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最近よく聞く「パーパス」って何ですか? Vol.4 インタビュー篇 人のふれあいも、パーパスや理念をベースに接することが大事
明光ネットワークジャパン 山下一仁社長

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聞き手:エスエムオー代表取締役/ブランディングコンサルタント
齊藤三希子

近年、広告界を中心に注目され、ムーブメントになりつつある「パーパス」。「何のために存在するのか」という、企業経営における本質であるにもかかわらず、その本来の意味を理解しきれず、どのように活用していけばよいのか、答えを出しかねている企業が少なくありません。
そんな中、日本初の個別指導塾「明光義塾」を中心に、教育事業のブランドを複数展開し運営している明光ネットワークジャパンが2021年秋、新たに“「やればできる」の記憶をつくる”というパーパスを策定・発表しました。
そのパーパスがどのようにできあがったのか、『パーパス・ブランディング』著者 である齊藤三希子さんが、山下一仁社長にインタビューしました。

明光という会社を、もっとわかりやすく表現、発信したい

齊藤:パーパスのことをきちんと理解された上で導入されている企業さんのインタビューということで楽しみにしておりました。まずは社長のご経歴を教えていただけますか?

山下:1982年に大学卒業後、ダイエーに入りました。本当は学校の先生になりたくて社会の先生として母校で教育実習もしたんですが、教職試験に落ちて(苦笑)、ダイエーに就職して19年いました。私の考え方のルーツはダイエーですね。
その後、カタリナマーケティングジャパンでリテーラー担当のシニアディレクターをやっている時に、明光の取締役になった元同僚から声をかけてもらったんです。
当時の社長の渡邉弘毅(現会長)と専務の奥井世志子(現相談役)に会って話を聞いて、こんなに純粋に、真っ正直に教育のことを語って経営をされる創業者がいるんだとびっくりして、この会社でやろう、と思いました。教育ほど綺麗で美しいものはないなと思って。
ダイエー時代には色々なものを売ってきたけれども、将来を「売る」のではなく、子供の将来を「担っている」ということに対して、すごいなと。そこにこの会社の社会的存在意義があると思っています。
明光ネットワークジャパンというのは、日本で初めて個別指導をやった佐々木慶一さんの佐々木塾を引き継いで、1984年に立ち上がりました。その1年前に渡邉弘毅がグループ経営構想という長期ビジョンを作ったんです。そこに今の私たちの理念(個別指導による自立学習を通じて創造力豊かで自立心に富んだ21世紀社会の人材を育成する)のベースがあります。なんて綺麗な理念なんだ!と思って入社しましたね。

齊藤:大学時代の思いが、別の形で花開いたんですね。
パーパスという言葉ではないけれど、ベースとなるものが創業時からずっとあって、それが脈々と引き継がれたということですね?

山下:そうですね。明光義塾には412人の塾オーナーである皆さまがいて、教室長を入れると2000人を優に超え、講師を含めると3万5000人を超えますが、みな私たちの教育理念に賛同していただいている。新卒の方も入社するときに理念や自立した人材の育成ということについて共鳴していただいています。

齊藤:素晴らしい理念がある中で、今回パーパスを改めて策定しようと思ったきっかけはなんですか?

山下:理念は社内やチェーンの中で大事にしていたけれど、他のステークホルダーさんに対して、明光ってどんな会社?ということが発信されていないということがあって。もっとわかりやすく表現、発信していかないと、と考えたところに齊藤さんの本に出会って、パーパスということに気づいたんですね。今まではビジョンを掲げてバックキャスティングをしていたんですが、そうか!こういう考えがあるんだなと思って。 

齊藤:外部のステークホルダーの方々にわかりにくかったということですが、具体的にどのような方を想定されましたか?

山下:株主の皆さまや、お客さまとなる保護者の方ですね。学習塾が色々ある中で明光を選んでいただいているわけで、「こういうところで勉強したい」という思いに対して学力や成績を上げるだけじゃなくて、その先を見据えることが大事だと考えています。
家庭で机に向かう勉強習慣がない、いじめられている、目標を持ってない、など皆さん色々な悩みを持っていらっしゃって、単純に学力をつけたいということだけではないんですね。そういうところに寄り添い、将来を見据える、自立した人材の育成を期待されている。
指導するときは1:1で個別指導ですが、家庭教師のようにべったりつくわけではなく、近すぎず離れすぎず、自分で演習して自分で答えを探して、自分で〇×をつけて、自分で解決するということをベースにしています。明光は、答えを教えない塾なんです。

齊藤:斬新ですね!

