コラム

朝日新聞10年生記者、ビジネスに挑む

RYAN、ニューヨークで起業家ジャーナリズムに出会う

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報道資金は自ら稼ぐ。ニューヨーク市立大学の専門コース

私には名前が2つあります。ひとつ目は竹下「隆一郎」ですが、もうひとつはRYAN(ライアン)です――米国人と話すときに名乗ります。

格好をつけているという理由もありますが、日本ほど名刺交換を頻繁にしない初対面のアメリカ人に、難しい発音の「りゅういちろう」と言ってもなかなか通じないためです。家族と会社、非公認です。

昨年秋、RYANになりきって米国へ飛び、ニューヨークやボストンを回ってきました。日本に進出しそうなメディア系企業と接触して一緒にビジネスができないかを探るのと、ジャーナリズムの最先端を見てくるためです。

口にする度に舌をかむのですが、米国ではいま、「アントレプレニュリアル・ジャーナリズム」――起業家/事業家を意味する「アントレプレナー」と「ジャーナリズム」を組み合わせた言葉――が注目をあびています。

ニューヨーク市立大学でジャーナリズムを学ぶ人は、この壁を見て通る

自ら事業アイデアを考え、投資家や企業にプレゼンをして報道に関わるお金をひねり出しながら取材活動もする記者のことで、ニューヨーク市立大学は2010年以降、専門の起業家ジャーナリズムコースを設けて育成に力を入れています。

起業家とジャーナリストを組み合わせた仕事とはどんな職業なのか――。

ここの専門コースの中心人物の1人、ジェレミー・キャプランさんに「会いたい!」「話を聞かせて」と突撃してきました。ニューヨーク・タイムズの本社ビルから歩いて数十秒のところに、ニューヨーク市立大学はありました。

入り口の黒い壁には、オレンジ色や白色の力強い文字で、下記のようなジャーナリズムの標語がいく種類も掲げられています。

《THE POWER IS TO SET THE AGENDA. WHAT WE PRINT AND WHAT WE DON’T PRINT MATTER A LOT.》
(社会の課題とは何か、それを定義して問うことが大切だ。われわれが何を書き、何を書かないかの意味は大きい)。意訳です。

ニューヨーク市立大学 起業家ジャーナリズムコースの中心人物の一人、ジェレミー・キャプランさん(撮影/朝日新聞メディアラボ・林亜季)

おお、かっこいい。iPadでパシャパシャ写真を撮っていると、ピンクの縞模様のシャツの上から黒っぽいジャケットを羽織ったキャプランさんが近づいてきました。ジョージ・クルーニー風の笑顔。私もスマイルで返します。「ハロー、アイ アム ライアン」。

キャプランさんはタイム誌やニューズウィーク誌で記者・編集経験があり、米国のジャーナリズム界で注目されている人の1人。大学内を見渡すと、起業家ジャーナリズムコースのために、世界各地の若者が来ていることが分かります。

受講生は十数人で、アルゼンチン、インド、英国など出身地はさまざま。報道機関が発達していない途上国の出身者が「新しいメディアを立ち上げたい」と問い合わせをしてくることもあり、米国まで来るお金の余裕がない若者のためにオンラインの教育プログラムも用意されています。

ジャーナリズムだけではなく、経営学の基礎・理論の学習、デジタル技術の習得、新興IT企業や報道機関へのインターンシップなどを経験させます。

自らプログラミングをして、取材テーマごとにウェブサービスなどを立ち上げるようなジャーナリストを育成したいという思いもあるそうです。

世界で広く知られているようなサービスを生み出した起業家ジャーナリストは、まだこのコースから出ていません。「起業家ジャーナリスト」という言葉は、まだまだ「コンセプト」としての性格が強いのでしょう。

ただ、ニューヨーク市立大学はケーブルテレビ会社の経営者や財団などから資金を調達してこのコースを運営し、面白いビジネスプランを持った受講生には起業資金を与えるなど新しいお金の流れを生みだそうとしていて、近い将来画期的なサービスも出てくるに違いありません。

次ページ 「ワクワク感伝えるライブ・ジャーナリズムが活況に」に続く

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