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「さよなら、おっさん。」で話題のNewsPicks 新編集長が「ミドル転職」決めた理由

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雑誌版の発売、米国の経済メディア買収など話題の「NewsPicks」。4月には、新編集長に元扶桑社の金泉俊輔氏が就任した。紙、オンライン両方の経験を持つ金泉氏は、新天地で何を目指すのか。『編集会議』2018年夏号(7月31日発売)の特別編としてお届けする。

「SPA!」から経済メディアへ

ニューズピックス「NewsPicks」 編集長
金泉俊輔(かないずみ・しゅんすけ)氏

1972年生まれ。大学在学中から雜誌ライターとして活動。立教大学経済学部卒業後、扶桑社に入社。『週刊SPA!』編集長、ウェブ版の「日刊SPA!」創刊編集長なども務める。2018年4月、ニューズピックスに移籍し、NewsPicks編集長に。

—『週刊文春』4月26日号の記事「私たちがミドル転職した理由」でも金泉さんが「ミドル転職」の代表格として紹介されていましたが、NewsPicks編集長への転身は驚きました。

僕は『週刊SPA!』の編集長を5 年、オンラインで展開している「日刊SPA!」の編集長を7年と長く手がけてきました。そろそろ後進に譲るべきだなという思いもあったし、“老害”と思われるような存在になってはいけないなと。どうせ辞めるなら全体の事業がうまくいっているこのタイミングで引き継いだ方がいいと考えていたんです。

社内の部門異動や、さらに上の管理職になるという選択肢もありましたが、実は前々から新しい挑戦をしたいと思っていたんですね。そこで、いくつかお話をいただいた中からニューズピックスへの入社を決めました。

理由は、佐々木紀彦CCOや佐藤留美副編集長、ダイヤモンド社からの移籍組など、昔から知る優秀でおもしろい編集仲間がいたことが、まず一番です。もうひとつは、僕自身がプロピッカー(NewsPicks公式のコメンテーター)をやっていたということもそうですが、メディアとしてのビジネスモデルが秀逸だと感じていたから。

自分でも「日刊SPA!」の編集長を経験して思ったのは、パブリッシャーは結局、Yahoo!やGoogleといったプラットフォーム側のルールに則ったビジネスモデルしか生み出せないということ。言い方は悪いけれど、パブリッシャーはそのルールの中で過当競争していくしかないんです。

一方NewsPicksは、そういう競争とは異なるところにコミュニティがあり、キュレーションがあり、オリジナルコンテンツがある。NewsPicksは自らをソーシャル経済メディアと言っていますが、そういった新たな環境で挑戦してみたいと思ったんです。

社内には会社の価値観を定義した「7つのルール」があり、その中のひとつに「異能は才能」という言葉があります。価値観や人種、宗教、性別の違いを認め合ってフェアでオープンなコミュニケーションを徹底しようという考えなのですが、僕のこれまでの経験を“異能は才能” として受け入れてくれたのだと思っています。

意思決定のスピード感に驚き

—実際に入社されて3カ月が経ちましたが、いかがでしょうか。

意思決定の速さや社員のモチベーションの高さ、能力の高さに驚いています。こちらも付いていくのが大変というか、前よりも夜に深酒しなくなりましたね(笑)。

現在、オリジナルコンテンツの編集チームのメンバーは約10人です。タイアップ案件など、ブランドコンテンツの編集チームは別組織となっています。業界担当制ではなく、特集ごとに中心となる担当記者がいてチームを組むイメージです。

新聞、出版での記者経験者が多いですが、おそらく前職より今の方が業務量やカバーする範囲が広がって、「仕事の密度としてはハードだけどやりがいがある」と感じているメンバーが大半だと思います。ウェブメディアは明確な締め切りがないですし、極端な話、記事を出す朝6時まで直し続けることもできますからね。既存メディアの記者と同じく、ここぞという場面では夜討ち朝駆けをすることもあります。

