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「その言葉がない世界とある世界で、一体何が変わったのか」谷山雅計・尾形真理子対談

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コピーライティングのバイブルであるベストセラー『広告コピーってこう書くんだ!読本』。その実践・指南編として書き下ろされた『広告コピーってこう書くんだ!相談室(袋とじつき)』の発刊を記念して、著者の谷山雅計氏と、コピーライターの尾形真理子氏による特別セミナーを11月14日に開催した。本のタイトルにちなんで、コピーに関する疑問について二人が率直に答えるという“リアル”な相談室となったセミナーの模様をレポートする。

谷山氏は冒頭、「今日は本を買ってくださった方へのお礼の会なので、少しは皆さんのお役に立てるような話をしたい」と話した。著者の谷山氏とコピーライターの尾形氏の出会いは、15年ほど前、尾形氏が大学3年生の時に通っていたコピーの学校。谷山氏はその当時から、彼女に光るものを感じていた」という。最初は、そんな尾形氏から谷山氏へ質問が投げかけられた。(以降、敬称略)

この本がコピー上達のきっかけになれば

谷山雅計氏

Q:尾形:本に書いてあることで、実際にやってみると難しいと思うところ、読者に伝わりにくいと感じているところは?

A:谷山:この本に「名コピー=名言なのか」というテーマについて書いたところがあります。広告コピーは素晴らしい表現や含蓄のある言葉でなければならないのか、という疑問に答えている部分です。お茶会で使う茶碗に染め付けた絵を例にしている部分ですね。

茶碗に“名のある絵師が描いた絵”があるとそれだけが目立ってしまう。でも茶碗に描いてある絵はあくまでも装飾です。茶碗に大事なのは、それを使って良いお茶会ができること。“子どもが描いた絵”くらいの方が、絵が主張しすぎず茶碗としての役割をしっかりと果たせるのではないか、ということを書いています。コピーも同様で、普通の言葉であっても、結果として機能するコピーの方がよいと思っています。この部分は、頭では理解してもらえるのですが、うまく伝えて具体的に実践してもらうのが非常に難しい。

そのひとつの例かもしれませんが、コピーライターは造語や新語を作りたがるんです。もちろんうまくいくと、非常に効果的なんですよ。でも、日常でいつの間にか定着している言葉、“既聴感”のある言葉をまったく違うシチュエーションに置くと、受け手にとっての心地良さや新しい発見を伝えられるという方法もあります。広告は、「いまから商品にとって都合のいいことを言います!」ということがあらかじめわかっている表現ですよね。そのような状況ですから、私は、新語や造語を使うというのは、なにかうまく騙そうとしているように思われる恐れもあると感じるんです。

尾形:本には、東京ガスのキャンペーンコピー『ガス・パッ・チョ!』が生まれるまでのノートが掲載されていますよね。ここを読むと、谷山さんが、すでに世の中にある言葉を拾って普通の言葉でコピーを書いているのがわかり、そのあたりにヒントがたくさんあるような気がしますね。実は、私この本を読むのにとても時間がかかったんです。説明が的確すぎて、読んでいるだけで自分も同じことができると錯覚してしまう気がして。でも、実践するのは難しいですね。

Q:尾形:中でも、将軍コピー(キャンペーンコピー)を書くための8つのポイントのひとつ、「それ、すべてを引き受けられますか」という点が一番難しいと思います。この“引き受ける”とはいったいどういうことなんでしょう。

尾形真理子氏

A:谷山:一番広い意味なら「クライアントの会社がやっているすべての活動を包含できるコピー」ということです。でも「企業のすべてを引き受ける」という仕事はそうありません。実際は、「この商品のこのおいしさを引き受ける」くらいの大きさのこともあります。実は、この「引き受ける」ところで自分は、それほど悩んだことがないので意表を突かれました。「物事を俯瞰して見る力」については、他人より優れているかもしれません。要するに、「東京ガスって会社はひとことで言うとこんな会社だな」と、全体をざっくりと把握する力には自信があるんです。

尾形:私は「コピーが書けている」と思えるまでに8年くらいかかりました。その間は、この部分で悩んでいた気がします。袋とじの中のノートに書かれたコピーの“大きな切り口”の一つひとつが、この「俯瞰して見る力」を養うきっかけになる気がします。このレベルで「視点を散らかす」のはそんなに簡単じゃないと思うので、ここは「視点を散らかす」ヒントをたくさん伝えてくれていると思います。

谷山:2冊の本でいろいろ書きましたが、コピーの書き方を伝えるのは本当に難しい。けれども、この本がコピー上達のきっかけになればと思っています。コピーに大切なのは、その言葉がない世界とある世界で、一体何が変わったのか、ということ。世界といっても、ご近所レベルの世の中でもいい。ただ、変化を起こせないコピーは極端に言えばコピーではありません。世の中や、企業、商品にとって、「その言葉があることで何が変わるか」というのは、自分の中で大切な指標です。そこが弱いのに技術的によく書けたなというコピーはそれほどすごいと思わないんですよね。
例えば、香川県のコピー「うどん県」なんて素人でも書けそうな言葉でしょ。でも、あの言葉を作る前と後でいろんなことが変わった。茶器の話につながるけれど、誰にでも書けそうだけれどその前後で変化が起きるようなコピーを書けるようになるのが大切なことだと僕は思っています。

次ページ 「セミナー参加者からの質問」へ続く


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