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コラム

伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」

箭内道彦というクリエイターの強み

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先日、箭内道彦氏と対談してきました。今春彼の連載をまとめた本が出版されるそうで、対談の模様はその本の中に掲載される予定です。よかったら、是非読んでみてください。

実はこの場で、いつか氏のことを取り上げようと思って、事前に承諾を得るために電話を入れました。
返ってきた応えが、「いいですけど、好感度上がるように書いてくださいね」。
久しぶりの電話なのに、氏のキャラはかつて仕事をした頃と全然変わっていなくて、思わず吹き出してしまった次第です。

彼の言葉はいつも本音。言い難いことでも、躊躇うことなく本質をついてきます。だからこそ信頼できるし、クライアントと広告代理店の間にありがちな腹の探りあいをすることもありません。
証拠に、氏から誉められると妙に嬉しかった……(笑)。

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かわいい、かわいい松木君。

CM制作の現場では、クライアントも代理店も、演出家もその他スタッフも、互いを信用し、同じベクトルに向かっていくのが理想であることは以前にも触れた通りです。
才能はもちろんのこと、その力を借りようとする者が後を絶たないのは、彼の人間性によるところが大きいと思います。
って、こんな感じでいいかなあ、箭内(笑)。

氏との出会いは1995年ですから、今から18年も前に遡ります。当時の僕は、あまりCMには出演しないJポップアーティストを説得して、一緒になってCMを作り上げることに夢中でした。彼らの時代を読み取る感性には感服させられることが多くて、CM作りのプロであるプランナーや演出家の経験値との間に起こる予想だにできない化学反応を目の当たりにする瞬間が楽しくて仕方なかったのです。

そんな時、当時の博報堂の担当者から、「うちで、Jポップに一番精通しているプランナーです」と紹介されたのが箭内氏でした。
なよっとした体型に、金髪頭。「どうも」と言って、こちらの様子を伺いながら、照れくさそうに少しだけ頭を下げてくれた姿が今でもはっきりと脳裏に焼き付いています。

僕はこう見えて結構人見知りをするほうなのですが、初対面にもかかわらず氏との会話は異常に弾みました。
おそらく日常の暮らしぶりは似ても似つかないはずなのに、意外にもいろんな嗜好が一致したからです。

何よりシンパシーを感じたのは、氏がテレビを見ることが大好きだったこと。CMプランナーって、どうも斜に構えている人が多くて、故に自身はテレビの中で流れる映像を作っているのに、同じ映像でも映画とか、ミュージックビデオは見るけど、テレビはあんまり見ないなんて言う人が多いんです。本当のところはわからないですけど、僕はこのことにずっと違和感を感じていました。だったら、CMなんて作らずに、映画を作ればいいのにと思ってみたり。どうも、映像の世界では、「映画が一番格は上」みたいな傾向があるんですよね。

でも氏は、「テレビっておもしろいですよ。家にいる時はつけっぱなしです」と堂々と言ってのけてくれた。
CM作る人なんだから、当たり前といっちゃあ、当たり前なんですけど、強烈に親近感を感じたことを覚えています。

他にも、洋楽は聞かない。映画もあんまり好きじゃない。
つまりは彼の嗜好はお茶の間でテレビを見ている人たちのマジョリティーのそれと同じなのです。
これってすごい大事なことだと思います。
やっぱり勝負に勝つには敵のことをよく知らなきゃ。
箭内氏の強みっていうかすごさは、お茶の間の気持ちを誰より理解していることだと僕は思います。

さて、そんな感じで、のっけから「これはおもしろいものが作れそうだな」とワクワクさせてくれた氏ですが、そんな僕の予感は見事に的中することになります。
次回は、その辺りを詳しく……。

伊藤 洋介『伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」』バックナンバー