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コラム

企画を通すコツ~オリエンからプレゼンまでの時間の使い方

ターゲットミックス考:「顧客」 と 「ファン」

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前回から僕が実施案を考える上で、気になっているモノやコトをネタにお話を展開しています。今回は「ターゲットミックス」です。言うまでもなく、ビジネスにとって大切なのは「顧客」の存在です。一方、ブランドにとって大切なのは「ファン」の存在です。理想を言えば「顧客」=「ファン」となるのでしょう。しかし最近、いろいろな企業のコミュニケーションと接触するたびに、ある疑問が浮かんできます。企業は「ファン」を育てるつもりがあるのだろうか?…そんな感じの疑問です。

顧客 と ファン

僕はユニクロの服をよく購入します。従ってユニクロの「顧客」です。しかしユニクロの「ファン」とは言えません。ユニクロよりちょっと安くてちょっとデザインの良いブランドがあれば、カンタンにスイッチすると思います。その思いは、ユニクロのお世辞にもオシャレとは言えない特売チラシを目にするたびに強くなります。その証拠と言っては何ですが、ユニクロの顧客になる前はGAPの顧客でした。僕はGAPの顧客でしたが、ファンではなかったため、デザインが良くて安い服を提供するブランド(=ユニクロ)が出てきたことで、ブランドスイッチしました。

ウチの会社に、愛車がマツダのRX8、という男性スタッフがいます。燃費は良くないのですが、デザインが好きらしく、もう何年も乗っています。彼はこんな時流に合わないクルマを作り続けるマツダの情熱には、小さな敬意を抱いていました。そんな彼はマツダの「顧客」であり、「ファン」でもあったのです。ただつい先頃、そのマツダがRX8の生産終了を発表しました。オーナーである彼に事前のお知らせはなかったそうです。残念ですが、彼が欲しいと思えるクルマはもうマツダに残っていません。現時点で彼はまだ「マツダ」の顧客ですが、既に「ファン」とは言えません。この次は、他メーカーのクルマに乗り換えるそうです。

ファン ≒ 個人投資家

僕はファンとは 「ブランドへの関与度が高い個人投資家」であると定義したいと思います。ブランドの強い面(=価値)も弱い面(=可能性)もひっくるめて全体的に共感し、継続的に応援(=投資)を続けてくれる人々です。手厳しいコトも言いますが、それも高い関与度の裏返しであり、業績が振るわない時期に、下支えとなってくれるのも彼らです。

しかしその反面で、敵に回すと怖い存在でもあります。ネガティブインフルエンサーの多くは、事情通な元ファンや元関係者の人々だと言われています。また、他ブランドへスイッチしてしまったファンは、余程のことがない限り、二度と戻って来ません。つまり「ファン」は、ブランドの安定と成長を考える上で、極めて重要な存在だと言えます。しかし最近、その「ファン」がナイガシロにされている様に思われます。

ファンが消える日

市場のグローバル化や経済の停滞を背景に、多くの企業が生き残りを賭けた顧客争奪戦を繰り広げています。いま、彼らの最大の関心事は、新しい市場(=顧客)を増やすことに向けられています。その方が既存顧客のクロスセルやアップセルに期待するより、確度が高く、短期的に見れば効率が良いからなのでしょう。この苛烈な競争下では、仕方のないことの様にも思えます。しかしその結果として、仮に「顧客」の中から「ファン」がすっかり消え去ってしまったら、どうするつもりなのでしょう。そんなコトは起こるわけがないと誰もが思いながらも、その可能性を完全に否定できないこの仮説。すでに現実の市場で、これと矛盾しない現象が起こりはじめています…「ブランド離れ」です。

低関与商品である低価格の身の回り品や生活出需品はさておき、従来、高関与商品と認識されてきた高価格の買い回り品や嗜好品に(ファッション、クルマ、家電、など)おいても、購買意思決定に及ぼす関与度の影響の低下…つまり「ブランド離れ」の進行が懸念されています。一見すると、生活者がブランドを必要としない時代の到来、そんな解釈がアタマをよぎりますが、僕の見方はまったく逆です。多くの企業がファンを疎外したモノ作りやコミュニケーションを続けた結果、このような現象を引き起こしたのだと思うのです。

企業は、事業の拡大をあせり過ぎて、自分で自分の首を絞めたのです。ファンという下支えを失ったブランドがどうなるか、想像してみてください。業績は不安定になり、縮小均衡に陥り、次第に競争力を失い、迷走していきます。そして、躓いた途端に崩壊というリスクに怯えながら、消極的にブランドを維持するだけの状況に追い込まれるのです。こうなったら、再び、そのブランドに明るい未来が訪れる可能性は、極めて低いと思われます。

CRMの功罪

僕は、多くの企業で運用されている既存のCRMの仕組が、ファン疎外の傾向に拍車かける一因になっているのではないか、という疑念を持っています。ご存じの通りCRMでは購入実績に応じて、顧客を幾つかのレベルに分けて管理します。大ざっぱに言うと、最下層(=プロスペクト)、中間層(=ニューカマー)、最上層(=ロイヤルカスタマー)、といった具合です。

多くの企業で、プロスペクトとロイヤルカスタマーに対して、積極的な施策が展開される一方で、なぜかニューカマーのスイッチ防止や育成に関しては、消極的な施策に終始する傾向が見受けられます。しかし、この中間の顧客層は、その数的ボリュームで収益に貢献する人々であり、ロイヤルカスタマー(=ファン)の予備群でもあります。この顧客層へのコミュニケーションが極端に制限されると、顧客スイッチが頻繁に発生し、結果、顧客構造に歪みが生じます。つまり、顧客に占めるファンとその予備軍の割合が減少するのです。この原因は定かでありませんが、欧米型CRMに見られるFSP(Frequent Shopper Program=高頻度客向けプログラム)に偏った運用の影響を、その原因として指摘する専門家もいます。確かにこの点は疑わしいのですが、僕は加えて、既存のCRMで言われている「ファンを育てるコミュニケーションスキーム」自体の経年劣化や時代とのギャップ、という面にも目を向けるべきだと思っています。

ファン ≒ ビジネスパートナー

マスメディアが本来の機能を失いつつある現在、それを補完するソーシャルネットワークの活用は、すべてのブランドにとって、プロモーション上の大きな課題になっています。そして、そのポイントとなるのが、多くの友人との繋がりを持つインフルエンサーを味方に付けることです。そのために必要となるのが、インフルエンサー=ファン、という構造の成立です。

逆に言えば、ファンだけが自社の製品やサービスのポジティブなクチコミを、主体的に拡散してくれるインフルエンサーに成りうる存在だと言えます。最早、「ファン」がブランドにもたらす貢献は、購買という目に見える投資だけに限りません。これからは、インフルエンサーとしの役割もクローズアップされてくるはずです。ブランドにとって「ファン」の存在は、顧客の枠を超え、ビジネスパートナーへと進化する時が来ているのかもしれません。

次回は、これからの時代にマッチしたファンを育てるコミュニケーションとはどの様なものか、そんな観点で考えを発展させていけたらと思っています。

上塘 潤一郎「企画を通すコツ~オリエンからプレゼンまでの時間の使い方」バックナンバー