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「あいうえお作文ラップ」で平和を歌おう 静かに広がる参加型動画プロジェクトの舞台裏

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「へ=へっぴり腰でもいいのです い=いっぱい歩くデモの列 わ=輪になるギロン all day long…」。「へいわをねがう」の7文字であいうえお作文を行い、それをリズムに乗せてラップで読み上げ、最後は「う=WE LOVE MUSIC,WE LOVE PEACE.」で締めくくる。7月24日から放映されているスペースシャワーTVの新たなSTATION IDには、いとうせいこうさんや二階堂和美らミュージシャンはじめ、年齢、職業、国籍もさまざまな人たちが出演する。

 

この「あいうえお作文ラップ PROJECT」を企画したのは、ディレクターのくろやなぎてっぺいさんだ。くろやなぎさんは、東日本大震災後に結成された“社会問題に映像で取り組む”映像クリエイター集団「NOddIN」の一員で、今回のプロジェクトもスペースシャワーTVとNOddINのコラボレーションとして実現した。スペースシャワーTVでは、2005年に一度「WE LOVE MUSIC,WE LOVE PEACE」をテーマにNOddINのメンバーでもある丹下紘希さんが制作したステーションIDを流している。

今回の動画も、戦後70周年を迎えたタイミングで「再び一緒に何かできないか」との同社からのオファーを受け、NOddINのメンバーで案を出し合い、くろやなぎさんの案が採用された。「平和について、皆実際どう考えてるんだろうか? それを知りたい、という動機から生まれた企画です。ラップは言葉が全面に出る音楽です。あいうえお作文なら皆知っているし、音源を持ち歩けばマイク一本で収録できる。年代も性別も幅広い人に参加してもらえる企画として考えました」。

「あいうえお作文」の中には、それぞれの人の平和観や人生観が凝縮されている。「作文をするという企画がよかったと思います。この撮影自体が、考えを集約し、平和との向き合い方を整理するプロセスになっているんです。誰でも、一度やったらいいのではないかと本気で思っているくらい」とプロデューサーの高橋聡さんも話す。

出演するほとんどの人にとっては、これが「初リリック(作詞)」かつ「初ラップ」。音楽が生まれる瞬間に立ち会えるのも、このプロジェクトをやっていて「幸せに感じる点」だとくろやなぎさんは言う。「ラップの完成度ではなく、その方の人柄が出ていたり、表情や発声などトータルで作文の思いが伝わるテイクを選んでいます。感覚的にグッとくる瞬間がどの人にもあるので、そこを見逃さないように何度も撮影したビデオを見返しています。特に歌い終わった後の表情が、緊張から解放された時にその人らしさが出ていていいですよ(笑)」。

 

Webサイトは、カヤックのアートディレクター、佐藤ねじさんが協力。「アイデアに共感し、参加させてもらいました。素材がいいのでなるべくストレートに、見る邪魔にならないようデザインしています。トップページに並べてサムネイルをGIFアニメで動かすことで、それぞれの動画に興味を持ってもらえるように工夫しています」。

サイトには、同じあいうえお作文の仕組みで南相馬の人たちに取材した「みなみそうまVer.」も収録している。「やっぱり、行ってみないとその場所にいる人たちの気持ちはわからない。この作文をきっかけにどんな気持ちで書いたの?と会話を広げて行くこともできる。将来的には、こうしたバックグランドも公開できたらいいと思っています。ただ行って収録するというのはなく、一緒に農業をするなど、コミュニケーションの時間を取ってから収録をお願いするようにしています」とくろやなぎさんは話す。

参加したミュージシャンやNHKの「ふくしまをずっと見ているTV」などで取り上げられたことも追い風に、視聴はじわじわと広がっている。映像クリエイターの知人の中には、自分でも独自にあいうえお作文ラップの映像を作ってアップしてくれた人もいるという。「今は自分たちスタッフだけで作っていますが、そうやって広がっていくといいなと思っています。異なる人種、宗教などできるだけ多彩なバックグラウンドの人に参加してほしいと思っていて、そこから最大公約数的な平和の姿が見えてきたならうれしい」とくろやなぎさん。決して声高ではなくやわらかく、だが心の深いところから引き出された平和への思いが集まった唯一無二の場として、静かな存在感を発揮している。


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