コラム

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成瀬勇輝×坂井直樹 対談 お金が無くなったら生きていけない、と思っていないか?

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海まで移動し、波の音を聞きながら創作する

成瀬:今作っているオーディオガイドは、お寺や神社が多いです。東洋的思想に対して、海外の人たちからの興味関心はすごく高まっていると感じています。禅なんかもそうですが、自分の内面に向きあおうとしています。

坂井:インナートリップですね。

成瀬:はい。マインドフルネスやヨガもそのひとつだと思います。日本のお寺や神社には、内面に気づかされるような東洋思想に触れたいという海外の人がたくさん来ているのですが、伝えきれていない部分が多いんです。

坂井:説明が足りないんですよね。

成瀬:お寺に行ってもわからないことが多く、ちょっとがっかりされてしまうんです。かつて仏教学者の鈴木大拙さんが禅を英語でプレゼンテーションして世界に広めたように、伝えていくことの大事さを自覚しないといけないなと。

坂井:寺子屋の復活が必要かもしれない。

成瀬:しかし文化財側は何を伝えたらいいか分からないし、お金がないところも多い。ヨーロッパでは、文化財の入館料が高くて、サグラダファミリアは3000円する一方で、日本のお寺は300円とか。維持できないからどんどん縮小していきます。台風で屋根が吹き飛んでしまったお寺も、修復費に7、8000万円かかることから結局ブルーシートを張ったままだったりします。だから入館料や拝観料を上げる必要がある、と思っています。

坂井:寺や神社には面白い秘密がたくさんあるんですけどね。例えば、明治神宮の森は、天然ではなく、全国から木を持って来た人工林で、当時の日本人が、明確なコンセプトをもってつくった森で敢えて鳥が集まらないよう実のならない木にしているとか、伏見稲荷大社の千本鳥居は、1本1本寄付した人の名前が書いてあって、現代でいうクラウドファンディングだとか。でも物語になってないと、伝わらない。

成瀬:そうなんです。東大寺の大仏も、当時日本にいた半分の人が関わったと言われていて、僕たちのおじいさん、おばあさんが関わっていたかもしれないと思うと面白くなってきます。

でも物語になってないと、来た人たちは何も分からず、スマホで写真だけ撮って終わってしまう。でもデジタルの力は、物語を伝わりやすくするために使えると思っていて、なぜその文化財ができたのか、どういう思想で作られたのか、今の人たちはどう感じているのかといった、ただの情報ではない物語を、僕らはオーディオガイドで伝えようとしています。物語を整備できれば、それはきた人たちへの付加価値になる。僕たちはオーディオガイドを誰でも無料で使えるように整備して物語を伝え、文化財の入館料や拝観料を上げる取り組みをしています。

坂井:VRとか、ノンバーバルな漫画で見せるのもいいかもしれない。

成瀬:コンテンツをつくるために、拝観料を地元の人達には無料、海外の人たちは高く、と2つ設定していいと思っています。その代わり、海外の人にもわかるように翻訳して物語を伝えていけば、付加価値が上がるし、収益が上がれば設備投資もできます。コンテンツはオーディオガイドだけではありません。先日、妙心寺退蔵院と一緒に、あめ玉をつくったんです。妙心寺は禅のお寺で、きた人たちに禅を少しでも身近に感じてもらいたい。そう思ってあめ玉を作りました。

坂井:なぜ、あめ?

成瀬:禅には行住座臥という考えがあります。座ってもたってもどこでも修行ができる。そして、一つのことに意識を集中することで修行ができるとも言います。掃除をするときは掃除だけ、食事をするときは食事だけに集中。あめ玉を舐めるときって、基本的に仕事しながら、スマホ見ながら、とかが多いじゃないですか。だから、あめを舐めるときに舐めることだけに意識を集中することで、禅の入り口に立とうと思ったんです。

坂井:面白いですね。

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あめ玉で禅体験

成瀬:それを本堂で座りながら舐めてもらう体験をつくっています。あめ玉は「ひと粒の禅」というタイトルで、退蔵院の中でとれた柚子と、瞑想効果のあるゴツコラという薬草、そして花粉症に効くという食べられる杉のウッドパウダーでつくりました。

いま僕は、自分の内面へ向かっていくことでトランス状態に飛ぶことに興味があるんです。旅において絶景は語り尽くされたし、デジタルによってあらゆるものが既視感に襲われるけど、まだまだ砦がある。それが自分の内面であり、感受性。僕は最後の絶景は自分の感受性にあると思っています。

坂井:滝行も、飛ぶというよね。僕のおばあちゃんは、シャーマン(拝み屋)だったので、高野山で2月に一人で滝行をしていました。

成瀬:僕は滝行をしたことはないですが、水の冷たさで、意識が飛ぶ感覚はわかるような気がします。4年間毎日サウナと水風呂に入っていて、熱いサウナの後に水風呂で血管が収縮すると、セロトニンが分泌されて気持ちよくなるんです。これをオーガニックハイと呼んでいます(笑)。禅も8年前からやっていて、アメリカで禅を教えているジョブズの師匠だった秋葉玄吾さんの好人庵に、1カ月ほどお世話になっていたこともありました。

坂井:線香の香もあって、身体の感覚が鋭くなりそうです。

成瀬:外へ外へと向かっていこうとすると、結局自分の内面と向き合うことが必要になってきて、それが今の人たちが求めているコンテンツではないかと思っています。それをつくるきっかけが日本の文化資産にあるし、日本が世界をリードできる部分だと思います。リアルな場所で体験したことを拡張する後押しは、デジタルができると考えています。

坂井:山伏修行はしました?