山下:自分で課題解決できる人材になってほしい、それを私たちは自立と言っていますが、将来自分で生きていく上で、生きる力を身につけて欲しい、と、明光になって38年、佐々木塾から重ねると61年そういうことを続けてきています。

齊藤:瞬間的な学力も大切だけど、その先を見据えて寄り添って進んでいくということですね。

山下:日本財団が2019年に発表した18歳に対する意識調査を見ると、将来に夢を持っている子供が61%しかないんです。これがまさに今の教育の一番の問題点じゃないかなと思うんです。日本は将来これでいいのかと。

齊藤:ショッキングですね。

山下:自分で国や社会を変えられるか?に対しては18.3%しかいないんです。
「どうせ僕なんか、私なんか無理だ」という諦めがある。そうじゃないんだよということを指導するのも学習塾の役割だと思いますし、もちろん公教育も同じです。
今は選ばなければ、頑張らなくても高校に皆が入れる時代ですが、もうちょっと頑張ったら、君が将来に向けてこういうことがしたいなら、こういう学校を目指すといいよということを示してあげるのが私たちの教育です。
学習指導をすることだけじゃなくて、子供たちにちゃんと目標設定をさせて、そこに向かっていく。そこがお月謝をいただいている価値なんです。

齊藤:そこが今回のパーパスにも響く言葉で表現されていますね。

2021年9月に明光義塾が発表したパーパス。

 
山下:「やればできる」という言葉はどこでも使われていますが、私たちはもともとそういう考え方で、そのことが積み重なり記憶になっていくというプロセスが大事です。でも「やればできる」までにいっぱい失敗がある、そこに寄り添いながら、一つでもやればできるというのがわかれば、その子にとって将来に対するものすごい期待感や夢になるんです。

齊藤:まさに「何をやるか」ではなく、「なぜやるか?」や「何のためにやるか?」がないとなかなか進まないですよね。

山下:子供たちの意識を捉えて、前を向かせてあげるということが、自己肯定感に繋がります。

齊藤:一般的に日本の子供って自己肯定感が低いと言われていますが、現場を見ていていかがですか?

山下:僕はそうは思ってないですね。そこを引き上げて、心を開かせてあげることが大事です。
昔、面接が苦手なある生徒さんがいて、学力は高いのに毎回最終面接で落ちちゃうんですね。今は立派なお医者さんになりましたが。話せないのを問うのではなく、一番よかった時はいつだった?へこんだ時はどうだった?と聞いていくと、心を開いていってくれる。自分の失敗も成功も両方受け入れるんだと思うと、自信につながるんですよ。
明光では、毎日教室長が教室を巡回しながら、生徒さんと今流行っていることなど話すことから始めていますね。 
人のふれあいも、パーパスや理念をベースに接するということが大事で、ふれあいから“「やればできる」の記憶をつくる”ということが私たちの存在意義だと感じてもらえばいいですね。

創業者の想いから生まれたパーパス

齊藤:“「やればできる」の記憶をつくる”という言葉はどのようにして生まれたのでしょうか。

山下:もともとあった理念がベースです。
創業者の渡邉が戦時中に疎開した宮城の山奥で、にわか農家であったため、作物の作り方もわからず食べ物もなく、炭を作って売っていたそうです。
いじめられて、自分はダメだと思いながら、高校を卒業してから転職を繰り返す日々。そんなとき、ある本に書かれていた「You can, if you think you can (できると思えばあなたはできる)」という言葉に出逢い、ポジティブになろうと変わっていったんですね。
そして出版社に入って教材を売る仕事に就くと、あれよあれよという間に業績が全国一位になって、営業本部長、取締役と上がっていって…その積み重ねの末に教育事業に関わって、こうした理念を書いたんですね。
いつも新規加盟のオーナーや新人教室長に対して本社で研修をするのですが、2時間くらい渡邉が必ず「You can, if you think you can」の話をします。
ですので、パーパスも「You can, if you think you can」がベースで、“「やればできる」の記憶をつくる”は創業者の歴史と全く一緒なんです。

齊藤:ベースがあるから浸透も早いですね。言葉自体は皆さんで考えたんでしょうか?

山下:はい、アンバサダーとして、リーダー、部長とその他子会社の社長から担当者の方まで、人事や事務担当の方など自分の主張を持っていそうな方々に幅広く入ってもらいました。
会長と私はアドバイスはするけれど議論の中に入っちゃうと私たちの方向に流れちゃうので入らないようにしていました。シンプルにしよう、聞いたことないような言葉じゃなくていつも使っている言葉がいい、とだけ伝えていました。
 
齊藤:すんなり出来上がりましたか?

山下:まさか!喧々諤々だったと思いますよ。理念がすでにあるのに、なぜ作る必要があるの?と。そこに腑に落ちるかどうかが大事ですね。半年くらいかかったと思います。
最後は僕と会長でこういう言葉にしようと言って決めましたね。
今までの理念では「人づくりのトップカンパニーとなる」と言っていたんですが、ちょっと上から目線に感じるので、ビジョンに「人の可能性をひらく」と入れました。そうするとものすごい広がりがある。

齊藤:未来が開けるイメージがありますね。
9月にこちらを発表されたとか?

山下:まず社内で、そしてこのあいだの決算説明会で社外に出しました。
オーナーの皆さんやフランチャイズの方々には12月に話をする予定で、その時にはパーパスに絞ってお披露目しようと思っています。
また、社内で浸透を図るためのディスカッションをしています。 

齊藤:発表後の反応はいかがでしたか?

