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顧客視点に立って、“業界慣習”を白紙に戻す――アクア、オリエンタルランド、ファミリーマート、富士フイルム

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写真左から富士フイルム・松本氏、ファミリーマート・叶田氏、JAPAN CMO CLUB 加藤氏、オリエンタルランド・笠原氏、ハイアールアジア・成田氏。
参加者
・アクア ハイアールアジアグループ  広報本部長 成田篤史氏
・オリエンタルランド 執行役員 マーケティング本部長 笠原幸一氏
・ファミリーマート 執行役員 総合企画部 マーケティング室長 叶田義春氏
・富士フイルム 宣伝部長 兼 富士フイルムホールディングス株式会社 コーポレートサポート部 ブランドマネジメントグループ長 松本孝司氏

2016年4月14日、通算12回目となるJAPAN CMO CLUBの研究会が開催された。参加企業は、家電ブランド「AQUA(アクア)」を展開するハイアールアジアグループ、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、秋にユニーグループ・ホールディングスとの経営統合を控えたファミリーマート、近年の多角化経営が注目される富士フイルムと、今回も業種・業態の異なる4社だ。

研究会の冒頭で、CLUBのFounderである加藤希尊氏から、JAPAN CMO CLUB発の書籍「The Customer Journey(ザ・カスタマージャーニー)」の完成報告があった。多くのマーケターが今回の書籍を手に取ることで、よりその認知度を高めていくであろうJAPAN CMO CLUB。今後は、この書籍を通じて研究会参加企業以外にも、CLUBに賛同するマーケターの誕生を期待したい。今回の研究会でも、マーケターたちが社内とは違う雰囲気のなか、忌憚なく意見を交わし交流を深めた。

「スマート化」、「コモディティ化」、「人口減少」への各企業の対応

書籍では、情報通信技術の発達により、いつでも、どこでも、どんなものでもインターネットに接続することができるようになる「スマート化」、商品の差異化が難しくなる「コモディティ化」と、少子高齢化を一因とする「人口減少」を多くの企業が抱える課題として指摘。それぞれ「つながり」、「質」、「量」の課題と表現し、これらを個別に見るのではなく、まとめて消費者視点でみることで解決につなげようと提案している。今回の研究会でも、この3つの課題を一つのテーマとした。

消費者視点でニーズを見直し、勝負を挑むマーケットを変える

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富士フイルム・松本氏

これからの日本で避けて通ることができない人口の減少、この問題に対する富士フイルムの松本氏の回答は明確で「売上げは、客数 x リピート率 x 単価で決まります。人口が減る以上、創客するしかない」。一方で、減少の一途をたどる人口とは対照的に、スマート化で増加していくのが「情報」だ。松本氏は、「ゼタバイト単位で情報が増加していくと、何が正しい情報なのかが判断できなくなっていく」と話し、それがゆえにFacebookなどのソーシャルメディアによる身近な人の発信に頼るという傾向を指摘。そのため、情報発信の手法として「狙っている顧客層の近くにいる人をつなげて、そのつながりを通じ、いかに消費者に情報を届けるかが鍵になる」と見解を示した。

コモディティ化に関しては、創客に通じる部分もあり、現状とりこめていない顧客層に注目することをあげた。富士フイルムは、デジタルネイティブの若者が写真に何を求め、どう使っているのかを探るため、原宿に直営店を出した。そこで見えたのは、デジタル時代に育った世代の目には、フイルム式カメラのアナログ感が新鮮に感じていること、撮影した写真は現像ではなくCDに焼くという傾向だった。また、写真にギフトやインテリアとしてのニーズがあることもわかった。直営店を出したことでつかんだリアルな消費者のニーズをもとに松本氏は「ギフトという新しい市場を開拓、勝負する市場を変えていく動きを始めている」と話した。

使われ方の変化を見逃さず、商品とサービスでファン化を進める

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ファミリーマート・叶田氏

全国で5万店を超え、拡大を続けるコンビニエンスストア。ファミリーマートの叶田氏は「今、GMSなどの他業態からコンビニに流れてくる動きがある。これまでのコンビニは、24時間営業や公共料金の支払いなど利便性をベースに成長してきたが、少子高齢化にともなう単身個食、より高質化された本格商品の展開、宅配などの各種サービスの拡充など、生活インフラ化が進んでおり、これまで利用してこなかった方が新規顧客となってきている」と話し、飽和状態であるという見方を一部否定した。高齢者の徒歩移動での限界距離は1kmと言われており、少子高齢化社会において、自宅から近距離にあるコンビニエンスストアには利点がある。高齢者や一人暮らし世帯が増える人口減少時代において、コンビニエンスストアはますます存在感を高めていくと思われる。

他業態からの顧客流入が進む一方で、業界内の競争は激化している。イートイン、コーヒーなどのサービスでは同質化が進んでいる。ファミリーマートも近々統合を予定しているが、叶田氏は「設備投資のコストをスケールメリットで補う提携などによる業界内の連携が進んでいくのでは」という見解を示した。

