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コラム

i(アイ)トレンド

口コミサイトの業者書き込みや「ステマ」など、ソーシャルメディア・マーケティングの倫理について考える

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大原則は「透明性の担保」

口コミサイトのランキング上位に表示させるために、作為的な口コミ投稿を業者に依頼している飲食店経営者がいるとの報道が1月4日にあった。サイト運営会社は業者を特定しており、業務停止を求めて提訴するなどの措置を検討していると発表したが、株価が下落するなどの影響も起きているようである。

また6日には一連の騒動に対して、景品表示法に基づいて消費者庁が調査を始めたことを、山岡内閣府特命担当大臣が会見で明らかにしている。テレビなどの報道によると、依頼した店舗では実際に行列ができるなどの現象が起こっていたということなので、こうした投稿にはある程度の効果はあったのではと推測される。

時期を同じくして、急上昇検索ランキングやツイッターのトレンド、インターネット掲示板などで、「ステマ」という言葉が多く語られている。これは「ステルスマーケティング」の略語であり、ウィキペディアによると、「消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすること」である。書き込みの内容の中には「複数の有力ブログに同じような内容の書き込みがある」といったものや、「知らないうちにアフィリエイトサイトへのリンクされていた」というものである。マスコミなどの報道もあり「業者による書き込み」と「ステマ」は一見同じもののように議論されているが、筆者は違う性格のものであると考えている。

なぜ違うかというと、後者には身分の開示と商品の消費が付随しているからである。前者の業者による書き込みは、架空のあるいは仮名の人物によるものであり実際に商品の消費もなく、場合によっては店舗も訪問していない全くの架空の出来事であると考えられる。一方の後者に関しては、掲載者は本名など身分を明らかにしており、実際に商品を使用している写真が掲載されるなど、全くの架空といえないケースが多いと考えられる。

しかも商品の紹介に関して同じような文章になってしまうのは、商品のホームページやプレスリリースなどを参照する際に書かれている文言の活用と考えられなくもない。しかしながら、両者に共通して不足しているのは日・米の口コミマーケティングの協会(WOMMAWOM Japan)で謳われている「関係性明示(透明性の担保)」の原則である。

ちなみに日本コカ・コーラではソーシャルメディア・ガイドライン上でソーシャルメディア活動においてコカ・コーラが掲げる5つの基本的価値観の一番目として「透明性の担保」をあげている。この項目を参照すると「ソーシャルメディア上での議論の流れをコントロールすることを目的とした、擬似ページの制作や投稿メッセージの送信は行いません。コカ・コーラが管理するすべてのホームページやファンサイトは、コカ・コーラの管理である旨を周知いたします。また、これらのページには、サイトが適切に運営されているか否かの状況を追跡・確認するための権限を、適切な内部プロトコルに準じて付与します。またブロガーやユーザーに対して、製品サンプルなどを含む物品、金品、サービスを提供したり、イベントに招待したりした場合、彼らのブログにおいても、その旨を記載していただくよう依頼するとともに、その履行状況を確認します」となっている。

業界、行政それぞれが適切な対応を

口コミマーケティングの活用に関しては、「アドバタイムズ」が未だ紙面だった2010年3月に投稿した記事があるのでそちらも参照いただきたいが、ここにあらためて紹介する。

米国では日本の公正取引委員会に相当する連邦取引委員会(FTC = Fair Trade Commission)が2009年10月5日に改定したGuides Concerning the Use of Endorsements and Testimonials in Advertisingというガイドラインがある。こちらはインターネットだけではなくすべての広告に消費者の意見を反映させるためのガイドラインで、違反すると最大で$11,000の罰金を課されることもある。また米WOMMAによると、口コミ・マーケティングを行う際には5つの原則を遵守する必要があるという。

  1. Credible: Honest & Authentic(信頼性:誠実で本物である)
  2. Respectful: Transparent & Trustworthy(敬意・尊厳: 透明性と信頼性)
  3. Social: Listening, Participating, Responding & Engaging(社会性: 傾聴し、参加し、反応し関与する〔引き込む〕)
  4. Measurable: Define, Monitor & Evaluate(計測性:定義、監視、評価)
  5. Repeatable (反復性)

日本のWOMマーケティング協議会では2010年3月12日に「WOMマーケティングに関するガイドライン」として二つの原則を発表している。

  1. (関係性明示の原則)WOMマーケティング事業者は、どのような関係性において、WOMマーケティングが成立しているかについて、消費者が理解できるようにしなければならない。関係性とは、原則として金銭、物品、サービスの提供とする。
  2. (社会啓発の原則)WOMマーケティング事業者は、1が実現するように必要な啓発活動を行うとする。

WOMマーケティングが成立しているというのは「依頼」と「受託」の関係があることをさしており、金銭や商品・サービスなどを受けた場合にこれを明記することを指している。

ソーシャルメディア・マーケティングに関わらず発展途上にあるメディアでは普及の過渡期にこのような問題が必ず発生すると言ってもよいだろう。筆者の記憶でも「インターネット・オークションサイト」「モバイルSNS交流サイト」などの事例が挙げられる。それらは業界の自主規制や、ネットの持つ消費者の相互監視による自浄作用によって克服してきたと考えている。

今回の場合にはいくつかの対応の必要性があると考えられる。まず最初に消費者のリテラシー向上、つまり、ひとつのサイトの情報に頼らずに複数のサイトで検証することである。また運営サイト側に関しては書き込みや書き込む人の監視を行う必要がある。これは業者とのいたちごっこ的な側面もあるが是非監視の目をゆるめないでいただきたい。

また、ある程度行政で動いたほうがよいケースも出てきている可能性がある。筆者のネット上の調査によると、代行業者などは今回の口コミサイトだけではなく、出会い系サイトなどのいわゆる「サクラ」なども行っている可能性が高いからである。それらのサイトはアルバイトとして「メール(チャット)オペレーター」「メール(チャット)レディ」等の名前で募集されているのである。架空の出会いを演出してメールなど通信料名義で金銭を取る手段は悪質である。この様な事例を通報し取り締まる仕組みなどを健全な企業に余分な負荷をかけずに実施できる方法が出てくることを切望している。

【参考記事】口コミマーケティング さらなる発展に期待(2010/3/17)

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