山下:発表の場に参加する前は、なんでまた…とか斜めに構える方もいらっしゃいましたが、話をしていくと腑に落ちていただける。特にスクールや教室の現場にいる皆さんと、スタッフとして本部にいる皆さんは乖離があるから、そういう方々も自分たちの仕事がそこに繋がっていると考えてもらっていることが嬉しいですよね。

齊藤:自分ごととして、すぐにパーパスを軸に判断・行動ができそうですか?

山下:すぐには、理解できないと思うんですよ。
まずは対話して、共有をするということ、次に、そのことをもっと理解、共感できるように勉強会を開催しようとしています。そこから更に共鳴、響き渡るような感じになればいいのかなと。齊藤さんが本でおっしゃっている通り、自分の言葉で語れるようになったら素敵じゃないかなと。

齊藤:ありがとうございます。人の可能性をひらくというビジョンの言葉は、具体的にはどういうことをイメージされて策定されましたか?

山下:今、すぐに諦めてしまう風潮が高まっていますが、そうじゃない、これからの日本や社会において、可能性は無限大だということを大切にしていかなければならないと思って、そういう言葉を使いました。大人や社会が勝手に限界を決めずに、頑張れば報われるということを大人が示してあげないといけないですね。
それで、日本人だけでなく外国人も含めた人材紹介・派遣の人材事業を始めました。
私たちが子供たちにカウンセリングしていることを生かせるし、人の可能性をひらくというのは教育だけじゃなくてその人のキャリアについても関わっていけると思ったので。

齊藤:学生に限らない言葉ですね。

山下:今コロナ禍ではありますけれど、日本は外国人の方々がいないと成り立たない。介護、飲食、医療、建設、サービス業、全部そうです。日本で働きたいという方はたくさんいらっしゃる。そういう人たちに環境面のフォローを含めて日本語教育をしていきたいですね。
実は既にベトナムにおいてEPA(経済連携協定)に基づき、ハノイ大学や医療法人愛仁会などとも提携して、介護や医療関係者を対象に日本語教育を現地で行っています。

齊藤:日本の可能性もひらいている感じがしますね!
色々広がっていきそうですが、この先の展開でお考えがありますか?

山下: 教育はなくてはならないインフラだと思うので、今やっていることを愚直に、それを広げていくことです。
幸いにも明光義塾は全国に広がってはいますが、まだまだ広められると思いますので、広げていくと同時に、明光のファンを増やしていきたい。そこで中期計画を「ファン・イノベーション」としたんです。FanとFunの両方で、楽しくやろうねと。人口減と少子化が業界の課題ですが、大事なのはお客様にどれだけ支持されるかということと、どれだけ多くの人に働きたいと思ってもらえるかです。
お客様についてはファンづくりということで良いサービスを提供し、働く人にはパーパスを理解してもらって、発信して共感共鳴していただく、という風にしないとこれから企業は成り立たない。齊藤さんの本に書いてある通りです(笑)。

齊藤:消化の仕方が素晴らしいです!
一見、楽しいということって、勉強と対立する印象がありますが、

山下:今、楽しくなかったら塾なんか行かないですよ。いやいや勉強させるのは無理です。この先生がいるからこの友達がいるから塾が楽しくてたまらないと言ってみんな行くんですよ。子供が楽しく通ってることが一番大切なんです。
提供するサービスが本当に子供に楽しいと思われているかがすごく大事で、そしてそのことを提供している自分たちも楽しいか?と。

齊藤:やっている方も楽しいと、その熱って伝わりますよね。 

山下:創業者の渡邉弘毅がいつも「明るくワクワクるんるん」と言っています。

齊藤:楽しいに勝ることはないですからね!私も幼少時に明光に出会っていたら違ったかもしれないです。 

齊藤:最後に SMOのパーパスは「本物を未来に伝えていく」なんですけれども、明光ネットワークジャパンの未来に残したい「本物」とは何でしょうか。

山下:学習塾をメインにしていますが、知識を教えることではなくて、その子の意欲をどこまで引き出すかを愚直にやっていきたい。「人の可能性をひらく」と申し上げているのは、意欲とか希望とか、まさにそこに本質があると思っているからです。
明日の定期テストも大事ですけれど、その先を見据えた未来に向けて意欲を引き出してあげる。それが、子供が自分で課題解決できるような、自立した人材育成に繋がっていくと思っています。
モチベーションも維持が大変で、人生の中でそこにみんな苦労するんじゃないですかね?そこに負けないで立ち向かっていける自分自身を育んであげることに、本質があると思っています。
 

明光ネットワークジャパン
代表取締役社長 山下一仁氏

1959年北海道江別市出身。ダイエー、カタリナマーケティングを経て、2007年3月に明光ネットワークジャパン入社。2018年11月より代表取締役社長。

 

『パーパス・ブランディング』
齊藤三希子 (著) 
ISBN: 978-4883355204