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コラム

電通デザイントーク中継シリーズ

NHKスペシャル「NEXT WORLD」の取材から見えた、AIと表現の未来【前編】

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AIはどこまで発展するのか 「人」の仕事とのすみ分けは?

加賀谷:番組が放送されて約1年が過ぎましたが、取材をされていた時からAIを取り巻く環境はどのように変化したのでしょうか。

岡田:AIへの注目度はガラリと変わったなという印象です。放送当時はAIよりビッグデータという言葉の方が主流でしたから。ディープラーニングの技術も出てきて、社会的にAIに注目が集まっています。技術もどんどん進化しています。

加賀谷:現状のAIは、特徴量抽出などで予測は立てられますが、われわれが思考するような形で新しい問題を発見するような“強いAI”はまだできていないんですよね?

岡田:ええ。番組でも“強いAI”を描くかどうかすごく迷いました。最終的には、未来を予測する部分に特化しました。

加賀谷:視覚の部分では静止画の判別は人間と同じ、あるいは人間を超えるくらいまで進んでいる。けれど動きの検知やコンテクストの理解はまだですよね?

岡田:顔の筋肉の動きから正確に表情を読み取るなど、画像から何かを抽出して理解する技術はどんどん進んでいますが、難しいのはその先です。表情から感情を読むことはできるけど、その人がなぜ怒っているのかといった要因や深い心の中まで推測するAIはまだないと思いますね。

加賀谷:相関関係の抽出はできても、それが必ずしも因果ではないですものね。澤本さんも人工知能について聞きたいことがあるんですよね。

澤本:番組を見て怖かったのは、歌手のヒット曲を予想する予測システムの話です。それがアメリカではもう珍しくなくなっている。1曲目すごくうまくいって、2曲目は予測システムに合うような曲を作ろうとしたときに、どうしたらそこに持ってこられるかが分かっていない。そういう、予測システムと格闘するという事態が起きていた。広告クリエーティブの世界でも同じ目に遭うんだろうなと感じました。それからもっと先にいくと、AIが予測して作るのは僕ら人間というふうになるのか、いずれAIが制作までできるようになるんでしょうか。

岡田:ロイターでは簡単なスポーツの勝ち負けや経済記事は情報だけでロボットが書いています。映像編集もある程度は機械化できています。そういった意味でいえば、AIがクリエートできないとは言い切れません。しかし、記事に深い意味を持たせたり風刺したりということは、今はまだできない。ただ、映像編集のときに「このカットを入れれば視聴率が3%アップします」といった予測に引きずられるようなことは出てくるでしょう。

澤本:AIは猛烈なマッチングを繰り返して、最適なマッチングを見つけます。僕たちがしている作業もある意味マッチングです。例えばコピーライティングは頭の中にランダムに浮かんだ言葉とのマッチングを繰り返していって、その中で最適だと思うものを提示する作業だともいえます。と考えると、AIにそれができないはずがない。コピーライティングもおそらくできるでしょう。ただ、そのコピーのよしあしの判断を誰がするのかという問題がある。最終判断を行う僕らの「勘」が将来どれほど大事になるのかと、番組を見ながら悩みました。

岡田:グーグルでは動画のキャプションをつけるところまでAIがやっています。まだ全ての動画に対応できているわけではありませんし、完璧ではありません。でも、精度は上がっていくでしょうから、AIで自動作成したキャプションを切り貼りするところぐらいまでは容易にできると思います。ただし、そのセンスがいいかどうかは分かりません。機械にはできない部分が結構あるんじゃないかなと、僕は信じています。

澤本:ありがとうございます。少し安心しました。

電通報でも記事を掲載中


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岡田朋敏(おかだ・ともはる)

「NEXT WORLD 私たちの未来」 第1回「未来はどこまで予測できるのか」取材ディレクター/NHK 報道局社会番組部チーフ・プロデューサー。1997 年 NHK 入局。2010 年 協会派遣によりペンシルべニア大学医学部 生命倫理学研究室客員研究員。主な担当番組にNHK スペシャル 「立花隆最前線報告 サイボーグ技術が人類を変える」(バンフテレビ祭ロッキー賞、放送文化基金賞など)、「グーグル革命の衝撃」(ワールドメディア賞・大川出版賞)、「立花隆思索ドキュメント がん 生と死の謎に挑む」「生命の未来を変えた男 山中伸弥iPS 細胞革命」。

 

立花達史(たちばな・たつし)

「NEXT WORLD 私たちの未来」 第3回「人間のパワーはどこまで高められるのか」取材ディレクター/NHK エンタープライズ デジタル・映像イノベーション チーフ・プロデューサー。2001年NHK エンタープライズ入社。主な担当番組に NHK スペシャル「世界ゲーム革命」(アメリカ国際ビデオフィルム祭シルバースクリーン賞)、「コンピューター革命 最強×最速の頭脳誕生」「ロボット革命人間を超えられるか」、マイケル・サンデルの白熱教室「科学と幸福の話をしよう」など。15年から8K4Kの制作も。8K×3D×22.2ch コンテンツ「Aoi—碧— サカナクション」4K制作特番「山口一郎 東京ナイトフィッシング」など。

 

小川徹(おがわ・とおる)

「NEXT WORLD 私たちの未来」デジタル担当プロデューサー/NHK デジタルコンテンツセンター副部長。1989 年 NHK 入局。ディレクター・プロデューサーとして番組制作に携わる。2013 年からインターネット関連業務に従事。NHK オンライン編集長などを経て、現在、ネットでの同時配信実験や、新たなコンテンツの企画開発などに従事。また長年にわたり、ファッション・デザインのテクノロジーによる進化について取材を続けている。主な担当番組に NHK スペシャル「世界ゲーム革命」(アメリカ国際ビデオフィルム祭シルバースクリーン賞)、NHK スペシャル「デザインウォーズ」、「TOKYO FASHION EXPRESS」(国際放送)など。

 

加賀谷友典(かがや・とものり)

フリーのプランナーとしてデジタルネットワーク領域で多数のスタートアッププロジェクトに参加。新規事業開発における調査・コンセプトプランニング、チームマネジメントが専門。主な事例としては坂本龍一インスタレーション作品「windVibe」「GEOCOSMOS」など。現在は生体信号を使った新しいコミュニケーション体験を提案する「neurowear プロジェクト」で脳波で動くネコミミ「necomimi」、脳波ヘッドフォン「mico」、脳波カメラ「neurocam」、EYEoT デバイス「mononome」などを開発。

 

澤本嘉光(さわもと・よしみつ)

CM プランナー/エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター。1966 年長崎市生まれ。1990 年東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、家庭教師のトライ「ハイジ」など次々と話題のテレビ CM を制作し、乃木坂46、TM レボリューションなどの PV なども制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の 10 の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当)。映画「ジャッジ!」の原作脚本、東方新起などの作詞も担当している。クリエイター・オブ・ ザ・イヤー(2000 年、06 年、08 年)、TCC 賞 グランプリ、ACC グランプリ、カンヌ国際広告祭銀賞、アドフェストグランプリ、クリオ賞金賞・銀賞など国内外で受賞多数。