Advertimes アドバタ会議

トップ通訳者に学ぶ、国境を越える言葉の力

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トップを経営や組織面などでサポートする優秀な人を、一般的には「右腕」と呼ぶ。しかし秘書や通訳など、経営には直接関わらないが、トップを支えている人々もいる。異端会議ではそういった人々を「左腕」と名付け、フォーカスしていく。今回は、トップ同士の交渉や国際会議、フォーラム、さらにはふなっしーやピコ太郎氏などの海外向け記者発表での通訳も務めた橋本美穂さんにお聞きした。

通訳の極意とは

トップ同士の交渉など、数々の重要な場面で通訳をされていらっしゃいますが、通訳をする際に最も大事なことは何でしょう?

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橋本美穂
米国テキサス州ヒューストン生まれ。幼少期をサンフランシスコで過ごす。1997年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、キヤノン株式会社に総合職として入社、コピー機等の事業企画を担当。企業に勤めながら通訳者養成学校夜間コースを修了。2006年より日本コカ・コーラ株式会社の企業内通訳者として通訳を開始。現在、フリーランスの通訳者として活躍中。

  「1. 正確性、2. スピード、3. 表現力、この順に大事だと思います。通訳技術の専門学校でも、「まずは正確に」と教わりますし、スピーディーさも当然求められます。表現力については通訳者によってカラーが出るところで、同じことを言うにしてもそれをどのような抑揚をつけて、どのようなニュアンスで言うかによって感情や雰囲気の伝わり方が異なります。私が担当させて頂いているビジネスの現場では特に人と人とのやりとりが大切で、心が通い合うからこそ目的が達成される世界です。ですから、その世界で仕事をさせて頂いている通訳者としては、話し手の気持ちや感情まで伝わる訳出を心がけています。」

話し手の心や感情を伝えるために、どのような工夫をしていらっしゃるのでしょうか。

  「その人の真意をできる限り先読みし、言葉の背景にあるメッセージを通訳に反映するようにしています。会議の目的と、それぞれの参加者がこの会議を通じて何を達成したいと考えているのかを理解することで、発言の奥にある真意にも気がつきますし、言葉に表れていない顔の表情やボディーランゲージをキャッチしやすくなります。例えば、よくある「では、検討させて下さい」という発言も、実際には「あまり検討したくないけれど」という意図で使われる時がありますよね。こういった言葉のニュアンスまで再現することによって、まるで本人が話しているような言葉遣いになり、嬉しい気持ちや残念な気持ち、テンションの高さや低さなどを伝えることができます。一方、専門性の高いテクニカルな内容を訳すときには直訳を多くし、意訳は控えめにします。また、長々と訳さず、できるだけ短くコンパクトな言葉で伝えるようにもしています。本来、通訳を使わずにお互いに意思疎通ができればそれに越したことはないわけですから、通訳者が余計な時間をとることなく、最小限の介入で最大の効果が出せたら一番いいですよね。」

英語日本語を聴いて訳すというプロセスについて、どのような頭の使い方をされているのでしょうか。

  「シンプルに言えば、通訳者が行っているのは、『他人の発言を聞いて理解し、それをあらためて自分の言葉で表現しなおす』という作業です。具体的なプロセスについては図式を参照下さい。まず、①のListening(聴き取り)です。きちんと単語レベルから正確に聴き取れているかが重要で、話し手によってスピードが速かったり、アクセントや独特の言い回しがあったりしますが、それも受け止めて漏らさず聴き取る必要があります。次に、②Comprehension(理解)です。瞬時に意味を理解しなければ間に合わないですし、さらに、話し手の表情や言葉の真意まで汲み取れるかどうかが問われます。次に、その理解した内容を、今度は通訳者の頭の中でイメージにし、メモに数字やキーワードを書き留めることで、短期的に③Retention(記憶)します。その記憶したイメージを別の言語で表現することによって、文章を ④Reproduction(再現)し、最後に、⑤Delivery(発話)をします。この時は音量やスピードを調節しながら、通訳を必要としている方々だけに音声が届くよう声の方向を定めます。さらに、自分が発した言葉を自己モニタリングし、聞き手の反応を目で確かめながら、次の自分の発言を調節していきます。」

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※出展元のブログへは右記のリンク:https://www.nexdoor.jp

「驚き桃の木20世紀」はどう訳す?

