メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×

【CES2022】1400万円で宇宙旅行ができる時代が到来(玉井博久)

share

世界最大のテクノロジー見本市「CES」が1月3日に開幕しました。2年ぶりに見本市会場での展示が復活し、今回は自動運転や宇宙関連の技術などが注目を集めています。本稿では、江崎グリコの玉井博久氏が注目ポイントを速報します。

 

2024年の商業化を目指すSpace Perspective社

CES2022で新たなカテゴリーとして追加されたスペーステック。一般公開初日には、Space Perspectiveの創業者であるJane Poynter氏が「Upgrading Your TravelExperience」のセッションに登場し、彼女たちが手掛ける宇宙旅行を紹介しました。

Space Perspective創業者のJane Poynter氏

Space Perspectiveが提供しようとしている宇宙旅行は、バルーン型の乗り物に、乗客8人とパイロットが乗り込み、2時間で地上から宇宙に行き、2時間宇宙空間を体験して、そして2時間かけて地球に戻ってくるというものです。宇宙旅行をする上でのトレーニングは不要。地上から宇宙に向けて出発する際には、物音はほとんどなく、静かに宇宙に向かっていくことができるとのことです。

乗り物にはバーとトイレがついているので、宇宙空間での時間も十分に楽しんでもらえるとPoynter氏は強調します。通常宇宙旅行には2千万ドル(1ドル100円換算で20億円)かかると言われているところ、Space Perspectiveの宇宙旅行は、12万5千ドル。1ドル115円で換算するとおよそ1400万円です(2022年1月7日現在)。シンガポールでプリウスを購入するのに1500万円は必要という話を聞いたことがありますが、それより安い価格です。

また1965年のジャルパックの「ヨーロッパ16日間コース」は現在の物価に換算すると、700万円に相当(参照:トラベルボイス観光産業ニュース)するようで、1400万円はその倍ではありますが、コロナパンデミック前までは学生でもヨーロッパに10万円ちょっとあれば旅行できていたことを考えると、近い将来宇宙旅行は決して富豪だけのものではないのではないかと期待が持てます。
「宇宙から地球を見ることで、自分は地球というスペースシップのクルーの1人なんだと感じる。その特別な体験をたくさんの人に提供したい」とPoynter氏は述べ、2024年には商業化を目指します。

 
このセッションに同席していたマリオットのプレジデントであるStephanie Linnartz氏は同ホテルグループの会員が貯まったポイントの利用で宇宙旅行ができるようになるのも面白そうだと話し、二人は意気投合。もしかしたらリッツカールトンを宿泊して貯まったポイントで宇宙に行けるようになるかもしれません。

マリオットのプレジデントStephanie Linnartz氏(左)と意気投合

次世代型のスペースステーション開発を目論む

一般公開2日目には、同じく宇宙産業に取り組むSierra Spaceの代表であるEren Ozmen氏とFaith Ozmen氏が登壇。彼らもSpace Perspectiveと同様に、宇宙空間の商業化を視野に入れています。彼らが着目しているのが、スペースステーションです。

現存するスペースステーションは老朽化しているだけでなく、古いテクノロジーを使っているため、アメリカ政府はスペースステーションを修理するだけのために多額のお金を使ってしまっているようです。そこで彼らはジェフ・ベゾス氏のブルーオリジン社とも協業しながら次世代のスペースステーションを手掛けようとしています。スペースステーションに貨物を送るという契約を既にNASAと結んでおり、今後は貨物だけでなく、人を送ろうとしています。2020年代の終わりには宇宙ビジネスを形にしたいと意気込んでいます。

 
会長のEren氏は、「人々は実は宇宙に頼って今の生活していることを認識していない」と述べ、例えばGPSによるナビゲーションや気象変動のモニタリング、その他テレコミュニケーションや金融取引すらも、宇宙におけるテクノロジーの進化によって可能となっていると言います。つまり、スペーステックに取り組むことは、宇宙を開拓していくのみならず、地球における私たちの日々の生活を向上させることにもつながると言うのです。

Ozmen夫妻は1994年からこの分野を開拓してきたようです。2人はトルコからアメリカに来て、英語も話せない、資金援助もない状況からアメリカの生活がスタートしました。Eren Ozmen氏が初めて働いた職場では「トルコ」と言われて、からかわれたこともあったようです。ただし彼女は当時パソコンの使い方を知っていたので、最初の給料でパソコンを買って、会社の机に置いて会計業務に取り組み、他の人ではできない圧倒的なスピードで照合作業を終わらせたようです(それによって昇進もしたとのこと)。「テクノロジーは私たちをスケールアップさせてくれる。これからもテクノロジーは成功に欠かせない」と彼女は言います。2人は宇宙をビジネスパークとしてとらえているだけでなく、アメリカの国家としての威信がかかっているものだともとらえており、スペーステックに力を入れています。

Sierra Space社の代表であるFaith Ozmen氏(左)とEren Ozmen氏

現実味が増す「宇宙ビジネス」

メディアデー2日目にプレスカンファレンスを行ったSONYも、宇宙に関する発表がありました。Space Perspective やSierra Spaceのような宇宙旅行ではありませんが、宇宙から地球の眺めを提供する「STAR SPHERE」というプロジェクトが冒頭に紹介されました。また前回紹介したメタバース+ロボットで次世代の移動を実現しようとしているヒュンダイ自動車のエンディング映像においても火星体験が描かれていました。様々な形で宇宙が現実味を増して私たちの生活に近づいてきている中、宇宙をどう自社のビジネスチャンスにつなげるかを検討しはじめても早くはないのかもしれません。

 

玉井博久
Glico Asia Pacific Regional Creative & Digital Senior Manager 兼 江崎グリコ アシスタントグローバルブランドマネージャー

広告会社側(リクルート、TUGBOAT)のクリエイティブと、広告主側(グリコ)のブランド構築の両方の経験を生かして、デジタルを活用した顧客体験(CX)を手掛けカンヌライオンズなど受賞多数。2012年より日本のポッキーの、2016年より全世界のポッキーの広告を統括。2017年からシンガポールに駐在し、P&G、ユニリーバ、ネスレ、ロレアル、ペプシコ出身の外国人マーケターたちと広告開発に取り組む。宣伝会議「オリエンテーション基礎講座」(2022年1月開校予定)講師。アドタイのコラムニストとして「世界で活躍する日本人マーケターの仕事」の連載を担当。著書に『宣伝担当者バイブル』(宣伝会議)、『「売り方」のオンラインシフト』(翔泳社)。