『火花』は読めば読むほど、深みにはまっていく
森山裕之:浅井さんは『火花』の担当編集として、“最初の読者”ですね。昨年のちょうどいま頃は、まさに執筆していた時期ですか?
浅井茉莉子:9月ごろから書き始めていただいたので、そうですね。校了したのが12月の半ばなので、実質3カ月という、あまり時間がないなかでの執筆だったと思います。とは言っても、わたしはただ原稿が届くのを楽しみにしていただけですが。最後の最後まで又吉さんに細かくゲラを見ていただき、アドレナリンが出ている状態だったので、脱稿したときの脱力感はすごく覚えています。
森山:最初からあのラストだったんですか。
浅井:又吉さんはラストを決めずに書かれていたみたいです。徳永が最終的にどうなるのかと途中で聞いたところ、「彼が芸人として成功するのかどうかも決めていない」とおっしゃっていて。段階的に読んでいましたが、全部読み終わったときは、素晴らしい作品をいただいたなと思いました。読めば読むほど、又吉さんの考えている深みにはまっていくというか。
森山:僕は、初めてこのラストを読んで、これは彼にとって一生に一度の作品ではなく、「次もまたきっと書いてくれる」と感じて嬉しかった。これは編集者としての感想です。一読者としては、神谷の彼女・真樹さんに恋をしてしまった(笑)。本当に素晴らしい青春小説でした。
九龍ジョー:僕は、1ページ目から花火大会のスタンドマイクが音を拾う・拾わないっていうシーンが出てきて、「あ、これは又吉直樹にしか書けない小説が始まったな」と思いました。その後も、スタンドマイクが要所要所で重要な役割を果たしていますよね。
森山:それは九龍くんならではの読み方だね(笑)。3人が変顔して遊ぶところ、あれは最高だと思いました。誰もがそれぞれ持っている、なんでもないんだけど大切な瞬間ですよね。
九龍:真樹さんが隠れて“あっかんべー”しているところ、良いですよね。男2人と女1人で、『冒険者たち』とか、ああいう青春映画の感じが。
森山:『はなればなれに』とかね。数年後、徳永が真樹さんを井の頭公園で見かけるシーンも良かったなぁ。
浅井:ああいうシーンは書かずにはいられないというか、又吉さんも気持ちが抑えられなかった部分だったとうかがいました。又吉さん自身も、もっと抑えて書いたほうがいいんじゃないかと悩まれたところもあったみたいですが、結果的にはとても良い場面ですよね。
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