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「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜

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前回記事「 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜」はこちら

最近の若者は、「欲望のない世代」と言われて久しい現在。
車も持たない、海外にも行かない、消費欲もない……とメディアではよく言われていますが、果たしてそれは本当なのでしょうか。「事実は欲望がないのではなくて、上の世代の人たちが“欲望”と思っているものが、若い人たちのそれとは違っている」と話すのは、ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』作家であり、今年30歳を迎えた白岩玄さん。
AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹、ミスチル……と、現代の若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあると断言します。
「最初に欠落があり、そこに何かがハマることでコミュニケーションは起こっている」――。この連載では、「今、人気&話題になっているものが、なぜ支持されているのか」について、30歳小説家視点から解析していきます。

【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜

白岩玄(小説家)

“しがらみ”から解き放たれた夏目アナ

夏目三久の人気がすごい。好きなアナウンサーのランキングでは必ず上位に名前が挙がるし、この春からTBS系の朝の情報番組「あさチャン!」の司会にも抜擢された。

2007年、日本テレビに入社すると、瞬く間に人気が上昇し、2008年12月には、アナウンサーユニット『go!go!ガールズ』で歌手デビューまで果たした夏目三久アナ。プライベート写真の流出を機に日本テレビを退社してから、本来の持ち味・魅力が際立った。今ではすっかり“品のあるアナウンサー”としてブレイクを果たしている。

彼女の現在の魅力は「マツコ&有吉の怒り新党」で開花したように思える。ひとつの番組にすべての理由付けを求めるのも何なのだけど、マツコ•デラックスと有吉弘行という毒舌タレントを相手に物怖じせずに番組を仕切ることができているのは、この番組の中で「自分を見つけた」からではないかと思うのだ。

僕は怒り新党をけっこう長く観続けているのだけれど、昔の夏目アナはもっとかわいい女の子っぽい感じの人だった。喋り方も別にゆっくりではなかったし、服装やメイクも今のような我が道を行くふうではなかった。でも番組が続いていく中で、彼女は少しずつ現代的な出で立ちの、上品な感じがする女の人にシフトチェンジしていったのだ。

その変化がどういう理由でもたらされたのかはわからない。自分でそうしようと決めたのかもしれないし、ちょっとずつ自分の気持ちのいい方に変わっていくうちに、今のような状態に落ち着いただけかもしれない。上品さに関して言えば、『怒り新党』が毒舌の多い番組だから、バランスをとるためにそういうものをプラスしてほしいと求められた可能性もある。でも結果として、その途中で加味されていったものたちは、彼女のキャラクターを作る要素として定着した。夏目三久と言えば「我が道を行く見た目」と「上品さ」というイメージが浮かぶほどになったのだ。

おそらく彼女は、仕事で求められたり、プロの人たちと話し合っていろんな挑戦をしてみる中で、自分を発見していったのだと思う。単に「変えていった」わけではない。辿り着いた容姿や、身についた技術というのは、あくまでも「自分がもともと持っていた素質を活かしたもの」でしかないからだ。自分の中に眠っていたものを、社会的に通用する形にして提示する。そしてそれが世間に少しずつ受け入れられたことで、これでいいんだと思えるようになったのだろう(言い換えるなら、これは局アナ時代に封じ込めていた自我を解放したということだ)。

世の中では、よく「自分探し」などと言われるが、これをしてちゃんと自分を見つけている人は実はそう多くない。みんな自分がしたいようにしたいと思いながらも、いろんなしがらみ(他人の視線)に負けて結局は中途半端に終わってしまっているからだ。そしてウソをついている自分から目を背けたまま、今の自分に無理やり満足しようとしたり、変わること自体をあきらめたりする。

そういう人たちがたくさんいる現代では、夏目三久のような「次々と自分を発見し、それを社会にも受け入れてもらっている人」はすごく光って見えるだろう。まぁ大抵の芸能人はそうなのだけど、彼女の場合はもともとがしがらみの多い女子アナで、しかもここ数年のうちに急にイメージが変わったから注目している人が多いのだと思う。

自分を探し、自分になりたい人がたくさんいるのは、それだけ今の自分に居心地の悪さを感じている人がいるということでもある。しがらみという名の他人の視線を気にするのは日本ならではかもしれないが、なんとなく本当の原因はそれではなくて、単に「他人との関係をうまく作れていない」からではないかという気もする。日本で芸能人がやたらともてはやされるのは、それができている(ように見える)人をうらやむ気持ちも多分にあると思うのだ。


若者攻略本。

AKB48、婚活、アニメ「ONE PIECE」、W杯、半沢直樹……若者が“ハマる”モノ・コトには、共通するツボがあった!ベストセラー小説『野ブタ。をプロデュース』で、若者のリアルな心理を描いた30歳作家が、“欲しがらない世代”の欲望を解説します。

白岩玄
1983年、京都市生まれ。高校卒業後、イギリスに留学。
大阪デザイナー専門学校グラフィックデザイン学科卒業。
2004年『野ブタ。をプロデュース』で第41回文藝賞を受賞し、デビュー。
05年、同作は芥川賞候補になるとともに、日本テレビでテレビドラマ化され、
70万部を超えるベストセラーとなった。2009年『空に唄う』、2012年『愛について』を発表。
今年3月28日、初の実用書となる『R30世代の欲望スイッチ~欲しがらない若者の、本当の欲望』を発表した。

【連載】
第1回 「女子」から「女性」へ〜AKB大島優子卒業に見る、“大人”であること〜
第2回 愛情は“型”の中にある 〜『笑っていいとも!』に見る、マンネリの中にある愛〜
第3回 「ウソ」と「仮装」はどちらがモテるか? 〜エイプリルフールに見る、モテないなら参加しないという空気〜
第4回 「自分」を見つけた人の強さ 〜夏目三久アナの人気に見る、「自分になること」に対する憧れ〜