コラム

嶋野・尾上の『これからの知られ方(仮)』

第8回 誰かに言いたくなる店「不純喫茶ドープ」(前編)

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【前回】「第7回 SNSを使って話題を呼ぶ、73歳の寿司職人「鮨ほり川」(後編)」はこちら

これから新たに商売やビジネスを(主にネットで)始める方に向けた「知られ方」についての連載です。知られるための第一歩として、とても大事なのが、自分のセールスポイントの中から「何を強みとして選ぶか」。このコラムでは、広告業界でさまざまな成功事例をつくってきた広告クリエイターの2人が、個人の商売・ビジネスでの「強みの選び方」と「その知られ方」について、役立つ情報を発信していきます。

※本記事は、2021年1月に取材した内容を記事化したものです。
ご感想などはこちらから:『嶋野・尾上の「これからの知られ方」』へのお便り

ヒゲの男ふたりでプリンを食べてきました

尾上:また、前回から時間が空いてしまいましたね・・・申し訳ありません!

嶋野:このままだと、「こち亀」の四年に一度の人みたいになるところでした。

尾上:日暮ですね。ずっと寝てるエスパー警官で、オリンピックの時だけ出てくるのですがとても人気なキャラです。

嶋野:4年に1回なのにすごい・・・。やっぱり人間の認知って、満遍なくやる人より、1つ強烈なものを持ってる人の方が強いのかもですね。

尾上:はい、そうだと思います。われわれが取材に伺ったこの喫茶店も、まさに唯一無二の存在感でした。

嶋野:すごかったですね。世の中の「懐かしい」という感情を、かっこいいレトロに再構築していて。ある意味で外国人が描く日本の象徴のような違和感が、いい意味で効いてて。

尾上:こんなかわいくてオシャレな空間に、ヒゲの男ふたりでいきましたよね。

注:プライベート写真ではありません。取材です。

嶋野:ナポリタン食べて。プリン食べて(笑)。おいしかったです。

尾上:うまかったですね。では、このときの取材の様子をどうぞ。

ヒップホップのサンプリングの考え方でできている

嶋野:「不純喫茶ドープ」という店名がまず魅力的ですが、この名前はどう考えたんですか?

井川:「不純喫茶」の方からざっと説明すると、まず喫茶って、もともとコーヒーだけ出す店から始まっているんです。そこから歴史の中で女性が接客をしてお酒を出すようになり、どんどんキャバクラ化していったんですよ。で、キャバクラ化していく流れと普通にコーヒーを出すお店が二極化していった時期があって。それでキャバクラ化してた方を「特殊喫茶」と呼んで、コーヒーだけ出す店を「純喫茶」と呼ぶようになったんですよね。

尾上:「純喫茶」ってそういう意味だったのか!なるほど〜。

井川:で、そこからの再逆説的に、お酒は提供するけど接客をしない「不純喫茶」というワードが出てきました。そして「ドープ」には2つ意味があります。英語の言葉(dope)は不純物みたいな意味で喫茶メニューに酒が入っていることを表しています。また、ヒップホップのスラングではやばいよね、クールだよねみたいな意味もあり、その2つが掛け合わさっています。この場所でもともと経営していた喫茶店の名前が、「純喫茶じゅんじゅん」なんですよ。だから、「じゅんじゅん」からの、「ふじゅんふじゅん」みたいな感じにもなっている。

尾上:ヒップホップ的な考え方がいつも根底にあるんですか?

井川:ただ単純にヒップホップが好きなんです。サンプリング文化だったり、文脈回収、伏線回収みたいなところとか昔あったイケてるものをフックアップするみたいなところが。その辺は、お店をつくる時にもすごく大事な要素として捉えています。

嶋野:喫茶じゅんじゅんからスタートしたというのが、すごく運命的ですね。もともとの店名がそこにあったっていう。狙ったわけじゃなく、そういうお店の成り立ちや喫茶の歴史をうまく取り入れて、まさにサンプリングしていった。

井川:そうですね。社名は「ワックワッククリエイティブ」なんですけど、「ワック」ってスラングでダサいっていう意味なんです。本当は価値があるんだけど埋もれちゃったものを、我々の色を少しだけ足して、ワクワクするものに創造していきましょうというコンセプトで。
不純喫茶ドープの空間は純喫茶じゅんじゅんの居抜きなんですけど、それも40 年続いた純喫茶の空間がめちゃくちゃかっこよかったから。こんな空間を一からつくるってなかなかできない。実際に我々が手を入れたところはほとんどなく、食品サンプルを飾ったり、ネオンをつけたりぐらいで、ほとんどそのままです。

嶋野:過去の文脈や歴史をちゃんと生かしてあげて、そこに光を当てるということですね。

井川:そうですね。

嶋野:お店の「せつない気持ちのゴミ捨て場」ってキャッチコピーもすごいチャーミングですよね。

井川:ヤバいですよね。私が高校生の頃にくらったワードをサンプリングさせていただいてます。本当は言いたいことはたくさんあるんですけど、わかる人にはすぐわかるところなので、あまり私からああだこうだ説明はしていないです。各々好きに解釈して楽しんでもらえたらうれしいですね。

 

店の入り口に飾られている食品サンプル。

ターゲットや年齢層のことはぶっちゃけ意識していない

嶋野:井川さんは「不純喫茶ドープ」のほかにも、「トーキョーギョーザクラブ」「不健康ランド」など複数のお店を経営されています。新しいお店をつくるとき、「世の中のニーズや現代のお客さんの市場ニーズ」などをどれくらい意識しますか?

井川:ぶっちゃけあまり意識はしていなくて、このターゲットや年齢層を狙おうとはあまり考えてない。ただ「トーキョーギョーザクラブ」で言えば、20〜30代がめっちゃ行く餃子屋ってぱっと出てこないな、そういうユースカルチャー向けの餃子屋にしよう、ぐらいざっくりしたものはありました。自分がこういうのほしいなっていうのをつくっています。

嶋野:小川町で若者向けのビジネスって普通はなかなか選べないですよね(編集部注:現在は十条に移転)。

井川:昔ながらのビジネス街なので、普通に考えたら若い人向けのお店は出さないですよね。そこは物件が面白さで決めました。

尾上:根津にできた「不健康ランド」も、意外なところにすごいのができたなって思いました。あれも物件ありきですか?

井川:完全に物件ありきです。銭湯の居抜きなので。もともと物件を見るのが好きで、その頃銭湯の居抜きがないかなと思いながらSNSを見てたら、ぱっと出てきたんです。

嶋野:あまりターゲットは意識しないという話でしたが、それでもある程度は設定されますか。

井川:自分は今30代後半なんですけど、自分の中から出てくるものって、今まで生きてきた中で得たものだけだと思うんですよね。自分の通ってきたルーツの中でしかアウトプットって出ないと思う。なのであえて言うなら、1~30代後半までの間がターゲットになるのかなと。

 

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