コラム

パリから作る、日本ブランドの作り方

フランスと日本、都市と地方の間にあるもの

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先週のゴールデンウィークに、レンタカーを借りて南フランスに旅に出た。
日本でも車で全国旅したので、長距離の運転は慣れている。都会から畑に変わっていく車窓の景色は楽しいものだ。

今回の旅の目的はフランスの歴史を知ることだった。
普段、日本の歴史をMIWAで語っているのに、実はフランスの歴史についてはあまり知らず、またいわゆる名所旧跡、遺跡にも行ったことがなかったので、まずは古城の街カルカソンヌへ行くことにした。
Rightning Parisの役員Joanは歴史に詳しい。彼に、カルカソンヌはすごいから一度は見ておいた方がいいと言われていたのだ。

しかし、パリからは約800キロの道のり。1日で走破するのはさすがに辛いので、途中Saint Cirq Lapopie(サン シルク ラポピー)という山中の小さな村で一泊したのだが、この村がすばらしかった。

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崖に建つサンシルクラポピーの街

Saint Cirq Lapopie は、Causses de Quercyという国立公園の中にあり、川沿いの道を走って行くと、崖の上に作られた村が目の前に現れる。崖にへばりつくように出来た村の眺めのあまりの美しさに思わず路肩に車を止めて写真に収めた。
Saint Cirq Lapopieの人口はわずか200人。一番近い大都市のトゥールーズまでは150キロほど離れている。しかしこの小さな村に毎年約40万人の観光客が訪れているとか。そんなにたくさんの観光客が来ているとは思ってもみなかった。

ちなみに、ホテルでもレストランでも英語は普通に通じる。20年程前、パリですら英語が通じなかったのが嘘のようだ。
ホテルもレストランも安い。とてもいいホテルに120ユーロで泊まれる。レストランは夜20ユーロで地元の食材をふんだんに使った美味しい料理が食べられる。日本の観光地のような、観光客相手のガツガツした感じはなかった。

この村に行って私は、パリに住んでいる人たちが週末やバカンスに、なぜ地方に行くのかがわかった。都市とは違った時間を過ごせて、とてもコストパフォーマンスが良いのだ。
私はmore treesの活動を通じて、10カ所ほどの日本の限界集落(人口3000人以下の町)へ行ったことがある。もちろん地元の食材を安く美味しく食べることができるのだが、正直いい宿がない。インター沿いに並んでいるのは、全国何処にでもあるビジネスホテルやコンビニだ。いい旅館に泊まりたいと思えば2、3万円は覚悟しなければならない。高速道路の料金もかかることを考えると、日本の国内での旅は、フランスと比べると魅力的な体験が得にくいと思った。
この状況をつくっているのは、地方にまで浸透した経済効率至上主義ではないだろうか?もし日本なら、40万人も観光客が来るのなら、大きなビジネスホテルや観光ホテルを作ろうと考えそうだ。
しかしフランスではそうはならないだろう。経済効率優先の醜悪なホテルの建物を、きっとSaint Cirq Lapopieの人たちは受け入れないだろう。第一、せっかくの歴史ある村に来たのに、テレビの付いたビジネスホテルに泊まるフランス人がいるとも思えない。この感覚が効率、利便性優先になりがちな日本と全然違う。

後から知ったことだが、フランスには、最も美しい村(Les plus beaux villages de France)というのがあり、Saint Cirq Lapopieはその村の一つだった。日本にも「最も美しい村連合」というのがある。私はここに加盟している村を8つ程訪れたことがあるのだが、本当にきれいな村が多かった。
ただ、フランスと大きく違うのは、日本の美しい村はきれいな「自然」が残っているということがメインで、歴史を体感できるようなところは少ない。
そしてなによりも、日本のこういう村でいいと思えるような宿がないため、何日も滞在したいと思えなかった。ホスピタリティに関しても日本では地方と都市の間に部に大きなギャップがある。
しかし一番大きな問題は、地元の人達の歴史認識ではないだろうか?長い時を重ねたその村の歴史の先端に、今自分達がいると解っているかどうかということだ。

さて、話は少々飛ぶが、私の実家は三重県の桑名市というところにある。桑名は江戸時代に宿場町として栄えた町だが、いまや名古屋のベッドタウンで、自分も若い頃はただの郊外だと思っていた。しかし、MIWAでお出しするお菓子を、桑名の和菓子屋さんのものにすると決めご主人に話を伺いに行ったところで、その認識は大きく変わった。
ご主人曰く、昔桑名には東京にひけを取らない名士がいて、お菓子屋さん達は彼らのお茶会のためのお菓子を作っていた。彼らが東京に行くときにもお土産のお菓子を用意した。桑名の代表である彼らが、東京で恥をかかない物を持たせたい、と桑名のお菓子屋さんは研鑽し、代々伝えてきた。こうした努力によって地方と都市のギャップは縮まり、桑名にも東京や京都にひけを取らない和菓子屋さんや文化が築かれていったのだと。

この話を聞いて、私は桑名が故郷であることを誇りに思った。今PARISでこのお菓子屋さんのお菓子を出していることが嬉しい。人は土地の歴史の連続性と、その地域の交換不可能な唯一性に自信をもつのだと思う。Saint Cirq Lapopieが魅力的だったのは、あの村に住む人たちがそんな歴史を毎日実感して生きているように見えたからだ。

なるほど、ミシュランガイドはこういう地方のホテルやレストランのためにあるのだ。自分で車の旅をしてみると実感としてわかった。フランスの最も美しい村は150ほどあり、車で旅をして地方の美味しいレストランや快適なホテルを見つけたくなる。その道しるべにミシュランガイドはなっていたのだ。

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Michel Brasまでの田舎道の風景


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丘の上に建つMichel Bras


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遠くに見えるカルカソンヌの街

この旅の最後に訪れたMICHEL BRASも、そんな風にミシュランに発見された店の一つなのだろう。予約がなかなか取れないレストランなのだが、平日の昼だったためか運良く席を取れた。
MICHEL BRASは北海道の洞爺湖にもあるので日本でも有名だが、ラギオールという本当に小さな町にある三ツ星のレストランだ。この店のシェフはどこかのホテルや三ツ星レストランで修行した経験もなく、ずっとこの村で地元の素材を使って料理をしている。
高速道路を降りてからさらに80km程走った山奥の店は、きちんとドレスアップしたした紳士淑女で満席だった。多分遠方から車を走らせてきた人たちばかりだろう。情報のギャップは埋まって、場所の遠近に関係なく魅力的な場所は人を引きつけるということを、その光景を見て実感した。

さて、印象的な光景がいくつもあった今回の旅だが、当初のメインだったカルカソンヌの街の印象は、いささか色あせた物となってしまった。丘を越えた瞬間に見えた街並はまるでゲームの世界のようでワクワクしたが(実際ドラクエのモデルになったらしい)、中に入ってみるとちゃちな土産物屋と人がひしめき、かなり観光地化されていたのでがっかりした。自分も観光客なのに勝手なことだが、あまり楽しむことはできなかった。

しかし総じて言えば、フランスの歴史を知る今回の旅は思ってもみない発見もたくさんあり、収穫が多かった。フランスにはこうした古い街が点々と残っていることを知ったし、訪れた街では何処も歴史を感じた。さらに、そこに住む人達からは誇りとでも言うべき物を感じることができた。
これからも、時間ができたらフランスを旅して、古くて新しい発見をしていきたい。

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