塗りする表現を考えるのが僕らの仕事だった。でも、客観的にアメリカチームの案を見ると、表面的で、それがブランドを深く愛する理由にはならないように思えてしまう。僕らとしては、表現を作る前に、そのブランドのファクトを作るところからやりたい。このブランドに、こんなファクトがあったら、とっても素敵になるのに、というのを探して提案したい。そしてそのファクトが絵に描いた餅にならないようにするために、僕らはデジタルとかのツールを使うようになったのだと思う。ブランデッドユーティリティとかはその一つですよね。そして日本チームの案は、最終的に、自分たちで言うのは恥ずかしいけど、きちんとアイデアのある、ファクトの提案があるものになりました。

いよいよ最終プレゼンが近づいてきました。そして事件は会議室で起きる。最終プレゼン前夜に、ECDがイタリアチームの案を全否定。プレゼンには出さない、と言い出します。熱いイタリアチームは、真っ赤になって激怒。なんで今になってそんなこと言うんだ!1日前にも同じ方向で話をしているじゃないか!と。熱いです。でもこのやりとりを見て、ああ最近、違う!と思ったものに全力で立ち向かうなんてこと、やってないな…とも思ったり。上司やクライアントの不条理な言い分に、大人なんだからとさらりと流したり、聞いているふりをしたり、してた。たまには、がつーんとぶつかるのも気持ちよさそう。がつーんと行きたいね…。

そして最終日。イタリアチームも一晩で別案を作り出し(さすが!)、全チームからプレゼンが行われました。そして結果、トップ4案のうち、2つが日本チームの案に。やった!もちろん、このあとホントに形になるかどうか、長い道のりが待っていますが、とっても有意義な合宿バトルになりました。プレゼンの後、へろへろになりながら、また列車でニューヨークへ。車内では無料WIFIが使えるので(日本も見習ってほしい)、Facebookに届いたみなさんのお友達申請とメッセージを一生懸命読みました(ありがとうございます!)。

翌日、眠い目をこすりながら、近所のスーパーマーケットへ。うちの近所には、Trader Joe’s(トレーダー・ジョーズ)、Fairway(フェアウェイ)、Citarella(チタレッタ)、Zabar’s(ゼイバーズ)と、スーパー好きならきっと悶絶するであろう店が並んでいます。僕もスーパー巡りが好きなので、用もないのによくうろうろします。で、ひとつ気づいたことが。ふつうのスーパーだと、店員は不愛想で、荷物を運んでいる人は「Excuse me!」って叫んで人をどかすし、レジでは「Next!」って叫んでお客を呼ぶし、日本の丁寧で迅速なレジを思い出すと、ほんとにひどいもんだ、ってな感じなんですが、Trader Joe’sだけ、ちょっと違うんです。何が違うって、店員が楽しそう。歌いながら棚の整理してたり、レジでも「そのシャツどこで買ったの?」とか、にこやかに雑談してくる。店内でも、店員同士の笑い声や会話が飛び交ってる。これで、Trader Joe’sがけっこう好きになりました。この店の雰囲気づくり、どういうふうに実現してるんだろう。こういうファクトって、どんな広告よりも強くて早い。素敵なブランディング。あとはもうちょっと商品の品質が良くて、変なスシとか置いてなければ、最高なんだけどなあ…。

佐々木康晴「NYクリエイティブ滞在記」バックナンバー