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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

西川美和×谷山雅計×福里真一「コピーライターと映画監督が語る、アイデアを生む“脳の動かし方”」【前編】

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【前回】「鈴木健×田川欣哉×佐渡島庸平「イノベーションが加速する時代にコンテンツのつくり方はどう変わる?」【後編】」はこちら

『ゆれる』『ディア・ドクター』などの話題作を連発し、現在は自らの直木賞候補作『永い言い訳』を撮影中(2016年公開予定)の映画監督の西川美和さん。その映画宣伝のコピーワークをコピーライターの谷山雅計さんが手伝っている縁で、この2人の対談が実現。司会進行を務めるのは、谷山さんとの仕事も多く、西川さんの映画のファンでもあるというワンスカイの福里真一さん。それぞれの分野のトップランナーが、考えるとはどういうことか? どういう脳の動かし方でアイデアが生まれてくるのか? それぞれの制作プロセスをたどりながら語り合った。

谷山さん⇔西川さん 5つの質問
「映画を夢から着想するって本当ですか?」

福里:西川さんはつくれば必ず話題になるという映画を次々とつくられていて、昨年は小説『永い言い訳』(文藝春秋)が直木賞候補にもなられました。今、ご本人自らその映画化に取り組んでらっしゃるんですよね。

谷山:その映画『永い言い訳』のコピーを書かせていただくというご縁で、今日のトークが実現しました。今日は「考える」ということについて考えてみる、というテーマで、お互いに質問を出し合って進めていこうと思います。

福里:西川監督から見て、谷山さんの印象はどうでしたか?

西川:企画を説明する能力がとても高い方だと思いました。私の仕事のフィールドには「プレゼンテーション」がないんです。企画をプロットや脚本にして、プロデューサーに渡すと、プロデューサーが各方面にプレゼンを行う…というのが映画の流れなので。だから私は「自分のアイデアがどう素晴らしいか」などということを生の言葉でうまく人に伝えることには慣れていないし、苦手意識があるんです。広告のフィールドの方は「伝え方」については思考も鍛錬も重ねられているので、そういう方とのお仕事はとても刺激になります。

福里:まず、谷山さんからの質問です。「アイデアのとっかかりについて伺いたいです。夢で見た情景から着想することが多いと以前インタビューで語られていましたが、本当ですか?」。

谷山:映画『ゆれる』は、友だちが人を殺している夢を見てできたそうですね?

西川:1作目『蛇イチゴ』と2作目『ゆれる』は確実に夢から着想を得ました。『ゆれる』は、男友達がハイキングに出掛けた山奥で、気のある女の子に助けるつもりで出した手を振り払われたのに逆上して滝つぼに突き落としたのを、私がやぶの陰から目撃してしまう夢でした。友達ですから、私さえ黙っていれば殺人者にならずに事故で収められる。そう思って事故を装っていたら、善良だった彼も自分もどんどんおかしくなっていく…という夢でした。

谷山:本当にそこまで夢なんですか? 今、あらすじを聞いているみたいでしたけど。

西川:本当に見て、汗びっしょりになって起きたんです。2人の主人公の関係性をもっと密に、お互いの人生から逃れられない関係にした方がいいと考え、映画では「兄弟」という設定にしました。

福里:なんでそんな夢を見たんですか?

西川:なんで見たんでしょう…。じわっと、自分の中でも意識下に抑え込んでいる恐怖や、自分の中に隠しておきたい一面というものを、夢を見ることで発見することが多いです。逆に、皆さんはどんな夢を?

福里:全く見ないです。

西川:ふふふ。

谷山:支離滅裂で、すぐに忘れちゃいますね。

西川:私も普段はそうです。だから書き留めたわけです。でも、1作目、2作目と夢でうまいことストーリーができて、今後も夢で食べていけるかと思ったら、一切見なくなりました(笑)。

谷山:そう甘くはなかった?

西川:その後はふるわないですね(笑)。

福里:せっかくなので、『ディア・ドクター』のお話も聞いていいですか?

西川:2作目の『ゆれる』が小さい作品の割にヒットしまして、世間的な評判も高かった。当時30歳になったばかりで、日本映画の期待の星などと言われて、非常なプレッシャーを受けてしまって。自分は到底そう思えないのに、偽物を本物だと世間が仕立て上げたいだけなんじゃないかという思いがあって、偽医者の話を書いたんです。

福里:なるほど。そこでも自分の恐怖心というのが、とっかかりになっているんですね。

次ページ 「シンプルなアイデアのよさが、考え続けるうちにかすみませんか?」へ続く