「価格より価値訴求を」といわれて久しいが、消費税増率を控え、消費者の意識はますます低価格志向になっている。実際、2012年中頃から複数の小売は多数の品目を値下げしている。一方で「生めんのような即席めん」「洗うほど抗菌効果が高まる洗剤」など、価値を訴求することでヒットに繫がる例もある。この先、店頭において価格訴求と価値訴求はどのような方向に進むのか、メーカーと小売りがどう協業していくべきかを探っていく。
第1回は、マーケティング価格戦略の専門家・研究者である学習院大学経済学部経営学科教授 上田隆穂氏に、お話を伺った。
学習院大学 経済学部経営学科 教授 上田隆穂氏
東京大学経済学部経済学科卒業、株式会社東燃入社、退職後一橋大学大学院商学研究修士課程に進学、修士・博士課程修了後、一橋大学商学部助手に就任。学習院大学芸剤学部専任講師、助教授を経て現職。経営学博士。
研究分野はマーケティング。特に「価格マーケティング」「セールス・プロモーション」「小売戦略」「地域活性化」。主な著書 に「マーケティング価格戦略」(有斐閣、1999年)、「価格決定戦略」(明日香出版社、2005年)、「マーケティング・コミュニケーション大辞典」(共著、2006年、宣伝会議)、「買い物客はそのキーワードで手を伸ばす」(共編著、ダイヤモンド社、2011年)ほか多数。
価値創造型の店頭プロモーション その考え方と将来あるべき姿
非価格要素による価値創造へ
価格訴求と価値訴求について言及するとき、時々使用する枠組みがあります(図1)。横軸に競争優位性(低価格を訴求しているか、商品の差別化を図っているか)、縦軸にターゲット層のサイズ(広いターゲット=GMS型か、狭いターゲット層=SM型か)を設定して4つに区分したものです。
この4区分のうち、だいたい日本の小売業でうまくいっているのは、低コストで広いターゲット層の「コストリーダーシップ=EDLP(Every Day Low Price) orディスカウント」(図1左上)なんですね。このタイプは、勝者は少ないけれども強いということです。そしてもう一つ成功しているのが、わりと狭い商圏で、差別化(非価格価値)を追求して、うまくいっているところです。
この区分を一歩進めて考察すると、「コストリーダーシップ」型は、システムが必要で、規模も大きい。仕組みさえあればEDLPでも戦えます。一方で特売というのは商品ブランドの価値を毀損してしまうので、避けるべきと考えます。さて、成功タイプの反面、課題を抱えているのは図2のように「コスト集中」型と右上の「差別化」を図っているGMSということになります。前者は価格訴求以外に販促のやりようがないところから、それぞれの工夫が必要になってきます。
多店舗チェーン展開での低価格訴求を除けば、その工夫の仕方が「差別化」になるのですが、それにはいろいろな方法があります。例えば愛知県・豊橋市のサンヨネのように「商品」に徹底的に磨きをかけるというやり方。それ以外にもいろいろな方面の追求の仕方がありますが、それが本当の意味での「差別化」にならなければいけません。つまりどの店でもできることでは効果がないということになります。
もう一つの後者図右上のタイプは、多くのGMSが差別化要因の欠乏、模倣競争による同質化の進行で低迷しています。そこで、大手量販店も小商圏店舗の強みをいかす展開、特に非価格要素による価値創造が重要な課題になってくるわけです。
(次ページヘ続く)
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