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巻き込む力がPRのクリエイティビティ 共創の時代のプロジェクトに期待

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2022年度「PRアワードグランプリ」の募集が9月1日より開始された。今回は2022年度から審査員長を務める本田哲也氏(本田事務所代表)と、新たに審査団に加わった根本陽平氏(電通PRコンサルティング コミュニケーションデザイン部 部長)、牧志穂氏(博報堂 PR局 プラニング2部 部長/チーフPRディレクター)の3人による鼎談が行われた。今回の審査の抱負、「PRアワードグランプリ」のエントリーへの期待について語ってもらった。

【関連記事(前回コラム)】
井口理×本田哲也「パブリックリレーションズ」の定義の進化を期待

本田 前回の井口理さんとの対談でも話しましたが、現時点で個人的には「パーパス(社会的存在意義)」がある活動か?などこれまでの審査で大事にしてきている点も重要ですし、もちろん「クリエイティビティ」も重要な評価ポイントです。

パーパスが注目される今は、みんなそれらしいアプローチはします。ただ、そこでかなり抜けているのが、なぜその企業か、そのブランドなのかという正当性(オーセンティシティ)です。今回はそのオーセンティックかどうか?を少し気をつけて評価したいと思っています。

裏を返すと、まだ道半ばでもその企業らしさとか、そのブランドらしいことをやっている自負があるならば、ぜひエントリーしてくださいということです。そういうことを前回の対談では話しました。

「PRアワード」審査員長の本田哲也氏(本田事務所)。

根本 実務家の立場として、PRアワードグランプリは時代を現す鏡だと思っていたので、エントリーを見て、時代の変化、時代や社会と企業の関係性の変化を知ることで、現在地の確認をしていました。

 私は今までPRアワードにはエントリーしたことはないのですが、自分なりの視点でお話をさせていただきますと、仕事としてPRを長年やっており、数年前からSDGsの社内プロジェクトにも関わっています。そのためPRに限らず、コミュニケーションでできることは、まだまだたくさんあると思っています。今「SDGsやってます訴求」みたいなものがすごく多いなかで、そういうことよりもコミュニケーションを通じて、本質的な課題解決にチャレンジしているものがエントリーしてくるのを楽しみにしています。

今年からエントリーカテゴリーを分けなくなった意味

本田 ここ2~3年でPRアワードを3つのカテゴリーで分けることがどんどんナンセンスになってきました。特に現場でやられているお二人には分かると思いますが、あえて言えばコーポレート・コミュニケーションだけど商品ブランドも関与するとか、あえて言えばマーケティングを目的にはしているけど、コーポレートブランドも関係なくはないとか……どんどん溶け合ってきているというか。ソーシャルグッドはその最たるもので、そういう要素を含まないものは、どんどん世界的にも少なくなってきている。だから昔みたいに単一のエントリーカテゴリーとして存在していると気持ち悪くなってきたんですね。

根本 本田さんのおっしゃった通り、エントリーをしていた立場からすると、「このカテゴライズって何でなんだろう?」と思うことはありました。

各個別のブランドがコーポレートブランドを牽引することもあると思いますし、 会社名とその商品名、フラッグシッププロダクトが一緒の会社とそうでない会社もあります。そう考えると、カテゴライズに大きな意味はない気はしていたので、その部分がなくなってフラットに評価をする。そしてもともとソーシャルグッドがベースにあることは、PRプロジェクトすべてに言えることなので、今回の変更はポジティブなことだと思いました。

根本陽平氏(電通PRコンサルティング コミュニケーションデザイン部 部長)。

 インパクトの大きさはひとつのポイントだと思います。何となくソーシャルグッドなコミュニケーションだけど、もしかしたら、影響力がそんなに大きくないと、結局ビジネスにも跳ね返ってきません。社会課題をテーマにするだけでなく、ビジネスにちゃんと繋がり、継続的に社会にもビジネスにもインパクトを出していくことの大切さが、認識されるようになってきたと思っています。

牧志穂氏(博報堂 PR局 プラニング2部 部長/チーフPRディレクター)。

根本 そういったインパクトの与え方も、ソーシャルグッドはどうしても日本だと真面目に捉えて真面目に返すみたいなところがありますし、「まだ発表できるほどでもない」と自分たちの取り組みを控えめに捉えているところもあります。

一方で、生活者が企業・ブランドの社会的なスタンスにより強い関心を持っているというのは、企業のトップに近ければ近いほど感じている部分だと思います。事実、そういう相談はすごく増えてきた実感がありますね。

