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コラム

アンバサダー視点のススメ

人に喜んでもらうことがビジネスモデルになった(ネスカフェ アンバサダー)

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【前回の記事】「マーケティングの4Pは知っていても、4Cを知らない人が多いのはなぜだろう?」はこちら

すでに説明の必要もないくらいに有名な「ネスカフェ アンバサダー」。その企画を立ち上げた中心人物が、ネスレ日本の津田匡保さんです。商品やサービスを広めるために津田さんが考えたこと、そしてこのシリーズのテーマでもある「顧客とのリレーションのとり方」は、多くの企業の参考になるでしょう。当時、津田さんが抱えていた課題を広告ではなく、人に喜んでもらうことで解決した事例が「ネスカフェ アンバサダー」なのです。

今回のゲスト

津田匡保(つだ まさやす)
ネスレ日本 Eコマース本部 ダイレクト&デジタル推進事業部 部長

2009年より「ネスカフェ ゴールドブレンド」「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」のマーケティング業務全般を担当。マス広告・デジタルコミュニケーションの開発に従事。2012年秋「ネスカフェ アンバサダー」プログラムを立ち上げ。2013年「ネスカフェ アンバサダー」専門部署立ち上げ。2014年「第6回日本マーケティング大賞」を受賞。現在、ダイレクト&デジタル推進事業部を率い、直販や新規事業、デジタル領域全般を担当。

 

1杯のコーヒーが人と人をつなぐ

藤崎:先日、何かの始まりというものは「全体的な総意」ではなく、実はある特定の個人による、とても「個人的で具体的な出来事」がきっかけにあるという話を聞きました。私も何か新しいことを始めるのは人である以上、そこには何らかの個人的な思いがあると思っています。

そうした意味では、とかくビジネスモデルが注目されがちな「ネスカフェ アンバサダー」ですが、私が一番興味を持っているのは、企画の根底に津田さんが阪神・淡路大震災で被災したときの体験があるということです。

津田:はい、私は1995年に神戸で震災を経験しました。当時、私はまだ高校生でしたが、その時にコーヒーの温かさやおいしさを体験したのです。そしてコーヒーが持っている素晴らしさを伝えたいと思い、ネスレに入社したという経緯があります。

当時から随分と年月が経ちましたが、私は当時の思いをずっと持ち続けてきました。それがいろいろなことと重なって、結果的に「ネスカフェ アンバサダー」のビジネスモデルに結びついたと思っています。

藤崎:2011年の東日本大震災の時には、コーヒーマシンを持って被災地に行かれたということですが。

津田:東日本大震災を知り、すぐに高校生のときの自分の体験を思い出しました。そして何か被災者の方のお役に立てることはないかと考え、当社のコーヒーマシンを持ってすぐに被災地に行くことにしたのです。

仮設住宅でコーヒーを入れていると、どんどん人が集まってきて、「温かい」「おいしい」とみなさんに喜んでいただけました。もちろん当時は大変な状況だったわけですが、コーヒーマシンがあることによって、仮設住宅がいわばカフェのようになったわけです。

そのとき、「人が集まる場所にコーヒーマシンを置かせてもらうことで、みなさんに心から喜んでもらえるんだ」「やっぱりコーヒーには、人に和んでもらえる力があるんだな」と実感しました。それが「ネスカフェ アンバサダー」のモデルの一つのヒントになっています。

藤崎:2011年のときには、まだ「ネスカフェ アンバサダー」の構想はなかったということですよね。

津田:はい、そのときは「ネスカフェ アンバサダー」もビジネスモデルの構想もありませんでした。当時、私は弊社の家庭向けのコーヒーマシン「ネスカフェ バリスタ」のマーケティング担当でした。発売当時から担当しており、2010年頃に大ヒット家電の仲間入りをすることができ、家庭用コーヒーの飲用スタイルを変えることができました。

藤崎:なるほど、今やマーケティング業界では「ネスカフェ アンバサダー」の方が有名ですが、もともとは家庭用のコーヒーマシン「ネスカフェ バリスタ」がきっかけだったというのは、意外と知らない人が多いのではないでしょうか。

津田:出発点はそこなのです。「ネスカフェ バリスタ」はある程度売れましたが、日本には3000万世帯以上のソリュブルコーヒー市場がありますので、まだまだこのマシンのポテンシャルはあるはずだと社内で話していました。

そこで、テレビ広告をはじめとしたマス広告を行いながらも、2010年の年末から新しい告知方法を模索していました。その矢先に東日本大震災があったというわけです。

藤崎:そして、冒頭の経験になるわけですね。

津田:そうです。「ネスカフェ バリスタ」を広げるためには、通常は自分たちの商品を「広告で宣伝する」という方法を選択すると思います。しかし、東日本大震災での経験がヒントになり、人が集まる場所やコミュニティにマシンを置かせてもらうことで広がるきっかけになると考えたのです。そこから発展して、最終的にはビジネスモデルの構想となりました。

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