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リアル“空飛ぶ広報室”のPRマインド(1)

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有川浩原作のTBSドラマ「空飛ぶ広報室」が、広報担当者の間でも話題だ。航空自衛隊航空幕僚監部広報室を舞台に、メディアと広報の人々が織りなす人間模様が描かれるこのドラマでは、PRの仕事が臨場感をもって魅力的に描かれている。

その舞台裏では、この機会を生かして組織の生の姿を伝えようと全面協力で奔走する空幕広報室、“普遍的な仕事ドラマ”として視聴者の共感を得られるよう原作を生かしながらドラマ化を実現しようとするスタッフとの間で、リアルな“空飛ぶ広報室”が繰り広げられている。 

『広報会議』7月号の巻頭レポートでは、空幕広報室を舞台とした小説を実現した当時の広報室長である荒木正嗣氏(現航空自衛隊浜松基地司令)に「一流の広報パーソン」の流儀について聞き、メディア(=ドラマスタッフ)と広報(=空幕広報室)の協力体制、新任広報官の空井大祐を演じた綾野剛さんの“広報官としての思い”を紹介した。アドタイでは、その一部記事を2回に分けて掲載する。

ドラマ実現の裏で奔走する“本物”の4人の広報官

ドラマ『空飛ぶ広報室』の初回視聴率は14%。鷺坂(広報室長)風にいえば、その広報効果は20~25億円。「全11話の放映と関連する波及効果をあわせれば、1000億を超えると思います」と空幕広報室広報班の赤田賢司氏は話す。

しかし、重要なのは金額換算ではない。「普段は言えないことや私たちの思いを小説やドラマが代弁してくれる。自分たちの組織を描いたドラマを見た隊員の士気もあがっています。隊員の家族、関係者にとっても金額に代えがたい価値があるはずです」。

空幕広報室は、広報班11人、報道班7人、マネージャーである室長の19人体制だが、そのうち広報班の4人が、現在ドラマ対応チームとして動いている。1人は、常に広報室にいて、現場の状況に合わせて基地など関係機関との調整にあたる。また1人は、現場での指導役として一時的に基地から広報室に復帰した。

ドラマ対応チームは台本を読み、言葉遣いなどを検証するほか、美術打ち合わせにも参加し、現場で使われるリリースなど広報ツールや衣装、道具に違和感がないかを検証し、ドラマスタッフに助言する。撮影現場では、敬礼の仕方などの所作指導や、台詞を言う時の“感覚”や“気持ち”を役者に伝える。

指導役としてほとんどの撮影に立ち会っている空幕広報室広報班の松田佳一氏は「台詞や役者の皆さんの演技一つひとつについて、それはありなのか、なしなのか。ドラマとしてはOKなのかを含めて判断をしています。ドラマの仕事は華やかでいいねと言われることもありますが、実際にはそのイメージは氷山の一角、いやカケラくらいかもしれない」と笑う。

航空自衛隊を舞台に小説が書かれ、ドラマ化されることは滅多にないチャンス。「いかに正確に、適切な表現で自分たちのことを知ってもらえるか。現場で判断する私の責任も大きいと感じています」。

たとえば、第7話で登場する救難隊員の指導シーン。救難の現場で、本人はもちろん他の人の命も預かることもある隊員に、指導員が厳しい言葉を使うのは構わない。しかし、テレビ局の人が訓練を体験するシーンで、指導員が同様に厳しい言葉を使うのは「ない」と判断した。「私たちの訓練はむやみに厳しいわけではありません。ただ“乱暴者”のように映してほしくはありませんでした」。このドラマは、毎話撮影に協力してくれる基地の隊員など航空自衛隊の隊員や家族も見ている。違和感があれば共感されないし、ドラマを見ることで広報がどのように組織に貢献しようとしているのか。それを伝えるチャンスでもあると考えている。

広報で自衛隊を選ばれる組織に

実は松田氏は、ドラマの中で主人公の空井を指導する比嘉哲広一曹のモデルとなった人物。11年間入間基地の広報担当として取材対応などを行っていたが、「受け身ではなく、組織の存在を知ってもらうための広報をやってみたい」と空幕広報室に移った。「阪神淡路大震災で被災地に入って活動した際、地元住民の方から温かい言葉だけでなく、時に心ない言葉を浴びせられたことにショックを受けた。僕たちの存在意義は何だろうか、と」。

その一方で、航空自衛隊を「公務員」だという理由だけで就職先に選ぶ若者も多い。「『この仕事をやりたい』という思いを持った人たちが集まる組織にしていきたい」と思った。

現場では、美術や衣装、音声などのドラマスタッフ、広報官を演じる役者から頼られる存在だが、自身から意識して関係性を築こうと努めてきた。「広報官にとって必要な要素の一つが“人たらし”。組織内外、メディアとの信頼関係あってこその仕事ですし、そうすることで組織を知っていただくチャンスも広がります」。休憩時間は、スタッフや役者を相手に、飛行機や組織、そこにいる隊員たちについて話し、“広報活動”に勤しむ。

今後は、この広報機会をいかに最大限活用するか、そして次なる企画を考え続けるかがカギ。攻めの時期だからこそ、守りの報道班もより堅実なものにしなければならない。「一時的に人気が爆発してもダメ。着実に、持続的に、細かなヒットを積み重ねることが重要。広報に終わりはないんです」と赤田氏は気を引き締める。

「リアル“空飛ぶ広報室”のPRマインド(2)」はこちら

written by kouhoukaigi