【前回】「西川美和×谷山雅計×福里真一「コピーライターと映画監督が語る、アイデアを生む“脳の動かし方”」【前編】」はこちら
「不確かな未来に舵を切る」心の準備はいいですか?
加賀谷:今日は、昨年の1月にNHKで全5回でシリーズ放送された「NEXT WORLD」の制作現場を通し、われわれを取り巻く環境が30年後にどう変わっているのかを考えていきたいと思います。
小川:3年前からインターネット部門で、ネットでの同時配信実験など、次世代テレビのプラットフォームやコンテンツの企画開発を担当しています。「NEXT WORLD」は5回シリーズで、番組のテーマ曲を担当したサカナクションの楽曲の歌詞「不確かな未来に舵を切る」をテーマに、毎回番組の最後は「みなさん、心の準備はいいですか?」という言葉で締めくくりました。これから起こる21世紀の圧倒的な変化におびえていてもしょうがない、ポジティブに捉えて楽しむ準備をしようよというメッセージを込めました。これから第1回と3回のディレクターがどのような気持ちで未来を見ていったかをお話しします。それではみなさん、心の準備をお願いします。
岡田:第1回の人工知能(AI)をテーマにした「未来はどこまで予測できるのか」を担当しました。これまで一貫して科学技術がわれわれの文明や暮らし、社会をどう変えていくかというテーマで番組を作ってきましたが、現代の科学の世界には分からないことが膨大にあります。そもそも知能を理解するとはどういうことなのか? 肉体と脳の境目はどこにあるのか? こうした問の答えは分かっていません。そういう中で「NEXT WORLD」は、とにかく現実的に、だけど楽観的に、30年後の未来を描くことを趣旨としました。AIは人を上回る知能を本当に持てるのか? そうなったら、われわれの生活はどういうふうに変わるのか? レイ・カーツワイル氏が提唱する「シンギュラリティー仮説」、つまり2045年までにAIが全人類の知能を抜くという仮説を根拠に番組を組み立てました。
取材を進めると、2014年ごろ、コンピューターが自分で学習して判別や模倣を行う「ディープラーニング」が登場して、AIに技術革命が起こったことが分かりました。アメリカではこうしたブレークスルーに基づき、人間以上に正確な未来予測が現実のものとなり始めています。たとえば犯罪予測です。ニューヨーク、シカゴなど全米の各地で犯罪の種類別に犯罪が起きそうな地域を毎日AIが予測しているんです。いち早く導入したカリフォルニア・サンタクルーズ市の警察では、このシステムを導入することで、逮捕者数は5割増加、犯罪率は2割減少しました。
他にも結婚相手との相性や、ヒット曲や映画、政治の動き、テロの予測など、AIがなんでもかんでも予測できるようになり始めています。
こうなってくると、今後の社会に与えるインパクトは甚大なものがあります。例えばどんどん人間の仕事がなくなるのではないかという話が出てきました。確かに人間がしていた仕事が機械に置き換わる確率は高いとみられていますが、全部置き換わるわけではありません。置き換わる確率は、例えばカメラマンは60%、弁護士は35%、記者やレポーターは11%、グラフィックデザイナーは8.2%というように、人間が優位な仕事は確率が低くなっていますし、今はない新たな仕事が創出されるという予測もあります。
さらには別の議論も始まっています。人間は人間を超える機械とどう付き合っていくのか? AIと知性は融合するのか? 映画「ターミネーター」のように、AIが自我や意識を持ったらどうなるのか? 意識理論の世界では意識を人工的に作れるのではないかという議論が始まっているのです。こうした研究が実現されれば、本当に意識を持ったAIができるかもしれない。
さらには人間が新しい能力を持つ可能性も指摘されています。例えば、結合性双生児(身体の一部がつながった双子)のタチアナちゃんとクリスタちゃんの例があるのですが、彼女達は生まれたときから脳の視床を共有していまして、それによってお互いの見たものや考えたことを話すことなく共有しているのです。こうした事実から考えれば、われわれの脳とAIを融合すれば、別の知性が見たものを自分が取り込むことができる、そういう世界を実現できるかもしれないという議論があります。いずれにせよ、人類は初めて新しい知性体と共存することになるわけで、そのための準備は不可欠だと思います。
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