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「リスクフルな社会を生き抜く企業に、報道されないドラマがある」——『リスクの神様』プロデューサーが伝えたかったこと

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「あらゆる企業にリスクはつきもの。その裏にある人間ドラマを描きたい」——。そんな成河広明プロデューサーの長年の構想から生まれたのが、フジテレビ系で7月から放映中のドラマ『リスクの神様』だ。ネット上での「炎上」が相次ぎ、広告・広報の仕事に携わる企業やプランナー、クリエイターにとってもあらゆるリスクは無縁ではない。企業コミュニケーションの視点から、ドラマに登場する危機対応の見どころに迫った。

※本記事は『広報会議』9月号に掲載されているものです。

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成河広明(なりかわ・ひろあき)
フジテレビ 編成制作局 総合編成センター 編成部 企画担当部長

1994年入社。編成部で、ドラマの企画を担当。主な作品に、『デート~恋とはどんなものかしら~』、『リーガルハイ』シリーズ、『謎解きはディナーのあとで』シリーズなど。

企業のリスクはプライベートの世界に入り込んでくる怖さがある

——企業の危機対策室が舞台のドラマが出てくるというのは、時代の流れを感じました。

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(C)フジテレビ

ドラマ化に向けて動き出したのは、2014年の夏ごろからですね。僕自身、10年以上前に雪印やミートホープなど食品関連のリスクが多発した当時から、危機対策というテーマに個人的な興味があったんです。

ひとつ道を誤ると、どんなに優良企業であっても一気に転落してしまう。その怖さをフィクションの世界で描いたらスリリングだし、まだ誰も観たことのないドラマになるだろうなと。スタッフとともに国内外の危機管理の専門書を色々読んで、その中で危機管理コンサルタントの白井邦芳さんにも取材させていただき、監修をお願いすることになりました。

企業の広報活動の側面から言うと、どんな事件にもマスコミ対策が必要ですので毎回、メディア対応のシーンが出てきます。広報部もありますが、不祥事が起きた際の公式発表や記者会見を仕切って、社内の関係者にメディアトレーニングをさせるのも危機対策室の役割だと位置付けています。

——広報担当者にとっても、危機管理というのは永遠の課題です。「守り」の広報とよく言われていて、やはり発生して初めて危機管理の重要性に気付く、という側面もある。いかに経営陣の理解を得てリスク対策を会社として万全に進めていくべきか、が共通課題です。

(C)フジテレビ

僕は最初のスタッフとキャストの顔合わせで毎回、同じ話をするんです。「テレビドラマは時代を映す鏡であるべきで、一種の社会的なテーマが必ず伴うものだ」と。

そういう意味ではまさに2015年の今は、相当リスクフルな社会だと思います。ネットで叩かれるような企業や個人が出てくると一気に拡散して広がって、ネガティブな世論が生まれてしまうケースも増えていますよね。それが決していい社会だとは僕は思わない。かといって、企業の広報活動も危機対策も正解があるわけではない、という難しさもある。

ドラマには一種のリアリティとエンターテインメント性が必要ですから、この作品で描きたかったのは危機対策の現場はもちろん、リスクの裏で起きている個々人の人間ドラマなんです。

第一話で「危機に直面した以上、無傷ではいられない。地位、仕事、家族、恋人、名誉、プライド……すべてを守ろうとしたら何も守れない」という西行寺智(堤真一)のセリフがあったように、謝罪会見に出ている人にもプライベートがあるし、家族がいます。もしも自分の父親が頭を下げているニュースがテレビや新聞に出たら、その子どもは、奥さんはどんな気持ちでいるんだろう……と想像すると、企業のリスクはビジネスの境界線を越えてプライベートの世界にも入り込んでくる怖さがあります。

西行寺は「リスクの神様と呼ばれている男」という触れ込みで登場しますが、第二話で彼は「我々は神じゃない。すべてを救えるわけじゃない」と言うんですね。つまりどんなに万難を排したとしても、リスクというのは誰しもコントロールしえない「神のみぞ知る」の世界。どんな人もリスクに直面する可能性はある、というメッセージなんです。

会社勤めか否かにかかわらず、「もしかすると明日、自分の身に降りかかるかもしれない……」と感じてもらえたら、エンターテインメント作品としては成功だと思っています。でも小さい子が観たら夢がなくなっちゃうので(笑)、一般的に言う“大人”に楽しんでほしいです。

次ページ 「青臭い正義論では終わらない 複雑な葛藤が企業にはつきもの」へ続く