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コラム

やかん沸騰日記

英語はどうやったらしゃべれるようになるのか

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ひょんなことから、ニューヨークフェスティバルという広告祭のエグゼクティブジュリー(審査員)をやることになりました。
来週末からニューヨークへ行きます。
なので、それまで英語に慣れておかなくては、と今あせっています。
僕は帰国子女でもなければ、海外に住んだこともなく、ネイティブレベルからはほど遠いですが、英語で苦労している方は多いと思いますので、僭越ながら僕がこれまでやってきた英語学習法を書いてみたいと思います。

海外旅行や海外出張で、帰国する頃になってようやく英語がわかるようになってきた経験はありませんか?
僕はいつもそうなのです。
今までいくつか国際審査員をやったことがありますが、最終日になって、初日には聞き取れなかった英語がわかるようになってくるのです。
おととしロンドン広告祭のフィルム審査員をしたのですが、オーストラリア人の審査委員長の英語が審査初日に全くわからなくてあせりました。
特にオージーなまりとかインドなまりとか強いブリティッシュアクセントは慣れるのに数日かかったりします。

つまり、出国の前の週に英語に慣れようなんて泥縄のように聞こえるかもしれませんが、英語脳というのは、筋トレと一緒で、活性化するのに時間がかかる筋肉なのです。
それは、僕は日本では普段日本語脳で暮らしているからです。
英語脳は、日本語脳とは別の筋肉なのです。

英語脳の筋トレのために僕がやること。
それは、英語のドラマやCNNを見ながら、ただぶつぶつセリフをすべてモノマネすること。
内容がわからなくてもいいのです。
単語が聞き取れなくてもニュアンスだけモノマネすればいいのです。
赤ちゃんが大人のコトバをマネするのと同じことを延々やるのです。
専門用語では、シャドーイングと言いますが、日本語脳をシャットアウトして、英語脳を活性化するのです。

しかし、もっと本質的には、まず英語脳そのものを作らなければいけない。
どうすれば、英語脳ができるのでしょうか。
英語脳に関わらず、言語脳は必要脳です。
必要がなければ上達しない脳みそなのです。
逆を言えば、「生きるために英語が必要」と脳が感じればメキメキ上達するのです。

僕が英語が上達したなと思った時期はふたつあります。
ひとつは、20歳の時。バッグパッカー世界一周旅行時代、ポーランドにいた1カ月です。

実はその前の1カ月、ニューヨークでコロンビア大学の英語プログラムに通いました。
しかし、正直あんまり上達した感覚はありませんでした。
英語がしゃべれないと生きていけない状況まで追い込まれなかったし、クラスにも寮にも日本人がいたので何か困ったら助けてもらえたからでした。
昼間は英語の勉強はしたけど、毎日日本語をしゃべる生活だったからです。

しかし、その後そこから大西洋を渡って、ポーランドに飛んでから僕の英語はメキメキ上達しました。
南部の田舎町のワークキャンプというボランティアのプログラムで、毎日ラズベリーを摘んだり畑を耕したりという農作業をしたのですが、1カ月間、アジア人は僕一人で、日本語はひとことも話しませんでした。
つまり日本語脳はほぼ完全にシャットアウトしてしまったわけです。

それどころか、ちゃんと英語で主張しないと、皿洗いの回数が余計に増えたり、食事当番のときに手伝ってくれる人がいなくなったり、シャワーを浴びる順番を後ろに回されたりするのです。
さらに、農場のリーダーとの間でちょっとした労働争議があったり、現地の人と外国人の間でいざこざがあったりもしました。
英語がしゃべれないとケンカもできない。
英語でジョークが言えないと仲間もできない。

要するにサバイバルのために英語が必要になったのでした。
この時に、ニューヨークでは刺激されなかった必要脳が覚醒され、英語脳ができあがったんだと思います。
いわゆるサバイバルイングリッシュというやつですが、言いたいことを伝える技術はここで身に着けたと思います。
最終的には、英語で夢を見るようになりました。
帰国後TOEICを受けてみたのですが、通常の受験英語レベルだったのが、785点まで伸びていました。

しかしその後、就職してからは旅行以外ほとんど英語を使わない年月が続いて、TOEICも730くらいまで落ちてしまいました。
二回目に上達したなと思ったのは、2007年でした。
ある日、カンヌ国際広告祭の審査員の内定が来たのです。
当時の僕は、ごくたまに英語で丸暗記したプレゼンをしたことがあるくらいで、基本はサバイバルイングリッシュのままでした。
カンヌでは、バッグパッカーの英語では通用しません。
カンヌラブな僕は、それまでカンヌから多くのものをもらってきたので、その恩返しをしなければいけない。
単に点数つけるだけではなくて、しっかり審査に影響力を行使して、広告業界のためになる働きをしなければならない。
その上日の丸を背負っていくという自負もありました。
そんなプレッシャーで、大学受験以来というくらい、かなり真剣に英語を勉強しました。
30冊くらいの教材を読んだり聴いたりしました。
仕事をしている時間以外は、ほぼヘッドホンをつけて英語を聴いていたと思います。
TOEICも半年で730点から915点まで上がりました。
これも、必要脳が刺激されたからだと思います。

