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コラム

マーケティング・ジャーニー ~ビジネスの成長のためにマーケターにイノベーションを~

正月のそごう・西武の広告に対する賛否から、広告の効果について考える

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そごう・西武の話題の新聞広告に寄せられた賛否の声

©123RF

2020年が明けてすぐ、正月のそごう・西武の新聞広告について議論が巻き起こっていることをTwitterで知りました。

炎鵬関を起用し、「さ、ひっくり返そう。」のキャッチフレーズで、文章を上から下に読むのと、下から読むのでまったく違った内容になるというクリエイティブの広告です。何より驚いたのは、いまだにこのようなクリエイティブの是非について、様々な意見が寄せられていること。私は昨年から、本コラムにおいて広告の歴史についてのまとめをしてきたのですが、歴史を振り返ると、このような議論は、驚くほどに古い話題であることがわかるからです。

以下に、Twitterをはじめとするネット上で出ていた、西武・そごうの新聞広告に対する様々なコメントをまとめてみました。

【ポジティブな意見】
▶︎ この広告のクリエイティブにはコミュニケーションアイデアがあり、好感度が高い
▶︎ この広告には西武・そごうのブランドイメージを上げる効果がある
▶︎ この広告には、消費者だけでなく従業員、関係者に対してモチベーションを上げる効果がある

【ネガティブな意見】
▶︎ このクリエイティブが良くて話題になっても、売上には直接結びつかない
▶︎ このクリエイティブは良くても、この広告には来店効果、購買促進につながるようなベネフィットに関する説明がない
▶︎ このクリエイティブは良くても、そごう・西武に関するイメージと結びつく独自のブランド資産が欠けている
▶︎ この広告は、製作費や媒体費といった投資費用に見合った効果がなくお金の無駄づかいである
▶︎ このような広告はクリエイターや業界が好む賞を狙うようなクリエイティブアイデアであり、本来そごう・西武が目指すべきマーケティング目的とズレている
▶︎ この広告が良くても、そごう・西武のマーケティングにおいて広告接触後の顧客に対する仕掛けが十分でなければ意味がない
▶︎ この広告には企業メッセージが強すぎて顧客目線がない
▶︎ 百貨店の現状を考えると、西武・そごうがやるべきマーケティングはこのような新聞広告ではない

このように、やや否定的なコメントが多い形で意見が交わされていました。上のような議論はそごう・西武に限らず、いまだに広告の実務の現場で起こっているような気がします。そして、こうした議論は今に始まったことではなく、マスメディアが登場して、現在のような広告ビジネスのモデルが出来あがった1950年代からあまり変わっていないようです。

広告アイデアに対するポジティブな反応

まず、ポジティブにそごう・西武の新聞広告に反応した人は、行を上下逆さまに読むことで、ヘッドラインの意味と炎鵬関の力士のイメージを強化する仕掛けになっているアイデアを評価しています。そして「このひっくり返す」ことが、昨今の苦しい百貨店業界の状況に対して、それを覆して復活する、という明確な意志を示しています。これはより広くとらえれば、日本全体の経済的にも政治的にも不透明な状況もふまえての視点であり、このような社会的な視野でのメッセージは、意見広告とも呼べるものです。

なぜ、新聞広告を選択したのか、というメディア選択の意義はこのクリエイティブの意図と切り離せません。GOの 代表取締役である三浦崇宏氏は、新聞広告は消費者に対するターゲティングやリーチではなく、多くの企業人に確実に届く信頼できるプレスリリースだと言っています。つまり新聞広告とは、組織の意義あるメッセージを広く伝えることができるパブリックなメディアなのです。この真逆に位置するのが、個人のパーソナルなメッセージを伝えるデジタルやソーシャルメディアといえるでしょう。

そうした意味では宝島社がしばらくの間、意見広告として新聞広告を出しており、それが、話題になっていたことも同様の目的での活用と言えるでしょう。また昨年に西武・そごうが同様に正月の新聞広告で出した「女の時代、なんていらない?」というキャッチフレーズの安藤サクラさんを起用した広告も話題になっていました。

安藤さんの顔にパイを投げつけるというビジュアルに賛否の声が巻き起こり、炎上広告として語られることもありましたが、これをきっかけに話題になったこと自体は狙い通りだったのかもしれません。

そう考えるとTwitterで議論が巻き起こることは、その意味では十分効果を発揮していたと言えます。同時にこれを批判する意見はこのような話題化の結果から生まれたわけです。

 

次ページ 「企業の視点を表明するだけでは売上に結びつかない?」へ続く