〜歴史検証や日本版NSCの情報戦はどこまで通用するか〜
中国の威圧行動の本気度と韓国連携による日本国益の損失
戦時中に日本に強制連行されたとして中国の元労働者らが日本企業を相手に、1人あたり数千万円の損害賠償と謝罪を求めて訴訟提起が相次いでいる。北京で訴状が受理されたことを受けて、他の省の裁判所にも訴状を提出する元労働者や遺族が数百人単位で集団提訴し始めた。
さらに、中国・河北省の元労働者や遺族らは、「強制連行で受けた被害は、戦時中に日本政府が犯した罪と不可分」として日本企業に加えて日本政府に対しても損害賠償訴訟を裁判所に提起した。
これまで、日本との関係を重視し、本訴訟問題に国が関わることを意図的に避けてきた中国が、大きく方針をシフトし裁判所での受理を認めたことは、習近平周辺から安倍総理の靖国参拝への明確な嫌悪があったと推察されているが、ことはそんな簡単な問題ではない。
原告となっている元労働者は80歳後半から90歳後半、さらに亡くなっている場合はその遺族となっているが、年齢的にも訴訟が今後さらなる拡散となる可能性が指摘されている。
また、戦後補償を求めて同様に韓国で訴訟を提起している原告や弁護士が参加し連携を取るなど、新たな動きが始まった。
韓国の朴槿恵政権は、当初から大きく中国との関係を強化し、ことあるごとに日本の歴史認識問題の間違いを強調、公の場で日本政府との認識の乖離を拡散させている。
この韓国の中国シフト化で朝鮮半島における外交的距離感は、実際の距離以上に遠くなり、中国との連携による外交カードでは、日本が追い込まれた感が否めない。
さらに、これまでも日本企業を含めた外国企業における中国国内での訴訟事案では、いわゆる不法行為による損害賠償訴訟で勝訴しても、権利侵害法で地元中国企業が逆転勝訴するといったちょっと日本国内では考えにくい裁判事情が存在していたが、今回の強制連行に関わる損害賠償訴訟は、日本企業を明確に標的とした中国政府の強い意図が感じられる。
数年前に中国人労働者の最低賃金が法律改正によって上昇し、中国現地法人化へのメリットが希薄になりつつある状況下で、公安部が連携し、一斉に労働者がサボタージュ、臨検などによって疲弊している多くの日本企業に、今回の訴訟問題はさらなる中国リスクとして重荷となりつつある。
期待される日本版NSCの能力・機能
外交と安全保障の総合司令塔となる日本版NSCは、その方針・戦略から情報収集・分析の能力・機能が重要となるが、今後、中国や韓国が主張する歴史認識問題への検証・対応などもミッションのひとつとなる。国益を守ることは、結果として外国に展開する日本企業の経営にも良い影響を与えるはずである。
同時に、昨今、沖縄県の尖閣諸島を巡る中国の威圧的行動は目に余る状況にあり、日米両政府は、自衛隊と米軍が連携するための協議機関を常設する方針を最近固め、公表している。
今後、情報戦だけでなく、中国による尖閣諸島奪取が武装された偽装漁民などによって具体的に始まった場合、その対応の調整をこの機関を通じて即応していくとしている。日本側はこの合同調整グループのメンバーとして日本版NSCと自衛隊で構成されるとの意向を発表した。
これまで防戦一方の印象が強かった日本だが、今後どのような外交カードや情報戦を展開していくのか、興味深い。
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