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ブレイクスルーを生み出す方法③ アンパンマンの志と、ブレイクスルー。

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木村健太郎(博報堂ケトル)、磯部光毅(磯部光毅事務所)という2人のクリエイター/アカウントプランナーによる本書は、「何かを解決する時に、自分たちはどうやってブレイクスルーしているのか」、そんな疑問から生まれました。これまで広告の仕事で培った知見と経験をベースに、ビジネスや日常生活のたとえ話や事例を盛り込みながら、「ひらめきの原理」となる思考ロジックを独自に分析し、見える化。この本を読み終えたとき、誰もが「ブレイクスルーの思考法」を手に入れることができます。

本連載は、4月2日に発売した書籍『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』の出版にあわせて掲載します。


「② コロンブスの上司」はこちら
「① 「正しい答え」にこだわって、臆病になっていないか。」はこちら


木村健太郎(博報堂ケトル クリエイティブディレクター/アカウントプランナー)×
磯部光毅(磯部光毅事務所 アカウントプランナー/コピーライター)

アドタイでの短期連載も3回目になりました。
今回は、「ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる」に掲載したかったのだけど、全体のボリュームの都合で泣く泣くカットした、でも、とても大切な話を書きます。

アンパンマンを生んだブレイクスルーの「志」についてのお話です。

子供たちに絶大な人気を誇るアンパンマン。
そもそも、アンパンマンはどのようにして生まれたのでしょうか。

「あんパン」と「正義のヒーロー」が組み合わさって「アンパンマン」。
この本でも紹介している6つの発想ロジックのうちの「組み合わせ」を用いて発想されたわけですが、では作者のやなせたかし氏はなぜ、正義のヒーローを作り上げるにあたって「アンパン」との組み合わせに行きついたのでしょうか。なかなか、あんパンとヒーローを組み合わせようなんて思わないですよね?
まさに、そこがポイントです。

「アンパンマン」の誕生には実は作者やなせたかし氏自身の戦争体験が大きく影響しています。やなせ氏は、こう語っています。

“二晩くらい寝ないで行軍したりとか非常に重い40キロぐらいあるものを担いで夜も眠れずに歩いたりしたんですけどね、それはですね、実はさして辛くない。耐えられるんですよ。一番辛いのは、食べられないってことなんですよ。”

“正義の味方っていうのは、一番の正義は何かといえば、ひもじい人を助けることだと思ったわけ。つまり、悪いやつをやっつけるとか、怪獣を殴りつけるとか、そういうことじゃなくて、ひもじい人を助けることだと思ったんですね。

そうして、そのひもじい人を助けるためには、自分も犠牲にならないと、いくらか自分も傷つくってことを覚悟しないと出来ない、っていうのが、僕の中であってですね。ですから自分を捨てて相手を助ける、っていう、そういう気持ちを入れたいと思ったわけです“

“『青い鳥』の中で、チルチル、ミチルが帽子のダイヤモンドをまわすといろんな妖精が登場してくる所が面白くてたまらなかった。光の精や水の精はいかにもという感じだったが、パンの精というのが出てきたのにはびっくりした。このパンの精が、しっかりと幼児体験としてぼくの頭脳にインプットされていて(中略)アンパンマンになったと思う”

やなせ氏は正義のヒーローを発想するにあたり、自らの体験から生まれた信条から、正義のヒーローは、敵を倒す以前に、ひもじい人を助ける存在でなければならない、自分をも犠牲にできる存在でなければならないと考えたんですね。

本書では、ブレイクスルーが起こるためのシンプルな原理として「未来図」「突破口」「具体案」の3つすべてに血が通うことを上げていますが、その中でも「未来図」は特に重要だと考えています。どんな未来を想像するのかによって、アイデアの「飛距離」がぐんと違ってくるからです。

やなせ氏は、自己の戦争体験を通じた「自己を犠牲にしてひもじい人を助ける正義」を「未来図」に描いたからこそ、「食べ物に命が宿ったヒーロー」という「突破口」を思いつき、そこに、自らの体の一部を食べてもらう、相手も暴力的にやっつけることはしないというキャラクター付けがされて、「アンパンマン」という「具体案」が生まれたのだと思います。

「組み合わせ」からヒーローを発想しようとしても、その組み合わせは無数にある。最後はその人の持つ志が、本物のブレイクスルーにつながるという興味深い例だと思います。

アンパンマンの奥にある深い思想を読み取った上で、子供たちが大好きになっているかどうかはわかりませんが、人間愛に立脚した強いバックボーンを持った作品だからこそ、移り変わりが激しい時代でも、長く、広く愛されるキャラクターとして生き続けられるのだな、と尊敬の念を抱きます。

考えてみると、やなせ氏に限らず、一流のアーティスト、事業家、クリエイター、学者、発明家等は、社会に対する問題意識や人間のあり方の関する信念を持っていて、それを作品や事業などで形にしているという例が実に多いですよね。

ブレイクスルーの根底には志がある。

発想のロジックも操るのは「人」。自分の根っこにあるフィロソフィーを磨いていくことがブレイクスルーには大切なんだと感じます。
(磯部光毅)

(参考)
NHK教育テレビ「人生の歩き方」やなせ氏インタビュー
「アンパンマンの遺書」(岩波書店 1995年)


木村健太郎(きむら・けんたろう)

博報堂ケトル 代表取締役共同CEO/エグゼクティブ クリエイティブディレクター/アカウントプランナー
1969年生まれ。一橋大学商学部卒業後、1992年博報堂入社。戦略からクリエイティブ、PR、デジタルを越境した統合的なプランニングスタイルを確立し、2006年博報堂ケトルを設立。従来の広告手法にとらわれない「手口ニュートラル」というコンセプトで、アイデアを沸かして世の中を沸騰させるコミュニケーションを提案・実施している。

磯部光毅(いそべ・こおき)

磯部光毅事務所 アカウントプランナー/コピーライター
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)へ転属。2007年4月独立、磯部光毅事務所設立。戦略畑、クリエイティブ畑両方での経験を活かし、単なる広告開発に限らず、経営戦略、商品開発、コミュニケーション開発、情報戦略立案から、コピーワークまで、全バリューチェーンを横断的にプランニングすることを得意とする。


【「ブレイクスルーを生み出す方法」バックナンバー】

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著者の2名が講師で登壇「企画発想力養成講座」

『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』の著者である木村健太郎氏(博報堂ケトル)、磯部光毅氏(磯部光毅事務所)が、ビジネスに使える企画発想力を具体的な実践トレーニング、ワークショップで徹底的に指導します。
開催日:2014年07月05日(土)、2014年07月19日(土)全2回

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