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コラム

広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT

嶋浩一郎さんと東畑幸多さんに聞く(後編)「広告の広は、欲望の広さ、可能性の広さ」

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前編からの続きです。

「世の中を幸せにしたいという、欲望のエネルギーがすごく大事」(東畑)

嶋浩一郎さんと東畑幸多さん

並河:「広告」の「広げる」という部分について、おふたりに聞きたいのですが。
バーンとテレビCMを大量投下して、みんなが同じ情報を知っている状況をつくる、って、すごい快感じゃないですか。

でも、最近そういうやり方自体に違和感を持っていて、なんて言うのかなぁ、本当に良いものだったら勝手に広がったりもするだろうし、無理して広げるのって違うのかなぁと、悩みを感じているんですが、お二人はどう思いますか?

東畑:僕は、やっぱり、仕事が、人にエネルギーを与えるというのはすごく大事だと思うんですよね。CMを見た人がエネルギーを持つでもいいし、市場を活性化するでもいいし、クライアントを元気づけるでもいい。何か自分の考えたことが誰かを活性化するってことがすごく大事で、広告だからいいとか悪いとか、広告じゃなければいいとか悪いとか、そういうことさえも僕にとっては正直どうでもいい、みたいな感覚もあって、そこに対してもフラットでいたい。

ちょっと話がずれちゃうかもしれないけれど、アップルのスティーブ・ジョブズが、製品開発のディレクションで、社員に「宇宙に衝撃を与えたい」と言っていたという話があって、もはや、コンピューターのディレクションではないですよね。でも、クリエイティブディレクターに一番大事なのは、その欲望だと思っているんです。

自分勝手な人って意外と欲は小さくて、自分の周りも世の中も宇宙も幸せにしたい、という人の方が、よっぽど欲深いと思うんです。そういう欲望のエネルギーっていうのがすごく大事かなって。

「広告屋の素敵なところは、気づいてない欲望を気づかせてあげることができるところ」(嶋)

嶋:欲望はすごく大事ですよね。
僕の場合は、商品をどう良いかを考えるより、この商品が人の何の欲望を満たすんだろうっていうことをすごく考えますね。

人ってね、実は自分の欲望がわからないんです。
本当は自分は何がしたいかって、ほとんどの人がわからない。
人間は自分の欲望の内10%くらいしか言語化できない。
だから、Googleで検索できたり、amazonで検索できる欲望って自分の10%くらいしかなくて、残りは、何かしたいけど、気づいていない。

広告屋の素敵なところは、その気づいてない欲望を気づかせてあげることができるところ。
本屋も、そうなんですよ。言語化できている10%の領域は、amazonで買えるわけで。でも、本屋に行って、「あ、これ欲しかったんだ」って、その本屋で初めて言語化されることもあると思うんですよね。

最近、ビッグデータの時代がくると、広告会社はダメになっちゃうんじゃないかって言われるんですけど、あまりそういうことは思わないんです。
もちろんビッグデータは楽しくて、Googleの人が21世紀は統計家が世界一セクシーな仕事になるっていうのもわかる。

購買行動のデータが溜まっていけば、あ、このビールを買っている人が、このレンタルビデオではアクションビデオを見てるんだとか、このアイスを食べている人は、フランスの映画が好きなんだみたいな、今、自分たちが発見できない欲望の相関関係が発見できるとは思うんですけど、データは結局言語化されているものの集積でしかない。
データは、一生世の中に追いつかない。世の中とデータの隙間で、新しく起こってくる人間の欲望を発見するのが広告の醍醐味。

最近、博報堂の生活総合研究所のレポートを見てびっくりしたのが、ベッドで寝ない人が増えているらしいんですよね。で、これは何かの胎動なんですよ。これを欲望にスイッチできたなら、何か課題解決ができるなって思うんですよ。
あと、僕、最近、ゲームセンターに入る老人をよく目にするんですよ。これも、何かの欲望の胎動。
そういう欲望を先回りして、気づいていく作業が、広告づくりにおいて、大事な気がするんですよね。

