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コラム

北川一成の「人間力」と「造形力」

アイデアは尽きるまで出す。数では負けないという心意気が必要

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老舗の酒蔵「富久錦」のCIの仕事をしたとき、私は26歳でした。親類が経営していた北川紙器印刷をGRAPHという社名に改め、デザイン部門を立ち上げたばかりの頃です。デザイナーは私ひとり。営業からデザインまで、すべて自分一人でやっていました。

当然ですが「会社に行けば仕事があり、規定の時間働けば毎月決まった金額の給料が振り込まれる」という状況ではありません。ダメ出ししてくれる師匠もアドバイスをしてくれる先輩デザイナーもおらず、デザインの善しあしは自分で判断するしかなかったのが現状です。

クライアントに提出する前に誰からもアドバイスしてもらえない状況で「コレだ」と納得できるデザインを生み出すためにも、アイデアは何百個も考えていました。それは、今でもやっていること。大学生の頃から「数では負けない」と決めているんです。

その理由は、あるコンペに応募して3位だったという悔しい経験がきっかけです。同時期に別のコンペに応募していた同じ大学の先輩がいたので、「先輩の部屋の電気が消えるまでやる」と決めて、毎日作品を作っていました。そして、搬入の日までに完成したのは6点ほど。その中から3点、先輩に選んでもらいました。自分もいいと思っていた作品を選んでくれたので満足感があったのを覚えています。

先輩にも「自分の作品も選んで欲しい」と言われたので、部屋に行くと60点くらい作品が並んでいたんです。しかも、すべての作品の完成度が高くて、自分とのレベルの違いに愕然としました。さらに、先輩は1位で、私は3位という結果だったんです。私が応募したコンペは、当時8千件ほど応募があったらしく、客観的に考えれば3位でも評価としては十分高いのですが、身近な先輩の実力を目の当たりにしていたので素直に喜ぶことはできませんでした。

子供の頃から図工が得意で、大学に入ってからも自分の前を走っている人がいる感覚がなく「天才かもしれない」なんて有頂天だったこともあります。しかし、実際はそうじゃなかった。自分なんて「まだまだだ」と実感し、その日から「数では負けない」と決めました。こうした自分の経験をもとに、GRAPHのデザイナーはデザイン作業はもちろん、営業もしています。そして、若手デザイナーの才能を知るためにも、アイデアは尽きるまで出してもらっています。

(つづく)


北川一成
1965年兵庫県加西市生まれ。 87年筑波大学卒業。89年GRAPH(旧:北川紙器印刷株式会社)入社。
“捨てられない印刷物”を目指す技術の追求と、経営者とデザイナー双方の視点に立った
“経営資源としてのデザインの在り方”の提案により、地域の中小企業から海外の著名高級ブランドまで多くのクライアントから支持を得る。
著作に『変わる価値』(発行:ワークスコーポレーション)がある。


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「人間力」と「造形力」を高める、デザインの学校「北川一成デザイン専門クラス」

2014年12月13日(土)開講
講義時間 13:00 – 17:00
定員 50名
講義回数 8日間
開催場所 東京・表参道