露出量(GRP)ではなくクオリティ重視へ
従来のテレビCMにおいては、GRPという延べ視聴率を元にそのキャンペーンの効果を類推することが基本となりがちでした。
GRPは、広告の到達率と広告接触の頻度を掛け合わせることで計算できますが、ここで問題となるのは、GRP自体が露出量を元にした指標で、計算式の中にテレビCMの質の要素が入っていないため、GRPをもとに効果を議論すると実際に広告枠に露出をするテレビCM自体の出来というのが忘れられがちな点です。
つまり、どんなテレビCMにおいても、同じ広告予算で同じだけのテレビCM枠を買えば、同じGRPになるという計算式になっているため、どうしても意識が広告枠の量に行きがちで、広告枠に流すコンテンツであるテレビCM自体のクオリティの重要性が低く見積もられがちになるわけです。
一方でウェブの世界においては、クチコミの力が大きく作用するため、逆に良いコンテンツであればあるほどユーザーのクチコミで、無料でアクセスを集められることになります。
誰にも望まれないどころかノイズとして批判を集めてしまう可能性があるような宣伝動画に大金をかけて無理矢理露出するよりも、「踊る大宣伝会議」のようなユーザーが自ら探して何度も見たくなるようなコンテンツに投資をした方が、実は結果的に多くの人に見られ、共感や感動を生み、商品の認知向上やブランド価値の向上、ひいては売上の貢献に向上する可能性が見えてきているわけです。
こうしたネスレのコンセプトシネマと同様の企業自らコンテンツに投資するというアプローチは、徐々に拡がりを見せています。
例えば、キヤノンマーケティングジャパンでは、連続webドラマとしてEOS 8000Dを軸にした「遠まわりしようよ、と少年が言った。」という各10分ほどの10本シリーズのショートフィルムをYouTube上に公開しています。
こちらのドラマでは、監督に「ROOKIES」などで有名な山本剛義氏を起用し、佐野元春氏の書き下ろしのテーマソングをベースに、主人公の光石研氏が演じる主人公が自分の人生を見つめ直す感動的なストーリーとなっています。
こちらのドラマは、EOS 8000Dのターゲットである40代~50代の男性がメインターゲットとなっているストーリーで、EOS 8000Dが主人公の相棒として重要な役割を演じています。当然、EOS 8000Dのプロモーションとしての広告的コンテンツではあるのですが、「踊る大宣伝会議」同様、非常に高い完成度のドラマのため、視聴者からすれば「広告」ではなく「コンテンツ」として楽しめる作りになっています。
実際、ドラマの動画は累計で150万回以上再生されているようで、好意的な反応が多かったようです。
もちろん、こうしたコンテンツをただ作れば大勢の人に見てもらえるというのは、幻想であることも事実です。
ご紹介した2つの事例も動画を見てもらうための広告費はかけており、だからこそ大勢の人に見てもらえているとは言えます。
ただ、ポイントとなるのはこれらの動画が「コンテンツ」であるからこそ、コンテンツが多数並んでいるYouTubeにおいて広告枠で露出しても喜んでユーザーに見てもらえるという構造です。
先日の「私たちは、良い広告を作るだけでなく、広告自体を人々にとって良いものにするための努力をすべき」というコラムで、シンディ・ギャロップ氏の「私たちは、良い広告を作るだけでなく、広告自体を人々にとって良いものにするための努力をすべき」という発言をご紹介しました。
まず広告枠の露出量ありきで考えると、ついつい予算の大半を枠を抑えることに使ってしまい、ユーザーにノイズとして受け止められてしまう広告を、ノイズとして大量に露出する結果になりがちです。しかしそれでは実はごく少数の人が反応してくれるだけで一部の人は反発すら感じてしまう結果になるかもしれません。
それであれば、ユーザーにコンテンツとして受け止めてもらえる広告を作ることにまず集中し、その反応が良いことが確認できてからはじめて広告枠を使うことを考えても良いのではないか、とも言えます。
本来はネイティブアドというのも、そんなコンテンツとして見てもらえる広告を、より多くの人に見てもらうための手段として確立されたものだと言えるでしょう。
広告枠の予算の確保から考えるのではなく、まずはコンテンツへの投資から考える。少なくともウェブ動画の世界では、そんな発想の逆転が求められ始めている気がします。
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