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コラム

都市を未来へと動かす「シビックプライド」

シビックプライドとシティプロモーション

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伊藤:こんにちは。私は東京理科大学で都市の研究をしていて、2006年よりシビックプライド研究会を主宰しています。シビックプライドについては紫牟田さんからも説明がありましたが、都市に対する市民の誇りのこと。ここをより良い場所にするために自分自身がかかわっているというような、当事者意識に基づく自負心、という風に言い換えることができるかと思います。

シビックプライド研究会 代表 伊藤 香織 氏

イギリス・バーミンガムのまちの美化キャンペーンでは、「You are Your city」というメッセージを送っています。みなさん、自分の庭や部屋にガムをポイ捨てしたり、タバコを捨てたりしないですよね。ですが、もしまちでそれをやってしまう人がいるとしたら、なぜか。それは自分の場所だと思っていないからです。捨ててもかまわないや、という意識があるから捨ててしまうのだと思います。ですから、バーミンガム市は「まちにゴミを捨てるのをやめましょう」と言うのではなく「あなた自身があなたのまちなのです」と呼びかけているわけです。これはシビックプライドをよく表しています。

いきなり、まちに対するプライドを持ちなさいと言っても、日本とヨーロッパでは、市民性が形成されてきた過程が違うので難しい。まずはまちと私のかかわりを作っていくことから始められると思います。

例えば、まずはまちを知る。ドイツのハンブルグにあるハーフェンシティという湾港エリアの開発では、最初に情報センターをつくりました。古い発電所をリノベーションしてつくられ、計画が更新されるたびに、模型が更新されます。そうするとまちの人たちは、それを楽しみ遊びに来るようになります。お散歩がてら立ち寄って、カフェで夏はビール、冬はコーヒーを飲みながら、ここが変わった、と模型を見ている。まちがどうやってできていくか、大きな興味を持っているわけです。情報センターには工事現場を見るための展望台もあります。工事はどんどん進んでいくので、開発現場が変わると展望台の場所も移っていきます。ツアーもたくさんあります。

一方、日本の場合は、計画や工事中の姿を見せないことがほとんどです。仮囲いをしておいて、ある日それがなくなると、いつの間にか新しいまちができていることに気付く。ですが、ハーフェンシティではまちが人と一緒に育っていく。子どもたちは、どうやってまちができていくのかを見ながら育っていくわけです。

またパリのリュクサンブルグ公園の芝生には「芝生を使ってください」と書いてあります。日本の公園はいろんな看板や張り紙がありますが、たいてい「芝生立ち入り禁止」、「ボール投げはやめましょう」と禁止系のメッセージです。このメッセージの出し方を、「どうぞしてください」といったポジティブなものにするだけで、「あなたのことを信頼しています」とメッセージを送ることができるのではないかと思います。

まちと私のかかわり、という一対一の関係だけでなく、みんなで一緒に体験し、共有できると、まちが好きな人が増えるでしょう。その後、「じゃあ、自分にも何かできることがあるのではないか」という気づきになっていくのかなと思います。

まちとのかかわりをデザインする、といっても市、町のレベルもありますし、商店街のような小さなレベルもあります。いろんなまとまりがありますが、きっとどこかに「私は、ここのまとまりには親近感を覚える」という場所があると思います。近年は、そういう場所に対して「ここで私の好きなことをやりながら、まちが変わっていくのなら、まちにとっても自分にとっても面白いことだ」という風に思い、シビックプライドを持って活動する人たちが増えてきているように思います。