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コラム

良いコピーをどうやって書くか、ということより先に知っておかないといけない話。

iPS細胞を初めて実用化した髙橋政代がコピーライターに依頼したこと。

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【前回のコラム】「マキシマムザ亮君が小霜和也の『ここらで広告コピーの本当の話をします。』を読んで・・・。」はこちら

小霜和也氏の著書『ここらで広告コピーの本当の話をします。』の発売から約1年半。これまで非常に幅広い層の読者から意見や感想が寄せられている。本を読んでファンになる人も。iPS細胞を世界で初めて実用化させた研究者、理研網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー/公益社団法人NEXT VISION理事の髙橋政代氏もその1人。医療など社会課題解決にもコミュニケーションの知見がいっそう求められていく中、お二人の出会いと現在一緒に取り組んでいる運動の紹介などを通じ、コピーライターとしての次の働き方を探ります。※最後には、髙橋先生からのお手紙も。

「人」で仕事を選ぶワタシ

「ここらで広告コピーの本当の話をします。」著:小霜和也/発行:宣伝会議(2014/10/29発売)詳細・購入はこちらからご覧ください(宣伝会議オンラインはこちら)(Amazonはこちら)(楽天はこちら

小霜です。
前回のコラムではマキシマムザ亮君という「面白い人」にご登場いただきました。今回は、「いい人」です。「いい人」どころか、僕の中ではもはや「生き仏」。この記事を読んでいる皆さんは「生き仏」に会ったことはありますか?なければ、ご紹介します。髙橋政代先生です。

彼女は2014年にiPS細胞を世界で初めて実用化させた研究者であり、眼科医。その年の英「ネイチャー」誌で「世界の10人」に選ばれてます。つい最近は他者の細胞からの網膜再生に挑戦するということで、山中伸弥先生の隣に並ばれてニュースを飾ってましたね。でも僕にとって大事なのはそういった偉業ではないのです。

自分はいちおう、仕事を選びます。その基準は「人」。仕事の大きさとか、儲かるかどうか、賞に絡めるか、などより、いい人、気の合う人、面白い人、と仕事する方を選ぶ、それが僕のルールです。「人」のために一肌脱いで感謝されると、幸福感が得られるからです。まあ、実際にはイヤな人と出会うことって稀にしかないので、仕事のご依頼をお断りすることはほとんどなくやって来られているのですけどね。

今回のコラムでは、髙橋政代先生という「人」と一緒に取り組んでいる仕事の話をしてみたいと思います。

「世の中にはこんな人、いるんだ…」

2017年秋、神戸アイセンター(仮称)がオープン予定です。これは眼科領域の、再生医療研究チームと眼科病院、それにリハビリ・ケア機能を一体化し、視覚障害者の社会復帰まで面倒見ましょうという世界初の太っ腹なコンセプトを持った施設です。

実は眼を患っている人にとって重要なのは治療後のケアなのですが、日本では眼科病院とリハビリ・ケア施設が切り離されていることもあって、視覚障害者の回復がなかなか進まず、それゆえに社会復帰も進まないという問題があります。そこを解決したいという眼科医や研究者たちの想いの具現化が神戸アイセンターと言ってもいいでしょう。

彼らがさすがアッタマイイー!のは、その設計やリクルーティングを始める前に「コピーが必要」と考えたことでした。一つのスローガンがあれば、設計のプレゼンもリクルーティングもブレることがないだろうと。それで、以前CIのお仕事をさせていただいた医療系企業さまのご紹介でスローガン開発のご依頼をいただいたのです。

理化学研究所/NEXT VISION 髙橋 政代 氏

さて。
初めて髙橋先生とお会いした時、彼女からノートPCで神戸アイセンターの構想、概要をご説明いただきました。ところが10分ほど話をされていたら、突然下を向いて無言になったんです。どうしたんだろう、急にご気分でも悪くなったんだろうか、と僕は焦ったんですが、周りの人たちはなんだかヘーキ。よく見ると、もしかして・・・泣いてる?しかし・・・なぜ、ここで泣き始める!!??

先生が「ビジネスマン」と呼んでいるブレーン役の奥田さんが「誰かティッシュあるー?」。涙を拭きながら落ち着きを取り戻した先生が語るには、iPS細胞技術で網膜移植をやっても、それでばっちり眼が治るわけではないと。悪化していくのを止めるぐらいが現状で、肝要なのはその後のケアなのだと。

「でもほとんどの患者さんが、私の診察を受けて帰る時……d、disappointed…!!」

と言って涙をポタポタ落とされるわけですよ。患者さんの期待に十分に応えられない自分のふがいなさと、彼らの気持ちを思いやって、日々悲しみを抱いてるんでしょう。世界で10指の研究者が。ようやく立ち直った先生はまたご説明を続けられたんですけど、しばらくするとまた下を向かれてですね。いわく、眼が悪くなってくると、人はそれを周囲に隠そうとする傾向があるのだと。特に子どもがそうなんだと。親にも言えずに、どんどん眼を悪化させて悩んでいる子が多いんだと。そこでまたティッシュの出番です。1時間のうち15分ぐらいは泣かれてたでしょうか。

僕は衝撃を受けました。世の中にはこんな人が、いるんだ…。医師って、特に大きな病院の人ほどどこか機械的というか、クールな印象があるんですが、やはり難治系の患者さんと向き合うってつらいことと思うんです。だからどこか、あえて心の回線を切っているところがあるんじゃないかと。でも髙橋先生は泣きながらそこにぶつかっていって、再生医療の研究で乗り越えようとしてるんだなあと。そのタフネスに打たれたのかもしれません。

近しい方によれば先生は海外でいろんな賞を授与されるそうで、そのたびに賞金1千万円とか数百万円とかが入ってくるわけですけど、それをそっくりそのまま寄付しちゃうんですって。眼の病気で苦しんでいる人たちを救いたい、それ以外何もないんです。その一念で再生医療の先頭を突っ走ってる。「ビジネスマン」奥田さん始め、高名な先生方、スタッフ、僕、皆、もうこの人のためにがんばるしかない、と観念しちゃうんです。

冒頭で「生き仏」って表現しましたけど、僕は彼女に会うと、心の中で拝みたくなります。ちなみに僕は先祖供養のために日蓮正宗に入信してるんですが、日蓮正宗は神社も含め他の宗教に関わることを禁じてます(初詣もダメなんですよ!)。でも髙橋先生に手を合わせてもバチは当たるまいと思ってます。

次ページ 「今日はセンセを笑わせに東京から来ました」へ続く