並河:広告というものは、企業側の何かを力技で広げる行為ではなくて、生活者の潜在的に持っている欲望、つまり、やりたいことを見つけてあげること。

嶋:むしろ、そういう風にしか考えたことないですね。

並河:素敵な考え方ですね。

「広告の広は、人数ではなく、欲望の広さ、幅の広さ、可能性の広さ」(並河)

並河:最後に、広告の未来についてうかがいます。10年後、20年後、30年後、広告はどうなっていると思いますか。

嶋:僕が、広告屋をやっている醍醐味は、人間の欲望の最初の萌芽を見つけて、それを言語化し、発見してビジネスに出来ることだと思っています。世の中でデータ化されない、言語化されない、人間の欲望の最初の胎動に気づき続けられていられたら、嬉しいです。

東畑:願望ですけど、広告は、わくわくする仕事であってほしい。いろんな人が入ってきて、どんどんいろんな新しいことをはじめて、「それも広告としていいんだ」という驚きがあって。嶋さんが本屋をやることで、本屋が変わるように、わくわくする仕事としての幅がどんどん広がるといいなあと思います。
こんなに面白そうで、こんなに世の中にためになる仕事があってもいいんだ、と。

未来というものに対して、世の中全体に、いま、閉塞感がありますよね。
でも、その中でも、広告の技術を転用して、よくできることはいっぱいある。
企画って、未来をつくること。広告って、こんなもんじゃない、と常に自問自答を繰り返しながら、未来をつくっていくような、広告はそんな存在でいてほしいと思います。

並河:嶋さんはいろんな事業をやって来られていて。かたや、東畑さんはCMの世界を極めていて。だから、今日は、事業の視点と、CMの表現の視点、その2つの視点で広告の未来を見る会になるのかな、と思っていたんです。
でも、事業だ、表現だ、とかいう枠は小さな話だと気づきました。大事なのは、人間の欲望、社会に貢献したいという気持ちも含めての、その欲望をどこまで広げられるか、ということ。

広告という言葉の「広」を、人数の広さだとずっと僕は思っていたけれど、そうじゃなくて、欲望の広さ、幅の広さ、可能性の広さ、ととらえると、広告を、わくわくする仕事に再定義できると思いました。
そういう風に再定義しなおすと、広告の未来がひらけるんじゃないかなと。
今日は、本当にありがとうございました!

<おまけ>対談後のフリートーク

並河:嶋さん、B&B、すごくいいですね。広告をつくってる人間が集まって、気楽にビール飲みながら、今日みたいな文化的な話をする場所にぴったりです。

東畑:ここで、COMMUNICATION SHIFT2、やりましょうよ。

嶋:広告屋の視点で見ると、何が見えるか、という発想は面白いよね。

並河:老眼鏡でも、シャッター商店街でも、何か一つテーマを決めて、それを「広告屋は、こう面白がる」というのを、みんなでわいわい話す、というのは絶対楽しいですよね。広告屋ができる、いちばんストレートな社会貢献かも。

東畑:佐々木宏さんが、コピーの書き方の例で、「みんながいちばん嫌いなどぶ川を、CANALと呼んでみる」と話していたことがあって、広告は、閉塞し停滞したものに活性化する「ある視点」を与えることができるんですよね。

嶋:COMMUNICATION SHIFT2「CANAL NIGHT」、やりますか?

並河、東畑:いいですね!ぜひいつか!


今回で、「COMMUNICATION SHIFT」は最終回です。
半年間、おつきあいいただいたみなさま、取材を快諾していただいたみなさま、テープ起こしを手伝ってくれた後輩の伊豆原くんと岩崎さん、僕のこの試みを面白がってくれた宣伝会議の刀田さん、本当にありがとうございました。
いつか、CANAL NIGHT(?)で会いましょう!

最後に告知です。
新連載「広告同人誌こみゅしふ~僕と野良袋の思考的冒険~」をウェブサイト「電通人語」ではじめました。
人間との対談はしばらくお休みして、広告外生命体、野良袋との対談をしています。気が向いたら、のぞいてみてください!

※連載「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

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