ポスターでエールを交換、あの早慶戦ポスターはこうして生まれた

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5月30、31日の2日間、東京六大学野球が開催された。“華の慶早戦”、試合が盛りあがったのはいうまでもないが、今年は試合前にもう一つの盛り上がりを見せていた。それは、事前に掲出された早慶戦・慶早戦を告知するポスターである。

「ビリギャルって言葉がお似合いよ、慶應さん」「ハンカチ以来パッとしないわね、早稲田さん」と、挑発しあうチアリーダー。「慶應に負けた優勝など、したくない」 「早稲田から勝ち取る優勝に、意味がある」と、野球部もにらみ合う。そして、応援部、吹奏楽部、さらには両校のキャラクターたちまで…。掲出後、開催の1週間ほど前からネットで一気に広まり、またたくまに世の中の注目を集めた。

実はこのポスター、コピーライター近藤雄介さん(電通)の自主提案によって完成したもの。

近藤さんは、社会人2年目。慶應義塾大学応援指導部リーダー部OBである。2013年には、神宮球場で早慶戦・慶早戦の応援を仕切っていた。

当時、早慶戦・慶早戦の観客は“ハンカチ王子”が活躍した頃に比べ、減りつつあった。「応援は、人を呼ぶところからはじまっている――これは、応援指導部の先輩から教わった言葉です。應援指導部の使命は、観客を応援団にすることであり、当時、僕はこの言葉を胸に、なんとか観客を増やせないかともがいていました。しかし、メディアで注目を集めるのはプロスポーツや、お金のかかったイベントばかり。学生野球に世間の目が向けられることは、ほとんどありません。本当に悔しいことに、球場を満杯にするという目標を学生時代に達成することはできませんでした」。

「誰かを応援する仕事に就きたい」という思いから、広告会社に入社。力をつけて、いつかきっと、頑張る体育会の選手たちを広告で応援したい――。そんな思いを抱いていた。そして今年、コピーライター養成講座「先輩コース」の授業で、講師の阿部広太郎さんから「自分にしか書けないコピーを書こう」と学んだことがきっかけとなり、近藤さんは今年の早慶戦・慶早戦に何とかして人を集めるべく、現役の応援指導部員たちと企画会議を設けた。どんな言葉で伝えれば早慶戦に行きたくなるのか、近藤さんは毎晩考え続け、現役の学生たちに何度もヒアリングを重ねたという。

そこで、気づいたこと。それは、「現在の早慶の学生は、ライバル意識が低いのではないか」ということ。「慶應だから、早稲田を倒したい。早稲田だから、慶應を倒したい。そう考えているのは、体育会などの一部の学生だけなのではないか。そんな学生たち、さらにはOBOGに向けて、“早慶戦って、野球部だけの戦いでなくて、応援合戦、さらにはお互いのプライドをかけた戦いですよね”というメッセージを伝えたい。心のどこかに眠っている愛校心を、くすぐりたいと考えました」。

完成したのは、「エール交換ポスター」だ。東京六大学野球、さらにはスポーツには、エール交換に代表されるように、昔から伝わるお互いを讃えあう文化がある。同時に、闘う相手に対する信頼がある。「大好きだけど、イチバン倒したい相手、それが早慶の関係性だと思います。相手を尊敬しているからこそ言い合える。“くすっと笑える、早慶戦っていいな”、“ライバルっていいよね”、そう思ってもらえたら」。

そして、なによりも選手たちの一生懸命な姿は見ている人の心に届く――。近藤さんはこうしたことこそ早慶戦・慶早戦の最大の魅力ととらえ、ただあおるのではなく、相手を尊重したコピーを書くことに徹した。

自主提案ゆえに予算はほとんどなく、デザインは電通同期のアートディレクター 矢部翔太さんが引き受けてくれた。カメラマンはいつも東京六大学応援団を撮影してくれている、横溝浩孝さんに依頼。両校の部費で賄い、撮影費、印刷費5万円でポスターは完成した。

それがSNSでつぶやかれたことをきっかけに、全国紙などでも記事になるほどの反響に。情報番組でのテレビ報道にまで発展した。実は、SNSで話題になった時、1枚もポスターは貼られていなかったのだ。「広告メッセージは相手に届きにくいと言われる昨今ですが、三田にある喫茶店の片隅で現役部員と考えてきたものが、こうして多くの人に伝わったのは、とてもうれしいことでした。“あれ、うちの部活のポスターだよ!”、そう胸を張る應援指導部の1年生の姿や、“今週は早慶戦らしいよ”という電車のなかでの声、“早慶戦って、なんか楽しそう”という声が、本当に嬉しかったです」。

当日は、ポスターの背景のみを拡大した「ふたりで撮ろう」ボードも設置した。

早慶戦・慶早戦当日、このポスターは神宮球場にも貼り出された。このポスターの前で、記念撮影をする人たちも続いた。当日は背景のみを拡大した「ふたりで撮ろう」ボードも設置。早慶戦に足を運んだ思い出を残そうと、多くのファンが撮影をした。また、5種類のビラを4000枚ずつ印刷し、観客全員に配るパンフレットにはさみこんだ。当初の予算では4部印刷することが限界だったが、反響の大きさを知った大学の同窓生から寄付が集まり、神宮球場でのパネル設置が実現できた。

そして早慶戦・慶早戦当日、30日の土曜日、球場は定員の3万4000人が埋まり、31日も消化試合ながら3万人が押しかけた。まさに、ハンカチ王子以来の大入り満員となったのである。「その光景は1年生の時に観た、2010年秋の早慶優勝決定戦のようでした。観客動員数も、ハンカチ以来パッとしませんでした。あのとき目にした光景を、後輩たちにも知ってほしい。優勝を決める瞬間は、満員の神宮であってほしいと思っていました。早慶戦・慶早戦は1年に2回やってくる戦い。これを機に、いつまでも神宮球場のスタンドが、好ゲームを期待する学生達でいっぱいになることを願っています」。


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スタッフリスト

企画+C
近藤雄介(電通)
AD+D
矢部翔太(電通)
撮影
横溝浩孝

ECD:エグゼクティブクリエイティブディレクター/CD:クリエイティブディレクター/AD:アートディレクター/企画:プランナー/C:コピーライター/D:デザイナー/演出:ディレクター/TD:テクニカルディレクター/FLASH:flash制作/ME:マークアップ・エンジニア/PGR:プログラマー/EPR:エグゼクティブプロデューサー/PR:プロデューサー/PM:プロダクションマネージャー/AP:アカウントプランナー/MA:録音/ST:スタイリスト/HM:ヘアメイク/CRD:コーディネーター/I:イラストレーター/CAS:キャスティング/AE:アカウントエグゼクティブ(営業)/NA:ナレーター

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