ービジネスシーン以外にも、ふなっしーやピコ太郎氏など、ちょっと変わった方の海外向け記者発表での通訳をされていらっしゃいますよね。

  「実は、ふなっしーの会見が、日本外国特派員協会(以下、外国人記者クラブ)でのデビューでした。そこは大臣や教授の方々、各界のエキスパートや一流アスリートの方々が会見する場所で、ふなっしーの時は私に声がかかりました。日本特有の「ゆるキャラ文化」を外国人に伝え、ふなっしー「らしさ」を感じて頂くために、どう通訳したらいいのか、考えに考えました。例えば『“I’m so happy to meet you, nasshi!”のように、語尾に自然に“nasshi“とつけようか?』など、アイデアを練りつつ準備をしたことを覚えています。」

ー区切りのいいタイミングで通訳していく必要があると思うのですが、話し手とはアイコンタクトなどでタイミングを図っているのですか。

  「ふなっしーの中の人とアイコンタクトをとるのは難しかったですが(笑)、ある程度経験を積むと勘でわかるようになります。これは職業病でもあるのですが、人が話をしている時、最初の文頭を聞いたら次に何を言うか、ある程度予測できるようになります。」

ピコ太郎さんの記者会見での『驚き桃の木20世紀』といった発言を聞いていると、日本独特のダジャレや慣用句を瞬時に翻訳して伝えるのは難しいだろうなと思いました。

  「ダジャレは言葉通りに訳しても面白さが伝わらないので、大胆な意訳が必要になります。ただ、即、その場で訳を決めなければならないというところが難しく、瞬発力を問われます。通訳の専門学校では『ジョークは必ずしも訳さなくてよい』と教わりますが、私はジョークこそ皆で共有して一緒に笑いたいという思いが常にあります。というのも、意味がわからなくて笑えない人が一人でもいたなら「あぁ、私のせいでこの人はモヤッとしてしまった!」という申し訳ない気持ちでいっぱいになるからです。そもそも大体の場合、ジョーク自体にそれほど重要な情報はなくて、それよりも、場を和ませたいとか笑わせたいとか、そういった目的があるんですよね。そうやって作り出される空気感は大切にしたいので、やはりジョークは漏らさず訳したいと思います。」

ー今だったら『驚き桃の木20世紀』はどう訳しますか?

  「そうですね、あの後散々考えたのですが、”I was super duper whopper surprised.”にした方がよかったでしょうか。後からなら何でも言えるんですけどね(笑)。驚き・桃の木・20世紀は正確に訳す必要がなく、韻を踏んでおどけた感じが出せればよかったんです。“super duper”は子供がよく使う言葉で「とびっきりの」という意味で、“whopper“はハンバーガーの商品名になっていますが「並外れた、とてつもない」という意味です。それを”super duper whopper”と3つ並べて韻を踏むことで、「超びっくり!」というユーモラスな驚きを表現できたかもしれないと思います。しかし通訳は一発勝負なので『もう一度やらせて下さい』というのはありません。この教訓を今後に活かすべく、日常で誰かが面白いことを言っていたら「今のはどう訳す?」と頭の中でシミュレーションしています。例えば祝賀会におけるスピーチから動画広告のキャッチコピーに至るまで、あらゆるビジネスの現場でこの技は活かせると思い、ユーモアに対する瞬発力を磨いています。」

言葉を翻訳するということの今後

ーテクノロジーによって、今後言葉の壁はどう変わっていくでしょうか。

  「単に言葉を変換するだけなら、Googleなどの自動翻訳で十分事足りる時代になりました。すでに自動翻訳はかなりの精度になっていて、それを音声で読み上げれば通訳になると思いますので、わざわざ人間(通訳者)が現場に出向かなくても、マシンをそこに置いておけばOKという日が来るでしょう。もちろん、これは歓迎すべき進化ですが、そのような時代に向かっている今だからこそ、(人間)通訳者の価値はなんだろう、と考えています。もちろんボディーランゲージや顔の表情を情報として拾えることや、言葉足らずなところがあれば行間の補完が出来ることは強みです。また、訳出する際に声色を変えたり、ニュアンスを付けたり、身振り手振りを付けたりすることができるのも人間ならではの作業なのかなと思います。このように行間を忖度し、表現力を駆使しながら、これからも気の利いた通訳を届けていきたいと思います。」