こうした依頼に対して、プランニングにおいて大事だと思うのはパブリックリレーションズのひとつの特徴である“第三者を巻き込む”ことです。ステークホルダーの中でキーパーソンやキードライバーがどうなっていくといいのか。目指したい方向から逆算して、キードライバーとその論調を探り、そこに対してこれまでは動かなかったものについて情報や表現の力で態度変容を促していく。

そこがPRアワードという観点で言うと、“自社が発言・発信したことはもちろん、第三者がそれをどう次の人に渡していったのか”について。この点は注意深く見た方がいいと思っています。

本田 根本さんがおっしゃったことはとても重要で、審査する場合の論点のひとつにしたいです。モノが売れたとか、知名度が上がるとかも当然大切ですが、ポイントは共創が起こったかどうか、そのことを起点に巻き込みが起こったかどうかで、その「巻き込む力」がどのようなクリエイティビティだったのか、アイデアなのか、どうそれが発揮されたのかは、分かりやすいひとつの評価基準だと思います。

PRに限らず、共創の時代だと言われて久しいこういう時代だからこそ、巻き込みを意識して取り組まないと社会が立ち行かなくなっています。だからこそ、PRは大事だって話なんですけれどね(笑)。

活動が継続している=巻き込み力がある

根本 それぞれの企業や団体の置かれているフェーズによって、目的や手法が違うと思っています。例えば大企業やロングセラーブランドでいうと、今まで売り続けて、愛され続けてきたブランドであるがゆえに起きる弊害というか、もしかすると社会的な変化についていけないんじゃないか、いまブランドの周辺で起きていることが、社会とズレがあるんじゃないかということに着目してブランドのスタンスを定め直す取り組みは非常に印象に残っています。

一方で大企業に比べるとベンチャーやスタートアップ、業界団体・協会などは、もしかすると一つひとつの予算的なインパクトは及ばないかもしれませんが、そのぶん社会的な視点や第三者を巻き込んだインパクトを与える場合があります。ROBOT PAYMENTによる「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトや、ユーグレナのCFO(Chief Future Officer)募集オリィ研究所の分身ロボット「OriHime」の取り組みだったり、去年のPRアワードグランプリの「まてりある’s eye」(物質・材料研究機構)は業界の変革といえるような取り組みですよね。企業だけじゃなくて“業界・業種自体の存在意義”を前に進めるようなプロジェクトは特に印象に残っています。

ROBOT PAYMENT「日本の経理をもっと自由に」プロジェクト/2020年度PRアワードブロンズ。

ユーグレナ「CFO募集」/2020年度PRアワードブロンズ。

東京・日本橋にある「分身ロボットカフェDAWN ver.β」(オリィ研究所)/2020年度PRアワードシルバー。

国立研究開発法人 物質・材料研究機構の「まてりある’s eye」/2021年度PRアワードグランプリ。

 もう何年か前から注目している企画があって、ポプラ社の「どう解く?」のプロジェクトです。答えのない道徳の問題をコンテンツ化し、先ほど本田さんがおっしゃった「巻き込み力」のように、教育関係のオピニオンや、学校、コラボレーション企業と、次々とさまざまなプレーヤーを巻き込みながら、インパクトを大きくしています。

お二人の話を伺って思ったのは、単発で終わると非常にもったいないということ。コミュニケーションの世界では、せっかくいいものを生み出しても、それが1回のキャンペーンで消化されてしまうケースがあります。せっかく良いものを生み出せたら、そこからどんどん巻き込んでいくことで、社会を動かすことができるチャンスなんだと思いました。

ポプラ社「答えのない道徳の問題 どう解く?」/2018年度PRアワードシルバー。

本田 いったん横の広がりが起こると、今度は縦の時間軸の持続性が生まれてきます。だから巻き込まれるということは、単発で終わる可能性がどんどん薄くなり、続いていくと。

だから、この1年で行った活動も大事ですが、例えば5年以上粛々とずっと行っている活動も、改めてエントリーしてほしいです。活動が持続しているということは「巻き込み力があった」という証左になるので。

根本 たしかに持続しているプロジェクトは、絶対に何らかのPRエッセンスがあるはずです。改めて、「これはPRプロジェクトではないのか?」と見直してみてほしいですね。

