<パネラー>
- 良品計画 代表取締役会長 兼 執行役員 松井 忠三 氏
- amadana 代表取締役社長 兼 ハイアールアジア CCO 熊本 浩志 氏
<モデレーター>
- 田中 里沙
まだ見えていないライフスタイルを提案する
——生活者が潜在的に求めているものを、どのようにつかむのか。また、マーケティングに対する考え方についてお聞かせください。
松井:私たちは年間17万件くらいお客さまからメールや電話で情報をいただきます。そこでいただくご意見や要望を取り入れて商品化することを得意としています。商品開発においては、私たちが「シーズ」と呼んでいる、まだ世に出ていないものや、まだ見えていないライフスタイルを提案しなければうまくいかないと、経験から学んでいます。
そこで、私たちは中心となる顧客層を対象にしたオブザベーションという訪問調査を、国内外で実施しています。2LDK、3LDKといった住宅にお住まいの家庭を訪ねて、冷蔵庫の中や浴室などのさまざまな生活シーンを写真に撮らせていただき、そこからシーズを探り商品開発の発想につなげています。
熊本:日本のメーカーはきちんと開発して、量産化のチェックが完了してからしかリリースしません。ですが、私たちはインターネットの世界では当たり前になっているβ版を先にリリースして、そこで出た改善点や問題をアップデートするという手法にも取り組んでいます。
私がメーカーをやっているのは、利益を出すには効率が悪くても、自分自身、ものづくりが好きだからです。企業規模はまだまだ小さく、資源や資金、人員など、リソースが限られていますから、その中で効率的に認知度を上げていかなければなりません。
これまではプレスリリースをディアに取り上げてもらい、多くの人にリーチさせるというのがほぼ唯一の方法でした。しかし、インターネットが発達して情報量が増えたことで、情報がスルーされてしまうため、それだけでは認知獲得が難しくなりました。そうした時代においては、プロトタイプを先に発表してファンを獲得。ファンが周囲に情報発信してくれ、その力が商品をメジャーに押し上げるような、プロセス自体をムーブメントにするようなマーケティング手法が大事になっていると思います。
——松井会長は「外に学ぶ哲学」という言葉をお話しになっています。商品開発における、世界から情報を取り入れる仕組みを教えてください。
松井:仕組みとしては「Found MUJI」と「World MUJI」があります。商品開発を担当するマーチャンダイザーが世界中を見て歩いて、現地で長く使われているものを見つけます。ただ、そのまま日本に持ってきても市場に合わない、違和感があることも多いので、そのものの良さを無印のコンセプトに照らし合わせて変えていく。これがFound MUJIです。
World MIJIというのは、無印良品が世界中で展開していく中で、日本の発想だけでは消費者のニーズを満足させられないことがでてきます。そこで、無印のコンセプトに基づいたものづくりを世界で活躍するデザイナーやクリエイターと一緒に行うことで、世界のどこへいっても通用するような機能とデザインを実現しようとするものです。
——モノとサービスモデルが接近している現在において、商品開発はどんな風に変化していますか。
熊本:商品の価値というものが、機能価値から顧客体験価値に移行しています。そこで私たちは、ハードウェアのサービスモデル化を行っています。先日発表したハイアールの「off ice(オフ・アイス)という事業では、オフィスにハイアールから冷凍庫を無償で提供し、その中にアイスクリームやスープなど、食材を入れて販売するというビジネスモデルです。そうすると継続的により多くの利益を生むことができるのです。
サービスありきで、ハードウェアが手段になるということはメーカーにとっては自虐的な、自身のポジションを否定するようなことですが、メーカーという企業のあり方がこれから変化していくと思っているので、このようなことに取り組んでいます。
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