相米慎二監督との約束
田中:そう、これからなんですよ。47で、もうすぐ50歳でしょ、他の皆さんは一通りやって、住宅ローンもだいぶ払って、子どもできたりして、楽だなぁと言ってる状態のところから、僕は何もしないでここまで来たから、今からはじめるというしんどさがあって。じつは「青年失業家」「無職」と言いながら、今年1月1日に会社を辞めてから1日も休みないんです。
中村:本当ですか? すごい。
田中:何かの依頼を受け続けて書いてるんですよ。
澤本:毎日書いてるんですか?
田中:毎日書いてますね。でも、今は失業保険、失業給付をもらってるので、やってもやっても儲からないんですけど、今年書いて、評判がいいから来年以降はちゃんとお金あげますという人とお付き合いをしていこうかなと思ってます。
権八:最近のコラムで「相米監督との約束」みたいなものがあったじゃないですか。あれも僕は胸を打たれました。
田中:もう20年近く前になると思うんですけど、うちの会社に2年後輩の直川隆久くんという人がいて。
権八:素晴らしいプランナーですよね。尊敬してます。
田中:東京大学法学部ご卒業になって、優秀な学士様、直川さん。彼は相米監督とCMの仕事を結構やってたんですね。僕は小学校高学年のときから相米監督のファンだったんですよ。『セーラー服と機関銃』『ションベン・ライダー』『魚影の群れ』、一番好きなのは『台風クラブ』ね。
直川くんが相米監督とCMつくってるのうらやましいなと思ってたんですけど、その直川くんが「家の庭でPL花火がよく見えるんです。田中さんと相米さんを前から会わせたいと思っていたので、そこで花火を一緒に見ましょうと」誘ってくれて。
「うわ、相米さんと会える」と思って行くんですけど、相米さんに「直川の先輩の田中です。すごいファンで」というのだけはやめようと思って。ダサいし、かっこ悪いじゃないですか。
権八:わかります(笑)。言いたいんですけどね。
田中:だから無言で、一番高い1本1万円ぐらいする大吟醸の一升瓶を買って、相米さんに「どうも、今日はよろしくお願いします」と言って、一升瓶を出したんですよ。そしたら、相米さんが「大吟醸? お前ふざけんじゃねーぞ。あのさぁ、こういう大吟醸っていうのは杜氏が心を込めてつくったものなんだ。人間が飲むような甘っちょろい酒じゃないんだ。神様に捧げるものなんだ。絶対に飲むなよ、こういうものは」と言って、自分が全部飲んだんですよ。
一同:(笑)
田中:その姿を見て、さらに大好きになって。なんちゅう勝手な人だと。酒が進んでいくうちに、お前も飲め飲めと。自分は大吟醸を飲んで、僕は直川さんの家から出てきた安い酒をずっと飲むわけですよ。直川さんも途中ヒヤヒヤしてたと思うんですけど、僕がファンなものだから、酔っ払って、今と同じように7千字ぐらい、偉そうに映画評をはじめたんです。
中村:おぉー。
田中:『台風クラブ』のあのシーン、僕はこう思うんですよ。あのカットは良かったですねって。めっちゃヤバイでしょ(笑)。
澤本:勇気あるわ(笑)。
田中:まだ30前だし。いい気になってるんですよ。僕もだんだん口が滑って偉そうになってくるんですよ。
『夏の庭』という映画で、三國連太郎が戦争の思い出を語るシーンがクサいと思っていて、「僕はあそこがちょっと納得できないシーンですね」と言ったら、相米監督は怒るかと思ったら、しんみりした顔で「お前は納得してないのか」と。
「はい、千何百円払って映画館行って、納得できませんでした」と言ったら、「納得か・・・俺もいろいろなこと納得してないよ。お前もいつかものをつくるようになったら、納得してないということと付き合っていかないといけないんだよ」と優しく言われて。
それ聞いて、僕はシュンとしたよりも、さらにそこから3時間ぐらい映画評論を続けて。
一同:(笑)
田中:最低でしょ。直川さんはずっとハラハラしてたと思うんですよ。なんで会わせちゃったんだろうと。
それから直川さんがとってくれた近くの渓流沿いの宿に入れられたら、グワーと欄干からゲロを吐きながら、相米さんに「それでね、この間の映画ですけどね」とまだ言い続けて。相米さんも流石に呆れて、「お前は口ばっかりの奴だな。口ばっかりだったら、口ばっかりで頑張れよ。このままいけよ」と言ってもらって。じゃあ、口ばっかりだったらいつか映画評論みたいなものも書いてやろうと思ったんです。20年近く前の思い出ですね。
中村:繋がってますね。
田中:相米さん、亡くなってね。亡くなったときはエンジンフイルムさんが葬儀仕切って、案内も来ましたけど、行けなくて。東京まで来たけど、築地本願寺に入れなくて。ちょっとおこがましいというのがあって。1回会って、偉そうに講釈垂れただけの人がご焼香する資格がないと思って、中に入らなかったんですよ。泣いちゃいそうだというのもあって。
相米さん面白かったのは、酔いが覚めた僕が車で相米さんを大阪駅まで送っていくことになったんですよ。大阪南部から高速道路に乗って、直川くんが後ろに載って。料金所で千何百円、おぉここは金取るのか、「俺払ってやらぁ」と、財布出したんですよ。財布パッと開けたら、200円しか入ってなくて。「うーん、お前払っておけ」と。大阪に来るのに財布に200円ですよ。どうやって来たのかもわからない。監督、どうやって東京まで帰るんですか?と聞いたら、「着払いで何とかなんねーかな」って。
権八:着払い(笑)。荷物だ。
田中:豪快な人でしたね。
権八:実際にそうやって生きてたみたいですね。各方面で。みんな何かしてあげたくなっちゃうから。だから、東京に着いたら誰かに連絡して、払いに来るんですよね。
田中:すごい人でしたね。
<後編に続く>
構成・文:廣田喜昭
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