本田 そうなんですよ。「この活動すごくいいじゃないですか」と実施企業の方に聞くと、「粛々とやってるだけなんです」と、みなさん口を揃えます。さらにPRアワードグランプリのエントリーとなると、カンヌなど海外のアワードの印象が強いのか、「派手でブームになったとかバズったもの、しかもこの1年以内にそれらが起こった活動が対象ですよね?」と言われたりします。それも素晴らしいんですが、地味だけど巻き込み力と持続性が発揮されているものも順当に評価されると思います。

 今のお話は共感できました。逆に共感性や巻き込み力が低い場合は、広告のパワーをかけ続けないと、予算の切れ目が本当にコミュニケーションの切れ目になってしまいます。転がり続けるものがPRにはあるかもしれないですね。

本田 金の切れ目は縁の切れ目みたいな話ですね(笑)。

根本 議論の中にも出ていましたが、継続とかクリエイティビティとか言われると、ちょっと難しいというか敷居が高いと思うかもしれません。でも今日のお話にあったように、何らかの兆しだとか、パッションみたいなところでも評価してもらえる軸があるかもしれない。そういう意味で言うと、はじめから「アワードにエントリーしよう!」と意気込んでいる人だけではなく、「このプロジェクトはPRだったのでは?」と振り返ってもらいながらエントリーしてもらえるといいと今日改めて思いました。

 今日のお話を伺っても、PRの仕事は、自分たちが思っている以上に社会に対して影響力を持っていると感じました。それを過小評価してはいけないと。悪い影響も大きくあるだろうし、いい影響も大きくつくれることを真摯に捉えて、日々仕事をしていかなければと改めて思いました。そういう視点できっと素晴らしい仕事が集まってくると思うので、いろいろ勉強させていただきたいと思います。

本田 結果的に「あの仕事はPRだったんじゃないか?」と気づくパターンがあると思うので、 先入観を持たないでほしいですね。自分が身を置いている業界が広告やPRだったらもちろんのこと、例えば事業会社主体の活動で広報の関連部門は絡んでおらず、事業部単独で取り組んだ仕事など、さまざまな状況から生まれたプロジェクトがあると思います。

でもそういった所属や状況はあまり関係ないので、今日の話にあったように、巻き込みが起こったかとか、その仕事にパッションがあって、伝わるような工夫をした想いや自負があれば、ぜひエントリーをしてください。エントリーにかける労力より、必ず得るものの方が何倍も大きいと思います。
 

本田哲也
本田事務所 代表

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWEEK誌によって選出された日本を代表するPR専門家。世界的なアワード「PRWeek Awards 2015」にて「PR Professional of the Year」を受賞している。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、スピンオフのかたちでブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』など著作多数。国連機関や外務省のアドバイザー、Jリーグのマーケティング委員などを歴任。海外での活動も多岐にわたり、世界最大の広告祭カンヌライオンズでは、公式スピーカーや審査員を務めている。 今年度よりPRアワードグランプリ審査員長。

 

根本陽平
電通PRコンサルティング
コミュニケーションデザイン部 部長

2008年電通PRコンサルティング入社。2021年より大正大学非常勤講師を兼任。全体のコミュニケーションプラニングをPR視点で行うことを心がけている。共著に、『PR思考』『自治体PR戦略』。宣伝会議「オンライン動画プランニング実践講座」(2016年〜)「バズクリエイティブ実践講座」(2019年〜)講師。受賞歴にGlobal SABRE Awards(「世界のPRプロジェクト40選」2度)、PRWeek Awards Asia(7年連続)。Yahoo! JAPAN 「UPDATE DOCUMENTARY PROJECT」公式サポーター。スポーツ庁イノベーションリーグPRメンターなど。

 

牧 志穂
博報堂
PR局 プラニング二部 部長/チーフPRディレクター

2000年博報堂入社、2004年からコーポレート・コミュニケーション局(現・PR局)に所属。食品・トイレタリー・自動車・エアライン・金融など幅広い業種を経験。情報開発型コミュニケーションに加え、企業広報コンサルティング、トップ広報対応、共創価値マーケティングに携わる。2019年~現在、博報堂SDGsプロジェクトメンバーとして、「社会課題解決&長期的な企業価値向上のWインパクト」を目指し、社会価値視点で事業を構想するプログラムや、SDGs総合支援メニューを体系化。その他、朝日新聞「脱炭素企画」への協力や、国連が主導するメディア横断型報道キャンペーン「1.5度の約束」の広報支援など、組織を超えた社会価値創出にも取り組む。