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[鶴屋百貨店×岸勇希のアイデア会議]熊本一愛される店をめざして—老舗百貨店の自己革新を共に歩む

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第5号(2015年11月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

【前回】「[石川県×早川和良さんのアイデア会議]県外からの視点と県内の突破力、その両輪が成功の鍵に」はこちら

注目企業の未来を形作る構想を言葉やビジュアルで表現し、実現に向けて力を尽くす。そんなクリエイターとパートナーシップを結んで大きな変革に挑戦し、着実に成功を積み重ねている経営者がいます。「伸びている企業の経営者のそばには、優れたクリエイターがいる」——経営者×クリエイターの二人三脚で他にない価値を生み出そうとしている事例を紹介します。


右)久我彰登
鶴屋百貨店 代表取締役社長

熊本市出身、1955年12月31日生まれ。宮崎大学農学部卒。1978年に鶴屋百貨店入社、1993年経営戦略室人事課課長、2001年取締役、2009年同総合企画部主管兼業務部主管を経て、2011年社長に就任。熊本商工会議所副会頭も務める。


左)岸 勇希
電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

2004年電通に入社。2008年に執筆した『コミュニケーションをデザインするための本』で、コミュニケーション・デザインという概念を広告業界に提唱。2011年に電通史上最年少で クリエーティブ・ディレクター、2014年にエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターに就任。広告コミュニケーションに限らず、商品開発やビジネス・デザイン、テレビ番組の企画・制作、作詞、空間デザインに至るまで、幅広い領域で活躍。

——お二人が出会ったきっかけは?

久我:5年ほど前、電通九州の熊本支社長から、岸さんの著書『コミュニケーションをデザインするための本』をいただいたのです。読んでみると、私にとって斬新な内容ばかり。この概念を取り入れれば、自社が今まで気付かなかった課題を発見し、改善していくことができるのではと感じました。折しも社長就任を控え、鶴屋がこれからも百貨店として成長を続けるためには、『自己革新』が不可欠だと考えていました。そのためには、我々の業界にはない考え方を持つ岸さんというクリエイターの視点と手法で、組織を揺り動かしてもらうのが良いのではないかと考えました。

岸:お会いするなり、久我さんから「百貨店という業態に未来はあるのか、一緒に考えて欲しい」と言われました。想定していたよりも本質的かつ大きな話だったので、面食らったのを覚えています。鶴屋は、創業から60年以上にわたり地域に愛され、業績も好調な百貨店です。それでもネットを使えば、いつでも、どこでも欲しいものが買えてしまう時代、決して未来が安泰だとは言えません。だからこそ、「この先50年、100年と事業を継続するために今何ができるのか」「そもそも地域の百貨店とはどうあるべきか」、凄まじい危機意識を持って動こうとしていている久我さんの期待に、何とか応えたいと思いました。

まず久我さんが示したのは、全社的な意識改革。自由闊達で自己改革できる鶴屋づくりでした。僕は、これを実現するため、社外の人間でありながら、「鶴屋イノベーション・プロジェクト」という社内プロジェクトのリーダーとなり、「社員の意識改革」と、それをベースとした「自己革新を続ける組織づくり」という、これまで取り組んだことのない新しいミッションに取り組むことになりました。

久我:仮に優れた手腕を発揮する経営者がいたとしても、いずれ会社を去るときが来ます。そのときに、社員自ら規律を維持して、会社が成長し続けることができるか。それが企業の文化というものだと思うのです。企業文化は永遠に完成しないものだと思いますが、それを常につくり続けようとすることが、経営者には求められています。

私が鶴屋を去っても、自律的に意識改革を続けていくような組織、常に新しい切り口で考え成長を目指そうとする企業の文化をつくりたい。そのために、まずは、組織を構成する「人」づくりが重要でした。

岸:企業の意識を変えるためには、推進を加速させる「アクセル」も大切ですが、阻害要素の排除、つまり「ブレーキの解除」がとても大切になります。そこでプロジェクトのスタートにあたって、全従業員を対象にしたアンケートを実施しました。鶴屋に対する率直な思いや不満、改善点などを従業員から聞くことで、ブレーキの正体を明らかにしようという狙いでした。アンケートの回答は久我さんを含め経営陣を通すことなく、直接僕に届くようにしたことで、リアルな課題が見えてきました。ここで僕は久我さんの本気を見ました。集まったさまざまな改善提案・課題意識のすべてを経営会議にかけ、一つひとつに対する所感と今後の対応方針を報告書としてまとめ、社員に手渡しで配布したのです。この対応に、従業員たちは衝撃が走ったと聞いています。

「鶴屋イノベーション・プロジェクト」で最初に実施した全社向けアンケートの報告書。

会社は今、自分たちの提案に対し、本気で向き合おうとしている。その覚悟を、ファクトをもって示したわけです。「アンケートはあったけど、結局何の反応もなし」というのは、人のモチベーションを著しく下げます。「本気で願えば、会社は変わるかもしれない」と社員が信じられることこそ、自由闊達にアイデアを出せる環境として不可欠な空気でした。この状態は逆に言えば、発言に責任が生じるということにもなります。極めて“健全なシビアさ”を社内に浸透させていったわけです。この一連のやり取りで、社内の雰囲気も、社員の顔付きもガラっと変わったのを覚えています。

久我:我々百貨店は、そうした新しい挑戦に対しては慎重で、保守的な姿勢を取り続けてきました。組織に根付く慣習というものですね。でも、ものづくりの現場では、失敗を恐れずにアイデア提案を続け、それを次々と形にしていく、ということを当たり前のようにやっている。企業の成長につながるイノベーションを起こすには、失敗しても再挑戦できる風土があることが重要だと考えました。お陰さまでプロジェクト当初は100件だった改善提案が、4年目を迎えた今秋に募集した際には約1000件も上がってきました。自律的に自己革新を遂げる組織づくりの第一歩を、ようやく踏み出すことができたと感じています。プロジェクトを岸さんと私の2人の間だけのものとせず、岸さんと現場社員が直接関わり合って進めていく体制にしたことも、改革の本気度を社員に伝え、モチベーションを高めることにつながったかもしれません。

岸:プロジェクトを通じ、鶴屋さんには毎月のように伺っていますが、久我さんとしっかりお話するのは年にほんの数回。ほとんど、現場社員の皆さんとやり取りするようにしています。経営層とだけでなく、現場とコミュニケーションを増やすことの大切さを感じています。

アイデアを生む人材を育てるための勉強会「鶴ゼミ」の様子。

次ページ 「11月にスタートした「鶴屋ラララ大学」とは?」へ続く


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