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『週刊文春』編集長インタビュー「紙の時代は終わった」は、売れないことの言い訳

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「文春砲」「センテンス スプリング」「デスノート」——報じる記事はそう称され、いまや世間の話題の発信源になっている『週刊文春』。3月16日に発売された『編集会議』では「コンテンツ・ビジネス」を総力特集。巻頭では、『週刊文春』編集長 新谷学氏への<1万字インタビュー記事>を掲載している。スクープはどのようにして生まれるのか。衰退する雑誌ビジネスの新たな活路は。国内の雑誌売上No.1を誇る凄腕編集長に、雑誌を起点としたコンテンツ×ビジネスのこれからについて聞いた。(取材日:2016年2月12日)

弱い者いじめは大嫌い
ベッキーさんには同情している

——2016年になって以降、多くの話題が『週刊文春』のスクープによってもたらされました。世の中に与えたインパクトも大きかったですね。

(ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんとの不倫を報じた)ベッキーさんのことは、正直あそこまで激しいバッシングになるとは思わなかったです。とくに第3弾、「ありがとう文春!」「センテンス スプリング」といったLINEでのやり取りは、ちょっと面白いかなと思って出したら、想像以上に大騒ぎになってしまった。

ただ我々は、あのような騒動になることを求めて記事を書いているわけではありません。「世の中で好感度が高いと言われている女性タレントですが、恋もしますよ。それがたまたま禁断の恋でした、びっくりですね」というところまでであって、ネットリンチみたいな状況になり、CMに出られない、仕事もできなくなってしまったいまの状況には、困惑しているというか、かわいそうだなと思っています。

だから、ベッキーさんにはすごく同情しているんです。でも「ベッキー頑張れ!」というのをうちでやっても、「お前が言うな!」と言われてしまうだけなので、なかなかできないのですが。

一方で、一つの記事によって、あのような事態になってしまう世の中であるということは、我々もきちんと自覚しなければならないと肝に銘じました。やはりネットの力は大きくて、一報を出した後の広がり方もそうですし、いわば水に落ちた犬に対する叩き方が苛烈を極めてしまう。

私はそういった弱い者いじめのようなことは本当に嫌いです。安全地帯から正論を吐くほど嫌なことはない。そうではなくて、金ピカに輝きながら偉そうにしている人に対して、「王様は裸だ!」と最初の一太刀を浴びせることこそが、私たちの仕事だと考えています。

(元グラビアアイドルとの不倫を報じて議員辞職した)宮崎謙介・元衆議院議員の記事は、彼が国会議員として育児休暇を取得するというタイミングでしたし、かなり話題になるとは思っていました。宮崎元議員は直撃取材で、「このタイミングで勘弁してよ」と言っていましたが、それはあなたが言うセリフではないだろうと。

ただ、さすがに出産前に記事を出すのはやめようと、編集部で決めていました。万が一にでも、奥さんや子どもに何かしらの悪い影響が及ぶ可能性がある以上は、他誌に抜かれたとしても、それは避けようという判断です。

しかしこの事実自体は絶対に報じるべきだと思っていたので、妊娠している時点で裏付け取材も終わり、写真も撮影していましたが、出産を待って出しました。

この件についても、議員辞職までするとは思っていませんでした。我々としては、辞任すべきだと書いたつもりはないですし、辞任を求めて報じたわけでもない。あくまで結果に過ぎません。誰かを叩き潰すために雑誌をつくると、途端に誌面が暗くなる。そうした点も読者の皆さんに理解していただきたいです。

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「親しき仲にもスキャンダル」
仲良くなっても食い込むのが仕事

——スクープを取ってくるのは、どのような記者なのですか。

本記事は、『編集会議』2016年春号「コンテンツ×ビジネス」特集の記事の一部編集し、抜粋したものです。1万字記事の全文は 本誌をお読みください。

共通しているのは、野心を持っていることです。「スクープを取ってやる」という気概があるかどうかは大きい。私はよく言うのですが、スクープというのは、狙ってもなかなか取れないけど、狙わないと取れないものです。

記者の仕事は、人に会うことです。日常的に色々な人と会うなかで、ただ漫然と会うのか、あるいはネタを探すという意識を持って会うのかで、全然違いますよね。やらされ仕事として、名刺交換して話を聞き、原稿を書いておしまいの記者もいれば、取材を一期一会にせず、その後の人間関係をきちんと築く記者もいます。

たとえば、会ってみて良いなと思う人がいたら、少なくとも御礼のメールをする。もしくは、御礼状を書いたり、雑誌を毎週送るなどして人間関係を築いていく。そして折に触れて、「お茶しましょう」「お食事に行きませんか」と誘って、人間関係を深めていくのです。

