新型インフルエンザ等対策特別措置法の施行
政府は4月12日の閣議で、新型インフルエンザ対策の法的根拠となる特別措置法を、13日に施行することを決定した。新型インフルエンザが国内で大流行した場合、少なくとも1300万~2500万人の患者が発生し、ピーク時には、会社の従業員などが、最大で4割程度欠勤すると見込まれており、感染拡大に備えて早期の対策を講じるためのものだ。
新型インフルエンザが発生すると、政府対策本部が設置され、国内に侵入したウイルスの病原性が強い恐れがある場合は、緊急事態宣言が出されることになる。宣言が出ると、学校など感染リスクが高いと判断された場所は、名前が公表され、使用制限を求められる。従わない場合は、指示される。潜伏期間あるいは治癒するまでの期間などについて外出の自粛要請、興行場、催物等の制限等の要請・指示も出される。また、国の財政負担によって住民への予防接種の実施が並行的に行われるなど、拡大する感染症に対して国民生活、国民経済への影響を最小限に停めることが目的となっている。
予防の観点からは、国、地方公共団体が行動計画を作成し、発生時の医療支援のための指定公共機関(医療、医薬品、医療機器の製造・販売、電力、ガス、輸送等を営む法人)を予め指定し業務計画を作成させる。海外で発生した場合の水際対策をより有効に行うための的確な計画も整備する。
ところで、現在、中国で発生している鳥インフルエンザ(「H7N9型」)の事態概要、感染状況、政府の対応、各省庁の活動状況を知るにはこちらのサイトがわかりやすい。3月31日に中国が3人の感染者を公表して以降、4月22日時点で感染者102人(うち死亡者20人)が確定している。
また、現段階での明確な人・人感染の確証がないため、専門機関の発表も微妙に違いがあり、週単位あるいは数日単位でその発表内容も変化している。そうした日々の各専門機関の発表内容を検討するには、国立感染症研究所のホームページをモニタリングすることをお勧めしたい。このホームページでは、国立感染症研究所による情報のほか、世界保険機関(WHO)、アメリカ合衆国・疾病対策センター(CDC)、国際獣疫事務局(OIE)、厚生労働省などからの情報も確認することができる。
WHOは、一貫して「人・人感染の事実は確認されていない」と公表してきたが、今月20日、国立感染症研究所が「確認ができていないものの、H7N9型鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染し、増殖しやすいように変化(ヒトへの親和性)している可能性から、世界的大流行(パンデミック)を起こすことも否定できない」とのコメントを受けて、WHOも「一部の場所で限定的に人・人感染が発生している可能性」について言及を始めた。
この種の情報の混乱や錯綜があるのは、発症している場所が中国という国であるからに他ならない。本来、発症が確認されると、国家規模でサーベイランスが機能し、感染症の発生動向調査情報、ウイルスの検出情報、院内感染情報や流行予測などが的確に政府に集約されて解析される。しかし、中国では依然として中央に情報が集まらず、政府の感染エリア封鎖や検疫を恐れて病名が意図的に隠されたり、死因の特定が明確ではないものが多数存在する懸念がある。人・人感染が確認できない事情には、「意図的隠蔽」という中国特有のカントリーリスクが背景となっていることも想定される。
H7N9型は、これまで毒性が弱く、致死率は低いとされてきたが、変異しヒトへの感染する能力が加われば、パンデミックとなるまでの時間はそうかからない。現時点での感染症例では男性に感染者が多く、年齢での範囲は4歳から87歳まで幅広く感染している。家禽との接触歴は約60%で、感染源・感染経路も依然不明となっている。
今後、水際の対策を講じたとしても、いずれ国内に入国した感染者から家族内などで二次感染が発生する可能性が生じる。「ヒトへの親和性」が高まっていることを考慮するといつパンデミックを起こす可能性を否定できないため、適時のリスク評価に基づき、適切な対応ができるよう企業・個人がそれぞれ正確な情報を検証していくことが重要となる。特に、H7N9型鳥インフルエンザは、その患者の治療について、早期診断・早期治療により相当な重症例の減少が期待されるため、感染時の症状など予備的知識の周知徹底も不可欠だ。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第117回 超長期トレンドで見る世界経済と日本の立ち位置(4/18)
- 第116回 敗者復活を狙うアノニマスの執念、再びFacebookが標的に(4/11)
- 第115回 なりすまし、同情、ハニートラップ、なんでもありの詐欺的手口を展開するFacebookからの犯罪現状(3/28)
- 第114回 ハニートラップまで飛び出した中国全方位インテリジェンス。日本企業は機密情報を厳重に管理せよ(3/21)
- 第113回 安倍政権で加速化するサイバーインテリジェンス対策 「白馬のハッカー」との交流(警察庁)や「サイバー空間防衛隊」(防衛省)の創設へ(3/7)
- 第112回 お客様相談の重要性・本質を再度考える(2/28)
- 第111回 核実験成功の発表で勢いづく北朝鮮の次の一手は?(2/14)
- 第110回 北朝鮮3回目の核実験実施の意図と金正恩の野望(2/7)
「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 孤立化する中国、新型肺炎は新たなステージに! 日本企業が注視すべきポイント(2020/2/04)
- 企業の新型肺炎対策、まだまだ不安要素は一杯! 特に致死率より「感染率」に留意!(2020/1/30)
- 親会社経営陣関与の不祥事に信頼回復の一手はあるのか?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(10)(2015/9/17)
- 100%子会社で重大犯罪発覚! 親会社の社長はどこまで責任をとるべきか?-『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(9)(2015/9/10)
- 経営者に梯子を外された経理部長の無念!経営者が指示した「不正会計」に対して企業再生は可能なのか?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(8)(2015/9/03)
- 監査役の裏切り! ハゲタカファンドによる乗っ取りの危機にさらされ、経営陣は最後の逆転の一手に何を考えたか?-『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(7)(2015/8/27)
- 産業スパイ事件!社運をかけたプロジェクトの崩壊、信頼していた部下に裏切られたら?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(6)(2015/8/20)
- 突然の従業員拉致・誘拐事件、あなたは他人の命の値段を交渉できるか?—『リスクの神様』監修者が語るドラマの見所、危機管理・広報(5)(2015/8/13)
新着CM
-
販売促進
チリワイン新商品が発売1.5カ月で急伸 メルシャン「デビルズ・カルナバル」
-
マーケティング
顧客と共に施策を実施する、バイオフィリアのマーケティング戦略
-
広告ビジネス・メディア
出稿場所はエスカレーターの手すり WEBTOON広告の最適解が生まれるまで
-
広告ビジネス・メディア
プロモーションのAtoZをおさらい!「OOH」ならではの価値
-
販売促進
コンビニとの融合で復活する町の本屋 集客や収益の課題を改善、日本出版販売
-
AD
– 心地よい未来を、データとつくる。 –
-
特集
はじめに/あとがき/解説でざっくりわかる 宣伝会議のこの本、どんな本?
-
マーケティング
急成長する女子プロ・アマスポーツ界に熱い視線を送る米国企業
-
販売促進
世帯普及率10%達成のロボット掃除機 アイロボット日本法人の独自戦略