【前回の記事「惜しい!バカに見えるリピート——《だぶりチェック》で中身を濃く」はこちら】
関西大学の教え子が撮影して私に送ってきた、通学路の途中の駐車場の、気になる看板[写真左]。彼はここを通るたびに、一体何のこっちゃ、と悩んでおりました。
で、調べたところ、この駐車場のすぐ近くに、農協の無人精米機があるとのこと。“米を踏む”というのは、“精米する”という意味なのだそうで、つまりこの看板は「精米機利用者以外停めないでください」と書き直せば、謎は解消です。以上終わり。
…では単純すぎて、何の参考にもなりません。ここでは敢えて、≪ある人達だけに通じる言葉(ここでは“米踏む人”)をどうしても使いたいなら、どんな表現の方がマシか≫ということを、頭の体操風に考えてみましょう。
その答案が、[右]です。一見、[左]とどこが違うの?と思いますよね。でもよく見ると、両者は≪呼びかけている相手≫が違います。
[左]の現物は、車を停めてほしくない人達(=精米をしない人達)に向かって、「停めるな」と言っています。でもその人達は、精米をしないのですから、“米踏む人”という言葉の意味を知らない可能性が大です。つまり、相手に通じない言葉で呼びかけているわけで、ムダ骨折りです。
一方[右]は、ここに停めてほしい人達(=精米をしに来た人達)に向かって、「停めろ」と呼びかけています。この人達は精米の習慣があるのだから、“米踏む人”という言葉も通じる可能性大です。
要は、仲間内だけの言葉を、それ以外の人に言っても伝わらないヨ、という話です。当たり前のようですが、これが全然できていないから、例えば放射能汚染問題を巡る専門家と住民の対話も、いつまでもすれ違いが続くのです。研究者仲間の内輪の用語や道筋でいくら一般人に話しても、音波や文字は届いても、内容は届きません。
子どもの交通事故の多い場所では、かつて幾多の悲劇を経て、「横断禁止」ではなく「わたるな」という表記が普及しました。大人の仲間内の言葉(=漢字)では、伝えたい相手(=子ども)に通じない、と悟ったからです。いつの日か、もし宇宙人が我が国に来襲したら―――「宇宙人お断り」という立て看板は、日本語で書いても仕方ありませんよね。
あなたが街で見かけた、ビミョーに伝わらないおしい看板。自分で作ってみたけれど、今一つ手応えがないおしい掲示。そんな実例の写真を、簡単な状況説明を添えて「kouhou@sendenkaigi.co.jp」までお送りください。採用されたコンテンツに対し、下村氏が当欄でアドバイスいたします。
「街中の“おしい”をレスキュー!」バックナンバー
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