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革新的な取り組み続ける京都の料亭 ブランド資産を記録し、組織としての成長へ~シリーズ「ブランドマネジメントの今」第5回

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1716年創業「美濃吉」(京都市/従業員数700名) マネージャー(大膳職司) 中山公平氏の場合

日本の老舗や中小企業が、積極的にブランドマネジメントに取り組み始めている状況について、レポートしている本シリーズ。今回は江戸時代に創業した京都の料理屋「美濃吉」のマネージャーが登場。京都、東京の高級料亭のほか、全国15店舗で懐石料理の店を展開する同社がいま目指す、老舗流のブランドマネジメントのあり方とは。

※『宣伝会議』15日発売号にて、宣伝会議主催のブランドマネージャー育成講座と連動して連載中のシリーズ「日本企業とブランドマネジメントの今」より抜粋。本記事は2012年1月15日発売号に掲載されたものです。

ブラマネのような視点が必要 料亭の「大膳職司」という役割

京都でお茶や軽食を出す「腰掛け茶屋」から始まり、川魚を出す料理屋として繁栄した美濃吉の歴史は、1716年(享保元年)までさかのぼる。現社長の佐竹力総氏で十代目だが、「現在の規模の会社組織となったのは、戦後以降のこと」とマネージャーの中山公平氏は説明する。

料理屋は1944年に一時閉店に追い込まれたが終戦後に復活。1958年の阪神百貨店への出店成功を皮切りに東京にも進出、百貨店での惣菜販売や西日本のファミリーレストランまで事業を広げていった。やがて京都ブームの高まりとともに「京料理」というブランド自体が確立されていく。今では定番となった「京弁当」や百貨店でのおせち料理販売なども同社が最初に仕掛けたものだ。

このように伝統的な京都の料亭の世界にあって、常に革新的な取り組みに挑んできたのが美濃吉の特徴である。創業から300年近く経った今でもその伝統は受け継がれており、京都の本店「竹茂楼」も1992年に開亭したばかり。本店は戦後、大衆的な食事処として繁盛していたが、客単価2万円の高級料亭としてリニューアルしたのだ。その裏には、事業の多角化によって失われつつあった、歴史ある美濃吉という“のれん”を改めて確立していきたいという思いがあった。


京都・左京区にある本店「竹茂楼(たけしげろう)」。戦後の復興を経て多角的に事業展開していた美濃吉が“原点回帰”を目指して、1992年4月に開亭した。

現在、中山氏は本店を含む国内17店舗の統括をサポートしながら、店長や女将、配膳係をはじめとするスタッフの間に立つコーディネーターの役割を担う。料亭の世界で言えば、コーディネーターは奈良時代の律令制度に由来する「大膳職司」と呼ばれる役職にあたる。

「それぞれの持ち場の視点から物事を見て、組織に横串を刺す。そして顧客との間を取り持つのが大膳職司の役割」といい、その役割は組織を横断してブランドを高めていく「ブランドマネージャー」に通ずるところがある。

ヒストリーはあるもののブランドが体系化されていない

従業員数が700人となった今だからこそ、ブランドマネジメントの重要性を感じている。「長い歴史があるだけに、ブランドの理論を知る前から無意識に取り組んできたこともある。ただこれまでは、あまりに自社の資産(ブランド・エクイティ)を残していこうという意識が希薄だった。特に従業員一人ひとりが持っているお客さまに関する記憶を“記録”して、マーケティングの視点で情報抽出することも今後は必要になってくるのではないか」。

そのような考えから中山氏は2011年8月、宣伝会議の「ブランドマネージャー育成講座」を受講した。講義を聞き改めて気付いたのは米国と日本の「ブランド」と「ヒストリー」の位置づけの違いだった。

米国企業はブランドが先にあって、ヒストリーが後付けで形成される。日本の伝統企業はその逆で、ヒストリーは既にあるが、それをブランドとしてどのように体系化していくかが課題となる。中山氏自身も、「日本料理には、他の国と比べても、負けないだけの歴史と伝統があるはずなのに、その地位が揺らいでいる。諸外国の料理が先んじて世界遺産に登録されるといった現象も起きてしまうのではないか」という危機感を抱いている。

人的資源の数値化によって顧客満足とブランド強化へ

近年、「料亭」を取り巻く環境も変化している。かつて、高度経済成長の時代には法人による接待など宴席の需要が非常に多かったが、その件数も減少傾向にある。東京都内でも近年、料亭そのものが姿を消しつつある一方、京都における料亭は「文化の交差点」として、今後も継続していく道を探っていかねばならない。そのためにも京都の一飲食店ではなく、今まで以上に革新性ある企業として進化を続けていくために、ブランドマネジメントは避けては通れない課題であると感じている。

将来的には顧客情報のデータ化だけでなく、自社で働く人的資源の数値化も重要な課題のひとつであると認識している。「それぞれの従業員の経験値をもとに、お客さまの満足度向上に必要な投下資本を判断するための機軸が欲しい。一人ひとりのお客さまの満足度を徹底的に考えることが、結果的に総体としての美濃吉ブランドの強化につながるのでは」と考えている。

美濃吉 マネージャー(大膳職司) 中山公平(Kohei Nakayama)
東京都出身。上智大学法学部卒業後、2002年入社。現在は京都、東京を行き来しながら国内店舗統括のサポート役を担っている。

※シリーズ「ブランドマネジメントの今」 第一弾は今回で終了です。
第二弾は6月からの掲載予定です。

シリーズ「ブランドマネジメントの今」

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