僕は前編集長の佐々木が手がけていた編集長業務を引き継いでいるのですが、そもそも組織の人数が以前の50人弱(外部スタッフ含む)から約10人の規模になり、マネジメントスタイルも変わりました。

また、週刊誌の場合は毎週発行するサイクルがあり編集長が意思決定するタイミングもプロセスの中で決まっていたのですが、NewsPicksはそこが非常に曖昧。週1回の企画会議でアイデア出しはするものの、突発的に上がってきた企画に対し、一人ひとりにレスポンスすることによって同時多発的に意思決定していきます。Slackを使って随時、情報を共有しています。

社内にデザイナーを抱えていることも、NewsPicksの組織の特徴です。デザイナーは、ビジュアル・エディターとしてコンテンツ制作の段階で編集に大きく関わります。「会計2.0」「さよなら、おっさん社会」といった特集を見ていただければ分かるのですが、NewsPicksのオリジナルコンテンツはテキストをただ羅列するのではなく、グラフィックを取り入れ、スマホ最適でいかに分かりやすく見せていくかを考えながら制作しています。

イメージ案は編集者が考えるのですが、デザイナーはそれをただ受けるのではなく「こうした方が分かりやすい」「この部分が足りない」といったように意見を出しながら進めていく。社内にデザイナーがいることで、編集者と同じ立場で議論しながらつくっていける仕組みになっているんです。

それから、以前のように訴訟案件を抱えたり、内容証明が届いたりといった場面は思っていた以上に少ないですね。編集長としてもちろん多少のトラブルや炎上などに対応する場面は度々ありますし、先日も取材先の方に原稿確認の有無についてネット上で色々と書かれましたが、「SPA!」時代に比べれば少ない方だと思います。

記者としてのやりがいは大きい

—NewsPicksの場合、PV数よりも有料会員の獲得数が評価の軸になるのではと思いますが、配信型メディアと比べてプレッシャーは大きいのではないでしょうか。

現在、NewsPicksの有料会員(月額1500円、iOSアプリ1400円)が6 万4336人、ユーザー数314万人となっています。KPIがPV数の配信型メディアは、いかにYahoo!やキュレーションメディアに取り上げられるか、あるいは“バズる”かということが求められており、それはそれで熾烈です。

ただ、課金をしてでも読みたい記事を制作しようと思えば、常に企画のオリジナリティや情報の希少性、読後の納得感など、記事の質の高さが求められる。大変ですが、編集者や記者としてのやりがいは大きいと思います。

以前、佐々木は有料メディアの5つの法則に「特集化」「人物」「デザイン」「分析」「スクープ」を挙げていましたが、NewsPicksのコンテンツの柱となっているこれらは今後も継続していきます。

それに加えて取り組みたいと考えているのは、「速報」と「多様性」です。企業の決算や大型買収といった通常の速報ニュースはもちろん、NewsPicksならではの企画と速報がクロスオーバーするようなものもどんどん増やしていきたい。

最近であれば、カルビーの松本晃会長兼CEOがRIZAPグループのCOOに就任することを発表した際に、独占インタビューが実現しました。NewsPicksの媒体価値を認めてくださる企業が増えたことで、「NewsPicksだからこそ取材できる人物×ニュース」といった新たなコンテンツが実現できるようになってきたと思います。

もうひとつ新たな動きとしては、先日発表した米国の「Quartz」買収です。ユーザベースグループとNewsPicksが世界への挑戦を加速させるものになったと思います。昨年スタートしたアメリカ版NewsPicksが非常に好調で、日本版のスタート時より2倍のペースでDAU(1日あたりの利用者数)を伸ばしています。

そこに、今回買収したQuartzのコンテンツ力が入ることになりますが、Quartzの記事や動画はハイクオリティで未来志向。NewsPicksとの相性はかなりいいと感じました。今後、日米で様々な交流が生まれて、経済を、世界をもっとおもしろくしていけると確信しています。

次ページ 「“脱・おっさん”層を獲得したい」へ続く