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【特別対談 古川裕也×山内ケンジ】クリエイティブディレクターが映画・演劇を、映画監督がCMを語る

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古川裕也×山内ケンジ

電通・エクゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター古川裕也氏とCMディレクターで劇作家、映画監督の山内ケンジ氏が、最近のCMや映画・演劇について語る。古川氏の著書『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』で語られたCD論と山内氏が監督した2015年12月19日封切りの映画『友だちのパパが好き』を題材に、世の中で話題になる映像コンテンツとはなにか、をテーマに対談いたしました。
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左)古川裕也氏、右)山内ケンジ氏

岸田國士戯曲賞受賞とその芝居について

山内:あ、古川さん、先日は、岸田國士戯曲賞のお祝い、わざわざありがとうございました。

古川:いえいえ。ほんとおめでとさん。

山内:おいしいごはんでした。あと、万年筆、大事に使っています。

古川:名前も入ってたでしょ。

山内:ありがたいことです。

古川:正式発表の前夜に知らせてもらって、あんなにマイナーで高級な脚本が受賞したことが、とてもうれしかったのを覚えています。黙っているのもケチなので、今まで2回しかつぶやいたことのないtwitterでも、と思ったんだけれど、4年ぶりくらいだったのでうまく投稿できなくて。惜しいことをしました。

山内:ほお。

古川:岸田國士戯曲賞は、基本、新人賞なので、芥川賞と近いと思うんだけれど、年1本だけあって、これまでの受賞作を見ても、選定の精度が芥川賞より高いと感じました。

山内:それはそうです。そうとうスモール・ワールドですから。

古川:ひどくわかりやすく言うと、ケンちゃんせんせいの戯曲は、チェーホフ→ハロルド・ピンター→岩松了の劇作家の系列で。つまり、すごく普通のリアルな日常なのに、ひとつ小さな何かが起こると、そこから少しずついろんなことがずれていって、何かとてつもないことが起こっているという。ま、リアルをベースにしていながら狂っていくという芝居だと思います。審査員のメンツ見ると、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、松尾スズキさん、当然岩松さんは手を挙げそうですが、どう考えても野田秀樹さんとか絶対支持しそうにないように思えますが。

山内:そうそう。明らかに僕はそっちの系列。おっしゃるとおり、ま、ACCとかでもそうだと思うけど、選考委員の指向で意見が分かれます。前年に「効率の優先」っていう作品も岸田の候補になったんですが、その時は、まさに野田さん、岡田利規さん、宮沢章夫さんは僕に反対でした。今回は、意外なことに、野田さん、岡田さんが支持してくれて決まったらしいです。

古川:受賞作の『トロワグロ』。タイトル最初に聞いたときは、有名フレンチ・レストランのことかと思いました。そこでのワンカットの舞台かと。ケンちゃん先生の脚本には、よく固有名詞とセックスシーンが出てくるので。てっきりフレンチ・レストランでセックスする旧華族の話じゃないかと。

山内:ちがいます。

古川:トロワ・グロテスク(Trois Grotesques)の略というのは、本人から聞かないとわかりませんね。あれは、はっきり3つのグロテスクなエピソードを想定してるの?単行本には、戦闘機をつくることが、「今的にはいい感じ」みたいなことが、グロテスクのひとつって書いてあるけれど。

山内:実はあのタイトルはそうとういい加減です。芝居の新作は、書き始めるはるか前にタイトルを決めなくてはいけないので。まずチラシからだから。見ようによっては三つどころか五つも六つもあるかもです。

古川:ふーん。そうですか。僕は見ていて、具体的にどれがグロテスクかというより、例によってエントロピー的に広がっていくエロ関係が、世の中の他のできごとや心情や態度に比べると、もっともグロテスクから遠い、というような意味かと思ってました。

山内:なるほど。むしろ逆説ですね。「最後の楽園」的な。けっこう穿った見方だけど、今にして思うとそうです。ペシミズム、いや、むしろ実存主義的ですね。

古川:ついこないだの最新作(『ナルキッソス』)でも、谷崎・三島的な階級社会と2015の現代とが感覚的には共存していて、最近の日本やばいんじゃないか的な言及もふりかけられていたけれど、その辺は意識的ですか。ま、ほのめかすだけなんだけど。それと、娘が言う「女中なんて、今読んでる『細雪』にわんさか出てくるけど」というセリフが平気で地続きで。これは、映画にはない要素だよね。

山内:意識的ですね。映画よりも、演劇の場合は、文芸の復権というと大げさだけど、それを、小劇場の中だけで閉じこもってやるんじゃなくって、今のマイルドヤンキーな時代の中に強引に取り込んで、そのちぐはぐさを描きたい、っていう気持ちがあるわけです。まだうまくいってないけど。でも、なんていうかな、ようするに抵抗したい。

古川:あと、全体のモチーフにもなっている「片腕」。書いていく初期段階から川端康成の有名な短編がアタマにあったように思えるんだけれど。「片腕を、一晩お貸してもいいわ。」という冒頭だけやたら有名なすごく短い小説です。

山内:うん。平岩紙ちゃんがほんとうに驚くほど白いから、白い腕だけでどこまで書けるかっていう。川端のフェチな狂気を借りるのは自然に出てきましたね。

古川:映画もすばらしいけれど、芝居も回を追うごとに、何て言うか、明らかに上達のようなことをしていますね。次回作について教えてください。

山内:はい。次の演劇は、「Wけんじ企画」と言って、城山羊の会ではなく、平田オリザさんとこの青年団とのコラボです。タイトルは「ザ・レジスタンス、抵抗」
今、言ったまさに「抵抗」です。僕と同姓同名の山内健司さんが主人公で、彼は54才なんですが、設定としてはインポになりバイアグラなどを試し抵抗する。でもそれは同時に今の社会に対する抵抗にも見えてくる。そんな内容です。

古川:それは人ごとではありません。

次ページ 「CMについて」へ続く

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