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「ライフタイムバリュー」とは、「一人の顧客がその取引期間を通じて企業にもたらすトータルの価値」

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小西圭介(電通 マーケティングソリューション局コンサルティングディレクター)

顧客視点の価値への発想転換

ライフタイムバリュー(顧客生涯価値:以下、LTV)は、ダイレクトマーケティングの世界から生まれた考え方で、データベースに基づく顧客価値の定量的なモデル化が進展したことによって1990年代頃から注目されるようになった。

しかし、LTVの概念が単なる指標を超えて、今日的な重要性を持っているのは、従来の製品中心の短期的な「売上-利益」の発想から、一人ひとりの顧客視点で長期的な価値と収益を考える、という本質的なマーケティング発想の転換を意味するものであったからだ。

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例えば製品中心の考え方では、新規顧客の開拓にマーケティングコストの大半を費やすことになりがちだが、LTVの考え方によって、「一見客よりも馴染み客を大切にせよ」といった古くからの商売の経験則が科学的に証明されるようになった。すなわち新規顧客の開拓よりも、一度顧客になった人との良好な関係を維持するほうが、企業にとってはるかに効率的で、長期にわたる安定した収益をもたらすことが明らかになってきたのだ。

LTV重視のマーケティングの前提として、フレドリック・F・ライクヘルドらが、顧客を維持することが企業にもたらす利益成長効果を分析した有名な研究がある。そこでは、顧客との継続的な関係の構築によって、①基礎利益に加えて、②購買・残高増利益(クロスセルなど)、③営業費の削減利益、④紹介による利益、⑤価格プレミアム利益などが上乗せされることが示されている【図1】。

また、パレートの法則(20:80の法則)として知られる、多くのビジネスで2割の顧客が8割の収益をもたらしているという分析も、価値(LTV)の高い顧客を特定し、顧客維持や関係強化の取り組みに優先投資を行う重要性を示すものである。

どう測定し、活用するのか

さて、具体的なLTVの算出はどのように行うのだろうか。そのためには少なくとも、以下の3つの数字が必要となる。

①顧客からもたらされる利益、②顧客の維持率(維持期間)、③顧客維持に関わるコスト、である。

最も単純な例を示すと、ある契約型サービスを利用する顧客からの年間利益が10万円だとしよう。

年間の顧客脱落率が25%であるとすると、平均顧客期間は1÷0.25=4年となる。すなわち、期間中の平均利益は10万円×4年=40万円であり、その期間の顧客獲得と維持コストが計5万円かかっていたならば、差引き35万円が顧客のLTVになるというわけだ。

【図2】は、より実務的なLTVのシミュレーションの例である。ここでは一人ひとり異なる顧客の収益見込みや顧客維持期間を予測するのは複雑になるため、同じ属性の顧客グループの平均的な数字を用いている(継続するほど顧客維持率が高まり、維持コストが低減する想定になっている)。

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そして、LTVでは将来見込まれる収益を現在価値(NPS=Net Present Value)に換算するため、企業価値評価などと同様、一定のキャッシュフロー割引率を適用した数字を用いる。

また「生涯」といっても、実務上は3年や5年といった予測可能な期間での顧客価値として考えるのが一般的である。

これは比較的シンプルなモデルであるが、より進んだ企業では、一人ひとりの顧客の将来の収益見込みや継続率について、顧客プロファイルや行動パターンなどに基づく統計モデルを活用して、さらに精緻なシミュレーションが行われる場合もある。

例えば、イベントで一時的に高額の購買をした顧客と、定期的に購買している顧客では、継続率や成長ポテンシャルが異なることが容易に推定されるだろう。

こうして算出されたLTVは、ある顧客の獲得と維持にどのぐらいマーケティング投資を行うべきかの基準値となる。マーケティング施策を投下することによって、顧客獲得数、顧客維持率や顧客利益がどう変化するのかを追跡し、LTVを最大化する検証と改善プロセスを回していくわけだ。

例えば闇雲に新規顧客数の拡大を追求すると、獲得コストが上昇するとともに、顧客維持率や利益が低下し、LTVが減少することがよくある。

もちろん、このようにLTVを測定し、マーケティング活動に生かしていくためには、一人ひとりの取引金額や継続期間、さらにはマーケティング活動の効果などを測定する手段が必要である。

会員カードなど顧客IDベースで購買や行動履歴を蓄積するデータベースの進化によって、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の取り組みが発展してきたわけだが、今日ではオンラインの顧客接点なども多様化し、部門を超えて顧客データの種類が増え続ける中で、マーケティングデータベースの統合が大きな課題となっている。

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