成瀬:ないですが、興味あります。山伏の寺、三井寺にはインタビューに行きました。山伏は、各地を巡る遊行をしながら、都で学んだ土木や建築などの最先端のカルチャーをインストールして文化を作っていたと聞きました。それはノマドの人達が、各地をめぐりながらコンテンツを作っていく感覚と近いものがあります。

坂井:それを聞いて、ヒマラヤ山脈にあるシェアオフィスを思い出しました。籠る人もいるそうで、小説を仕上げなくてはいけないだとか、ニーズはありそうですよね。

成瀬:実際、執筆活動はネットがなくてもいいし、自然に近いところにいるほうが、面白いものが出せるような気がします。バンを海辺に止めて、海の目の前で仕事をすることもあります。僕らがバンで暮らして取材先に1~2か月滞在しながらオーディオガイドを作っていく過程は、アーティストが地域に滞在しながら作品を作っていくアーティスト・イン・レジデンスの発想に近くて、決して住民にはならず、よそ者の視点を持って制作することで、住民にはなかった視点を手に入れるようにしています。

坂井:バンの中に自分の荷物はどれくらい置いてあるの?

成瀬:スーツケース1個あるかないかです。バンには、風呂もトイレもありません。リビングとすら言えない。もはや寝床です。3~4人寝たら満杯です。

坂井:でも、意外と生活できてしまうのでは?

成瀬:はい。食事も地域の人たちと食べるし、冷蔵庫がないので水を買いにコンビニにも行く。暮らしをアウトソーシングしているんですよ。すると、あそこのコインランドリーがいい、とか地元の人よりまちに詳しくなっていって、まちが自分たちのホームになっていく感覚になります。一つの場所に固定せずに、方丈記のように移動しながら暮らす発想と、デジタルを含めてアウトソーシングしていくことの融合。これも、これからの暮らし方の一つになっていくのではないかと思います。

坂井:Uberなんかは、今フードデリバリーをしているけれど、長期的には、「家に何もなくても必要なものは届けますよ」という事業に近づいていくのかもしれないですね。これから空中タクシーも出てくるだろうし。

成瀬:暮らしをアウトソーシングして分散していくと、外とのかかわりは増えていきますから、本当に豊かなものとは何なのか、より鮮明に見えてくるかもしれません。僕らのバンでの暮らしは、一般的に見たら怪しいですけれど、暮らしが自然に近くなっていくのは心地いいものです。朝、鳥の鳴き声で起きるとか、海の音を聴きながら寝るっていう生活は都会ではできません。そういうところに豊かさを求めることもできそうです。

坂井:心の時代ですね。僕は10歳前後の3~4年間、おじいさん、おばあさんと家を作って自給自足していたんです。電気も水もガスもない。夜は石油ランプ。太陽が落ちたら寝て、朝は太陽が出たら起きるような生活でしたが、僕にとってはもうワンダーランド。食べるものなら、野菜も鶏も、全部周りにありました。

東京の人は、お金がないと死ぬと思っているけど、通貨なんて数千年前にできたもの。それまでは普通に生きたわけですし。僕の友達は、アメリカからコスタリカに行きましたがバナナやパパイヤや赤トウガラシも生えている。魚もバンバン釣れる。死ねないですよ、あそこでは。しかもコスタリカは軍隊もない。

成瀬:必要ないものを持たなくていい生活をデジタルが後押ししてくれるといいなと思います。

坂井:AIが進化したら人はどうすればいいか、とみんな焦っているようだけど、アートとか旅とかそういうのでいいんですよね。みんな遊ぶことを知らないから、遊び方の学校を作らないと。

成瀬:そうですね。特に内面の旅を楽しむことは、これから大きなコンテンツになるはずです。ベストセラーになった『サピエンス全史』の中に、ホモサピエンスが優れていたのはフィクションを信じる力が他の種族とは違うからとありましたが、物語を信じる力を持っているというのは人間の大きな特徴です。

坂井:松下幸之助も、「物心一如」と言って、目に見えるものだけでなく、目に見えない要素も大事にすることを説いていました。

成瀬:これからは、受け取る人によって多面的な解釈ができて、物語が変わっていくことを楽しめるようなコンテンツ、受取る人が物語の一部になるようなコンテンツづくりにも挑戦したいですね。時間、季節、その人の感情によって楽しみ方が変われば、単なる情報ではない、リッチコンテンツになっていくと思います。

理論物理学者・佐治晴夫さんは、今までがこれからを作るのではなくて、未来の自分が過去を定義している、という話をされていました。例えば恋人と別れたという事象も、3年後の自分からすると、新しい出会いのためのプロセスとも言えるし、もしかしたら再び出会うための布石かもしれない。こうした考え方は、物語が、受け取る人や場所に応じて変わっていくという話に近いと思います。

坂井:バンで移動しながら、コンテンツを作って暮らす成瀬さんのスタイルは、未来の自動運転の世界として想定されているような、車が宿泊施設になったり、オフィスになったりすることを先取りしていますよね。新しい発想をどんどん取り込みながら、いろんな物語を体験できるコンテンツをつくっていってください。

成瀬勇輝

東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国バブソン大学で起業学を学んだ後、NOMAD PROJECTを立ち上げ、世界30カ国をまわり、起業家500人にインタビューしウェブマガジンにて発信。帰国後、企業コンサル、イベント事業を経て株式会社number9を立ち上げ、世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業。2017年「あらゆる旅先を博物館化する」をコンセプトにトラベルオーディオガイド「ON THE TRIP」を立ち上げる。著書に『自分の仕事をつくる旅』『旅の報酬 旅が人生の質を高める33の確かな理由』。

 

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