激化する業界内の競争を生き残るためには、繰り返し来店してもらう必要がある。ファミリーマートのカスタマージャーニーは「Fun & Fresh」をキーワードに商品とサービスで日々の生活に感動を与え、ブランドのファン化を図り、リピーターとなってもらうことを目指している。そのためにはデジタルマーケティングも重要となるが、叶田氏は「デジタルに前のめりになりすぎると間違う」と指摘した。

スマホを起点としたシームレスショッピングも普及し、アプリやプッシュ通知を導入する企業も多いが、プッシュ通知は届けるタイミングや文脈が適切でないと8〜9割はブロックされる一方、割引券などは回線がパンクするほど利用者が殺到するという。叶田氏は「デジタルマーケティングだからこのサービスをしなければ、という発想ではなく、ニーズに基づいたタイムリーなアプローチが必要」だという。デジタル化で取得できる顧客情報は増加しているが、消費者としては自分の属性や生活について知られていると感じることは不安にもつながる。取得している情報の使い道として、消費者が来店したときに、それと感じずに生活の助けとなるような「心地よい匿名性や距離感があるデータの使い方をできるかが、マーケティング上の重要なポイントとなっています」と話した。

「誘い層」と「誘われ層」別にジャーニーを設定するオリエンタルランド

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オリエンタルランド・笠原氏

オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートを支えるのは、年間に何度も来園するコアなファンだ。こうしたファンは、同時に家族や友人を連れて来園するという重要な役割も担っている。そこでオリエンタルランドでは、コアなファンだけでなく、誘われて来園する人達にいかに魅力を感じてもらうかも重視し、「誘い層」、「誘われ層」、それぞれのカスタマージャーニーを描いている。

誘われて来園した人がファン化し、また新たな人を連れてくる。その循環から「いかに血を濃くしないで、低頻度の人にたくさん来てもらうか」(オリエンタルランド笠原氏)を狙ったジャーニーの設計だ。

ファン化するターゲット層として、近年は同社がニューエイジング層と呼ぶ45歳以上の大人同士の来園に期待している。2008年頃からテレビCMなどでこの層を意識した訴求を実施しており、徐々に取り込み率も上がっているという。笠原氏は「これまで言われていたテーマパークの来園者40歳定年説を変えたい」と話した。加えて、今後も増加が見込まれる訪日観光客による来園も強化している。

テーマパーク業界は競合が限られており、ライバルがマーケティングに注力し各施設の体験価値が向上することは市場全体の盛り上がりにつながる。そのため、コモディティ化への対策は「いかに自社施設を魅力的にするか」(笠原氏)で、エンターテイメントなどの新しい価値の提供により体験価値や満足度を向上させ、ハード、ソフトへの継続投資が鍵となる。その一環として、近年はハロウィーンなどシーズン毎のイベントを重視している。

プロダクトアウトからの脱却、マーケットインへの転換を図る

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アクア・成田氏

アクアの成田氏は、世帯の構成人数で家電の大きさや価格を決めていたこれまでの家電業界のプロダクトアウト型のビジネスモデルが今の苦しい状況の一因ではないかと指摘。まだブランドが確立していない自社にとっては、人口減少という危機的環境もチャンスととらえることができると話した。人口は減っても、世帯数は増えているという市場の変化や消費者のライフスタイルに合わせた開発をできるかが鍵になる。

オリエンタルランドの笠原氏から、プロダクトアウトからマーケットインへ開発を転換させる動きについて質問が出た。成田氏はこれに対し、家電業界のボーナス時期に新製品を発売し、そこまでで値下がりした価格を元に戻す、年2回の新製品発売というサイクルを説明。本当に新たな機能を持った製品開発は半年では不可能なため、マイナーチェンジの繰り返しとなってしまっている現状を指摘した。「アクアは2年前より、消費者ニーズに合わせたマーケティング軸での開発にチャレンジ。」プロダクトアウトからマーケットインの成功事例として、そこから誕生したハンディ洗濯機「COTON(コトン)」を紹介した。

プロダクトアウトという発想については、松本氏も「従来型のルールに乗っていると仕事が作業化してしまう」とその問題を指摘。これをクリアするという狙いも原宿への直営店出店にはあったと話した。自らがユーザーの立場になったときに初めて気づくニーズがある、マーケターの役割として「ニーズに気づき、どんな発想ができるかが大事」だと話した。笠原氏は、東京ディズニーリゾートのアトラクションは計画から実際の導入まで5年以上かかることもあり、プロダクトアウトの典型だと話した。しかし、近年は来園者のニーズに合わせた動きも始めており、特にスペシャルイベントではマーケティング主導で成功していると紹介。「アナと雪の女王のスペシャルイベントは、通常1年以上前に固める企画を映画のヒットを受けて半年ほどで実施につなげた。マーケットイン発想の大事さを感じた」と話した。

次ページ 「ひとりのユーザーとして見たとき、企業にどんなことを求めるのか。」へ続く

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