相性はありますが、見どころがあるなと思ってもらえれば、相手からネタを教えてくれたり、面白い話を聞かせてくれたりもします。もっと言えば、さらに深いネタ元を紹介してくれることもある。

それを積み重ねていくと、ネタ元が広がると同時に深まっていく。個々の記者が情報網を張り巡らせていくと、取れるネタの深さや正確性、インパクトもどんどん大きくなっていきます。記者の意識によって左右される分、そうした記者の集合体である『週刊文春』の編集部は強いと思います。

——新谷編集長ご自身は、ネタ元になる方や取材対象者とは、どのように関係を構築されているのでしょうか。

とくにこれといった秘訣はないのですが、誰が相手であっても態度を変えないようにはしています。いくら偉い人でも媚びることはしないし、言うべきことは言って、嘘はつかない。そうした自然体での信頼関係ができれば、一対一の人間としての関係が、長続きすると思います。

それと、女は愛嬌と言いますが、男も愛嬌だと思います。どれだけ相手にかわいがってもらえるか。それはテクニックの話ではなく、人として気に入ってもらい、信頼してもらえるかどうかです。

一方で、私は常々「親しき仲にもスキャンダル」とも言っています。記者である以上、いくら仲良くなっても書く時は書きます。仲良くなることは大事ですが、それが目的ではない。仲良くなって食い込み、ネタを取り、記事を書くのが仕事です。書いてから、多少気まずくなったり、その後に関係が修復しないこともあれば、信頼関係を取り戻せることもある。いずれにしても、こちらからその扉を閉ざすことはないです。

現在、『週刊文春』で連載していただいている内閣参与の飯島勲さんも、私がデスクだった時代から仲良くさせてもらっていて、小泉政権の時に2回ほど現役総理のインタビューをさせてもらいました。

ただ週刊誌の宿命として、時の政権は批判対象です。うちが小泉批判や飯島批判を展開すると、飯島さんはもともと仲が良かっただけに余計に怒ってしまい、名誉棄損で裁判になってしまった。東京地裁での証人尋問では担当デスクとして直接対決しました。結局、その裁判ではうちが負けて、飯島さんとの関係は途絶えました。

その数年後に、私が編集長になったタイミングで、政治をテーマとしたコラムをやりたいなと考えていて、飯島さんにお願いできないかと思ったんです。それで、ちょうど共通の知人で間に入ってくれる人がいたので、久しぶりに会いました。ご無沙汰していますと挨拶すると、飯島さんも「いやぁ、東京地裁以来だね」というやり取りをしながら、実は『週刊文春』でコラムを書いてほしいと言うと、すごく喜んでくれまして。そうして関係が復活するのは、やはり嬉しいですね。

面白い人や情報が集まらないと
面白い雑誌をつくることはできない

——-ここ数年は出版不況と言われ続け、その元凶は雑誌だと、あらゆるデータで裏付けられています。雑誌は「冬の時代」とも言われているなかで、『週刊文春』では完売する号も出ているというのは驚きです。

2016年になって発売した『週刊文春』のうち、すでに3号が完売しています(2月29日時点)。それ以外も7、8割近く売れていて、部数で言えば、実売で50万部を越える号も出ています。

ただ、ここ数年の状況を考えると、完売というのは、なかなか想像できなかったですね。私は2012年4月に編集長になり、その2カ月後の6月に出した「小沢一郎 妻からの『離縁状』」(2012年6月21日号)と、その翌週の「巨人原監督が元暴力団員に一億円払っていた!」(同6月28日号)の号で、2号連続で完売し、これはいけると思っていたのですが、その後は難しかった。良いスクープは何本かありましたが、完売のハードルは想像以上に高かったのです。

これは独自スクープではないですが、みのもんたさんの次男が逮捕された時に完売したのが、2013年9月。それ以降、およそ2年4カ月、完売は出ませんでした。

ポジティブが取り柄の私でも、もう完売は難しいのかなと、弱気にもなりかけました。ただ「紙の時代は終わった」と言われると「本当かよ」と思いたくなるのです。そうした悲観論を、売れないことの言い訳にしている面もある。出版不況とか紙の時代は終わったというのは、だから売れなくても仕方ないと言っているようにも聞こえるじゃないですか。少なくとも私はそういうことは言いたくないし、言ったこともありません。

