“東京流”のマーケティングは通じない
先ほどのこの串揚げ屋さんの場合、店内は40席ほどだった。お店のカウンターに2時間ほど座っていたところ、この日はどうにもこうにも私以外のお客がなかなか入ってこない。東京であれば大混雑してもおかしくないコスパにもかかわらずだ。
東京でよく一緒に仕事をする、ネットマーケティングを中心に活動している後輩にこのことを話してみた。すると「せっかく良いお店でも商圏が限られていると、ネットでの口コミが拡散しにくい場合もある。店の軒先で通行人に一口味見をしてもらう、あるいはサンプリングをするとか工夫が必要ですよね」とアドバイスをもらった。
だが、私はそんな後輩の言葉に少し違和感があった。
実際この店の近辺を歩いてみるとすぐに分かるのだが、繁華街とはいっても夜になると人通りはまばらだ。特に雨や雪の日など、歩く人の姿はほとんど見当たらないこともある。
「ここで、通行人に試食を……」というのは…ちょっと無理な話である。
マーケティングの「4P(Product、Price、Place、Promotion)」のうち、ProductとPriceの「コスパ」はとてもよい。それでも客足が少ない。こういう場合に、問題はPromotionであると考えがちである。
しかし、こうしたお店(新規の一見客などがあまりないが、競合店もあまりない。これ以上のコスパの向上は難しい)は、クーポンでディスカウントしたり、試食でトライアルをしたりして、顧客を一時的に誘引したところであまり長期的な効果はなさそうだ。むしろ、常連客(できれば熱烈な)に定着してもらい、客単価を下げずに維持しながら、ランニングコストは抑える。その上で客から客へと紹介(本当の口コミ)を広げてもらう、といった地道な施策が必要になるのではないだろうか。
「山形」をブランド化する
たまたま山形の串揚げ屋さんを例に挙げたが、他にも東京でのマーケティングに関する知見が東京以外の地域では活かせないことは意外と多い。私の感覚値ではあるが、「ブランド」に関する体感温度の違いも若干感じるようになった。
首都圏などではなかなか接することが難しい、美味しい食べ物、豊かな温泉資源、出羽三山や山寺など歴史遺産、独自性の高い文化やアートなどが、山形にいると身近に接することができる。地元出身の学生に言わせると、「こんなの普通ですよ」とのことだが、それでも私などはこうした環境がスタンダードとなっている現状に驚く。確かに東京で手に入る「最高級品」ではない場合もあるが、「比較的よいモノ」「よい環境」が、比較的「お手軽に」「お手頃に」接することができる。
これらの一つひとつがもっと「山形ブランド」として全国的に話題になってもおかしくないはずなのだが、どういうわけか、「山形」の観光資源、文化遺産、地域特産物などは、県内を離れると一部を除いてまだまだ、全国的、あるいは世界的には知名度が高くないケースも多い。
これは私の想像に過ぎないが、ひとつには「分かる人には言わなくても分かる」「無理には人に勧めたりしない」という山形(東北?)の独特の県民性(過度に話を盛ったりしない)があるのかもしれない。このあたりの県民性にはまだまだ私は詳しくないが、山形在住や出身者自身が「山形の人は宣伝や自己PRが下手だ」と自ら言っているのを何度か耳にした。
もうひとつには東京の人たちが、あまり山形を知らない(知識面というよりも肌感覚で…)という現実がある。何分、東京から山形は遠い。東京から仙台までは新幹線で1時間半だが、山形市までは3時間弱かかる。航空機の便も決して便利とはいえない。蔵王や新庄・酒田・鶴岡など、山形県内の観光名所を訪れるには、東京から気軽に日帰りでとはいかない。
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