当時まず最初に徹底的にやったのは、とにかく単語を覚えること。
巷で人気の英単語教材のBasicとAdvanceを丸暗記しました。
僕は、英語は単語をたくさん覚えることから始めるべきだと思っています。
よく「単語は覚えずに文脈から類推せよ」という趣旨の本がありますが、それは間違いだと思います。
例えばあなたが日本語を学んでいる外国人だとして、今の「単語は覚えずに文脈から類推せよ」という文章を読むとします。
「文脈」や「類推」という言葉の意味がわからずに意味を想像するのは難しいですよね。
「単語は覚えずに何を何しろといっているのだろうか?」
そこで止まってしまうくらいなら、覚えちゃったほうが早いと思うのです。

ただし、単語の丸暗記は初めて会った人との名刺交換のようなものです。
どこかで名刺交換しただけでは、その人の顔と名前が結びつかないかもしれませんが、次に会った時に「あ、この人名刺交換しましたよね」と言う会話が起これば、しっかり顔を見ただけで名前がでてくるようになりますよね。

その次にやったのは、ハリーポッターシリーズの朗読CDを聞いて、そのあと原作の英文を読んで最後に日本語を読みました。
ここで、丸暗記した単語にたくさん遭遇しました。
そして一冊読み終わったら、その映画をサブタイトルなしで見ます。
映画ハリーポッターは、かなり原作のセリフに忠実に作られているのでオススメです。
オーディオマテリアルもアメリカ英語版とイギリス英語版が出てます。
「ハリーポッターが英語で読める本」というあんちょこも出ています。
英語の映画をスラスラ理解できるのは気持ちがいいものです。
そんなわけで、僕は今でも魔法に関する英語は得意です。

英会話学校にも行きましたが、これは実地訓練です。
僕がニューヨークであまり上達しなかったのと一緒で、週に何回か英会話学校にいくだけでは英語は上達しないと思っています。
僕は、過去のカンヌの受賞作のエントリー文章をプリントアウトして持ち込んで、先生の前で要約する練習をしました。
英会話学校のいいところは、自分のまわりくどい言い回しをもっとシンプルにダイレクトに言い換える訓練ができるところだと思います。

単語の暗記が名刺交換だとすれば、映画や英会話学校は再会。
なんとなく見たなという単語に再会したときに、その言葉が自分のものになるのです。

話を必要脳の話に戻しますが、よく、英語は現地に住まなければしゃべれるようにはならない、と言いますよね。
それは、自分を追い込まないと、必要脳が活性化しないからだと思います。
であれば、日本にいながら英語が必要な環境を作ればいいのです。
外国人の恋人を作るのが一番早いという理由もそれだと思います。
僕はそんな経験は残念ながらありませんが。

カンヌ審査員の後も、僕は毎年なんらかの形で自分を追い込むようにしています。
翌年からは、バリ島でのアジアパシフィックメディアフォーラムというカンファレンスに呼ばれたのを皮切りに、ジャカルタ、インド、フィリピンと英語での講演をやりました。
フィリピンでは3000人の前でスピーチして、その後テレビの6時のニュースに出演したりもしました。
講演というのは、好評だと次にまたどこかに呼ばれるのですが、つまらない話をしたら二度と話がきません。
さらに、毎回同じ話をするわけにはいかないので、そのたびに講演のコンテンツを作りました。
講演のしゃべり原稿を自分で書いてみて、英語の先生に添削してもらうという作業を重ねることで、自分の言いたいことを言えるようになっていきます。

この、英語を書いて他人に読んでもらうという習慣がオススメです。
ネイティブの知り合いがいれば見てもらえばいいし、辞書やスペースアルクなどのサイトの例文を見て、自分が言いたいことを英語にする練習です。
フェイスブックで英語を書く、日記を英語で書く、英語で企画書を書く、海外の友達とメールでやりとりするなど、日常で英語を使う必然性を作ることがコツです。

その年の秋の講演では苦手だったQ&Aに挑戦しました。
質問してくれた人のRとLを聞き間違えて、とんちんかんな答えをして恥ずかしい思いもしたのも今となってはいい思い出です。
翌年には、あえてパネルディスカッションに挑戦しました。
シンガポール経営大学の壇上で、コロンビア大学の教授たちと議論しました。
日本のバブル以降の経済的空白の10年間を批判されたので、必死に応戦しました。
その翌年からは丸一日受講生と対話するワークショップ型の研修にトライしました。
どれも無謀なチャレンジですし、まだまだちゃんとできたというレベルではないのですが、僕は追い込まれないとダメなタイプなので、自分を追い込むことで英語力をキープしています。
恥をかくのも必要脳を刺激するひとつのきっかけだとわりきっています。

英語脳を覚醒するためには、まず日本語脳をシャットアウトする。
英語に慣れるためには、映画やニュースを見ながら、ぶつぶつモノマネする。
言語をつかさどる必要脳を刺激するために、英語が必要な環境を作る。
語彙を増やすために、単語を丸暗記して、映画や英会話学校でその単語に再会する。
リスニングを鍛えるために、原作を読んで映画を見る。
言いたいことを言えるようにするために、英文を書いて人に読んでもらう習慣を作る。
サボらないために、英語を使う無謀なチャレンジに自分を追い込む。

なんだか散漫な奮闘記になってしまいましたが、何かのお役にたてれば幸いです。
次回はニューヨークフェスティバルからの実況中継を書こうと思います。

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