2016年に入って完売した3つの号(2月29日時点)。

そして今回、立て続けに完売号が出た時に、本当に面白いコンテンツであれば、紙であろうがデジタルであろうが売れるのだと、改めて確信できた。この好調がどこまで続くはわかりませんが、久しぶりに完売を出せたことは、自分にとっても大きな自信になりましたね。

——新谷編集長が考える「良い雑誌の条件」には、どんなことがありますか。

面白い雑誌は、面白い人や情報が集まらないとつくれません。集まる人や情報が面白いほど、雑誌は面白くなる。我々の仕事は、常に面白い人や情報を探すことでもあります。

一人の頭で企画を考えているだけでは限界があるので、編集部内のコミュニケーションを活発にして「これは面白い」「これはつまらない」などと、思い思いのことを口に出しやすい雰囲気をつくることも大事です。イケイケどんどん、ワイワイガヤガヤしているくらいのほうが、面白くて良い雑誌がつくれると思います。

うちの場合は、テレビのワイドショーで「~と週刊文春が報じた」というのをみんなで見たり、記者会見でうちの記者が質問しているのを見て盛り上がったりしています。

編集部員が面白がってつくっているかどうかは、誌面を見ていればすぐわかります。やらされ仕事でページを埋めているのか、本当に興味を持って一生懸命つくっているのかは、一目瞭然です。

タイトルはもちろんですが、キャプションなどの細部にはそれが出やすい。細部へのこだわりは、仕事が好き、雑誌が好きといった“愛”がないと出てこないじゃないですか。だから編集部の活気が伝わってくるような雑誌は、見ていて楽しいですよね。

ここ2年くらいで面白いなと思うのは『POPEYE(ポパイ)』です。学生時代はよく読んでいて、その後すっかりご無沙汰していたのですが、編集長が代わったからなのか、現場が面白がってつくっているのが伝わってきます。一つひとつのキャプションや写真のレイアウトからも、こだわってつくっているのがわかる。『POPEYE』が提案するライフスタイルや世界観が、誌面ににじみ出ていると感じます。

詳しいディープな内容は雑誌に
コンテンツビジネスを強化

——方で、雑誌の市場規模はシュリンクしています。雑誌ビジネスの次なる一手として、『週刊文春』ではコンテンツビジネスを強化していますね。たとえば、発売前日にネット上に記事を先出しし、詳細は誌面で報じるといった手法も確立しています。

その手法についても、当初は議論が分かれていました。『週刊文春』は毎週木曜日発売で、水曜日の夕方16時に速報記事を出します。それがYahoo!トピックスに載れば、他のメディアにもどんどん伝播され、掲載雑誌が発売される頃にはみんなが知っている情報になっている。そうすると、あえて紙の雑誌を買わなくてもいいと考える人も多いのではないかという意見がありました。だから極力、事前に情報は出さないほうが良いと。

一方で、少しでも拡散させて、情報の認知を広げるほうが得策という考え方もありました。いまの時代は情報を抑えることはできませんし、ネット世代の若い層に『週刊文春』の存在を知ってもらう効果もある。

そのため、現在は発売に先駆けてネットを通じて情報を知ってもらい、詳しいディープな内容は雑誌を読まないとわからないようにしています。

いずれにしても、我々がこれからやるべきだと考えているのは、紙の雑誌である『週刊文春』が生み出すコンテンツをいかにビジネスに結び付けるか、メディアとしてのマネタイズをするかということです。そのためにはまず、コンテンツの価値をしっかりと理解してもらうことが重要です。

一つは、読者に理解してもらうこと。ネットでは記事を無料で読めますが、クオリティの高いスクープ記事などは、無料というわけにはいかない。そういったコンテンツに対しては、お金を払うべきではないかという空気をつくることを目指しています。当然ながら、良質な調査報道を続けるためにはお金が掛かりますから。

ここ最近のネット上の書き込みを見ていると、「週刊文春を応援するために買おう」「明日、週刊文春を買うのが楽しみ」といった声が増えてきている。編集部にも読者からの投書がたくさん来るのですが、10〜20代の読者から「はじめて紙の雑誌を買ったけど、面白くてドキドキした」「お父さんの雑誌だと思っていたけど、読んでみると面白かった」といった声をいただくこともあります。

本当に少しずつではありますが、良いコンテンツに対しては、きちんとお金を払う必要があるのだという空気は生まれているのではないか。そんな手ごたえを感じ始めています。

・・・「『週刊文春』編集部のルール」「書けることと書けないことの線引き」「『週刊文春』というブランドの築き方」「新谷編集長が考えるゴシップを報じることの意義」など、続きは『編集会議』2016年春号をご覧ください。

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