身体とメディアの未来
スマホもクルマも将来タダになる?
田端:最後の質問です。高城さんは、世界中を移動することに並々ならぬこだわりを持たれているし、しかも移動しながら身体も鍛えている。最近、五感で感じる全体の情報価値についてよく考えていて、いくらいい体験をしても五感を研ぎ澄ましていないと意味がないから、身体を鍛えることの意味ってそういうところにあるのかなと思っているんです。どうですか?
高城:身体性ということでいえば、メディアってこれまで身体の外にあるものだったけど、どんどん身体の中に入ろうとしているよね。家の隅にあった電話を持ち歩くようになって、ウェアラブルになって身体にくっついて、最近は耳の中に埋め込んだり、コンタクトレンズ型になったり。DNAでかかりやすい病気も分かるようになったり、動かない足をロボット化すると、以前の状態より良くなるなんてことも起きる。その先に何が起こるか。今、30センチぐらいの小さい自分を携帯する研究が進んでいるんですよ。持ち歩いて、ちょっとコーヒー買ってきて、みたいなことができる。
田端:小さい自分? それって、ペットみたいなものですか?
高城:そのロボットが小さくてかわいいと社会的なハードルが高そうだなと思っているんですよ。でも、聖なるおじいさんのようなキャラクターにすれば、おそらくそのハードルを超えられると思うんだよね。
田端:でも、ペットロボットの「アイボ」を捨てても、「あの人、ひどい」とはなりませんよね?
高城:世代と人によるよ。この間日本の大学生に彼女と別れた話を聞いていたら、彼女と会って別れ話をした瞬間は泣かなかったんだけど、ケータイのデータを消した時に涙が出たんだって。
田端:どっちが本体でどっちがサブなのか分からないですね。
高城:テレビが壊れても悲しくないけど、スマホが壊れたらすごく悲しいと思う。スマホは個の象徴で、一方的に情報が来るテレビはそうじゃない。個の象徴になるものが生き残る。
田端:若者のクルマ離れも、アイデンティティの象徴じゃなくなったからなんでしょうか。
高城:将来、タクシーもクルマもスマホもタダになると思います。クルマやスマホそのものがメディアになって広告費で運営されていくんじゃないかな。
田端:僕は雑誌メディアの出身で、広告クリエイティブという“食べ物”をいかに美味しそうに見せる“お皿”や“テーブルセッティング”が広告メディアの役割だ、と思ってやってきたところがあるんです。でも、そんな情緒的な世界は…リアルタイムビッティング(RTB・自動入札)の世界では古き良きノストラジーかもしれないですね。
高城:確かに、そういう感性はどんどんなくなっているよね。
田端:でも、RTBのような広告をうまく使えたら、タクシーを無料にしていくくらいのポテンシャルはあるわけだから、広告ビジネス自体には面白い未来が開けていますよね。
高城:RTBって安く買いたたくイメージがあるけど、価格が変動するということは、逆に青天井に吊り上がっていく可能性もあるわけですよ。今後、あらゆるものがビッティングになっていくと思います。ホテルのネット予約料金はもう変動制になっているわけだから、次はレストランとかね。サーバーやロボット開発に投資して、そういう仕組みの提供者になったところが全ての広告を支配して、勝者になるでしょうね。
電通報でも記事を掲載中
高城 剛 氏
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。著書に『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。自身も数多くのメディアに登場し、NIKE、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。総務省情報通信審議会専門委員など公職を歴任。2008年より、拠点を欧州へ移し活動。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。
田端 信太郎氏
LINE 上級執行役員 法人ビジネス担当。1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。リクルートでフリーマガジン「R25」の立ち上げを行う。2005年、株式会社ライブドアに入社。ライブドアニュースの責任者を経て執行役員メディア事業部長となり、ライブドアのメディア事業の再生をリード。2010年、コンデナスト・デジタルのカントリーマネージャーに就任。VOGUE/GQ/WIRED等のクロスプラットフォーム化とデジタル事業開発を担当。2012年、NHN Japan(2013年LINEに商号変更)執行役員に就任、広告事業部門を統括。2014年、上級執行役員 法人ビジネス担当に就任。著書に『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(ディスカヴァー21、共著)、『MEDIA MAKERS-社会が動く「影響力」の正体』(宣伝会議)がある。
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