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ユーザーはストレスを感じている? インターネット広告の体験品質向上のためにいますべきこと

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2021年4月にデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)が活動を開始。インターネット広告の取引における透明性の担保という課題の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。一方で、目線をユーザーに移すと、いまだ広告体験としては問題のあるケースも多い。問題のある広告は一部であったとしても、ユーザーにとってはすべてが「インターネット広告の体験」と受け取られてしまうことから、業界をあげた取り組みが必要とされている。
 
こうした問題に対する取り組みを強化しているのがヤフーだ。2022年6月に独自にインターネット広告に対する印象の調査を実施し、ユーザーにストレスを与えている現状の課題が見えてきた。
 
調査を実施したヤフーのマーケティングプラットフォーム統括本部 トラスト&セーフティ本部長の一条裕仁氏、日本広告審査機構(JARO)事務局長の川名周氏、ライオン ビジネス開発センター クリエイティブデザイン部長で、JAROでは広告審査の委員会にも参加する片桐理氏の3名が、ユーザーの体験品質向上に向けた取り組みの在り方を議論した。

ユーザーにとっての広告体験の品質問題が広告主に及ぼす影響

−−ヤフーでは週に2日以上、インターネットにアクセスしている男女18歳~69歳の方、1545名を対象にインターネット広告に対する印象を聞く調査を実施したそうですね。

一条:調査(※調査概要は記事下部に記載)は今年の6月に実施しました。結果を見ると、ユーザーにとってストレスを与えているインターネット広告の課題が浮き彫りになりました。

「インターネット広告に対してストレスを感じたことがあるか」については、
・「強いストレスを感じる」17%
・「ややストレスを感じる」55%
となり、全体の約4分の3の方たちがストレスを感じていることがわかりました。これはかなり多い数字だと感じています。
 

また「インターネットを利用している際に『広告が表示された』ことで、途中でインターネットの利用をやめた経験はあるか?」と聞いたところ、「おぼえていない」と回答した人を除くと、「ある」の回答が51.3%となり過半数を超えています。

インターネットサービスを生業にしている私たちのような会社からすると、これは強い危機感を抱く結果です。
 

逆に「良い広告とはどのようなものか?」も聞いています。「見たいと思う広告」について聞いたところ、「信頼できる根拠がある内容」の回答が54.9%となり1位の結果でした。

 


インターネット広告にストレスを感じる人は多いものの、信頼できる根拠が示されていれば、価値ある情報として受け止めてもらえるという気づきは、調査から見えた光明かなと思います。

−−広告主側も、インターネット広告はコンバージョン率などに目が行きがちで、広告に触れたことでユーザー側にどのような態度変容が起きているのか、ということまで言及したデータはあまりなかったと思います。具体的なアクションに至らなかった消費者については、調査の対象にもなりづらいですよね。

一条:仮説はあったのですが今回の調査で、広告に接触した後の消費者の意識を明らかにすることができました。私たちのようなインターネットサービス事業者がこうしたデータも発信していくことが大事だと考えています。

JAROに寄せられる苦情の傾向とは

−−調査結果を聞いて、片桐さんはどのような感想を持ちましたか。

片桐:インターネット広告の中にも質の良い、素晴らしいものがあります。その一方で、残念ながら悪い評価を受けてしまうものも存在している。私の印象としては、質の悪いものが足を引っ張った結果、今回の調査結果のような厳しい内容になっているのではないか、というのが率直な感想です。

ただ、こうした状況が続くとメディアの信頼を傷つけ、さらには広告主やブランドの信頼も毀損(きそん)していくと思うので、関係各社で対応していかなければなりませんよね。全体的な体験品質の向上という問題に加えて、一部の問題がある広告に対する規制のあり方も検討していく必要があると思います。

――川名さんは調査結果についてどのような印象を持ちましたか。

川名:率直に言って、ストレスを感じている人が多いという印象を持ちました。JAROへの苦情を媒体別で見てみると、2019年度からインターネットがテレビを上回っている傾向です。JAROでも広告・表示の適正化を進めてはいますが、業界全体で取り組んでいかないといけない、とデータを見てあらためて感じています。

短期的な成果を求める一部事業者がインターネット広告の問題を生んでいる

−−JAROに寄せられる苦情にはどのような特徴があるのでしょうか。

川名:これまでのインターネット上の広告・表示への苦情は「シミが取れる」など広告・表示規制に反するものが多かったのですが、近年、鼻の角栓を強調する、といったような、法律違反ではないものの、見ていて不快な表現が増えていた時期がありました。
その要因をアドネットワークの専門家に聞いたところ、A/Bテストを繰り返していくと、インパクトの強いものの方が、効果が高く出る傾向にあるそうです。そのため、結果的に不快な広告表現の露出が増え、苦情につながっているのではないかと推測しています。
今回のヤフーさんの調査でもわかりますが、「不快な表現」が次の改善の焦点になるのかなと思っています。

日本広告審査機構(JARO)事務局長 川名周氏

警告を受けても、事業者名を変えて再度出稿するケースも

−−寄せられた苦情にはどのような対応をされているのでしょうか。

川名:広告主や広告会社、媒体社から20名くらい集まっていただいて審査会を毎月実施しています。片桐さんにはその業務委員会の副委員長を務めていただいています。審査会の総意として、見解書を発行し警告を出しています。媒体社等ともその見解書を共有することも開始しており、なるべく「今、起きていること」を共有できるようにしています。ヤフーさんは率先してこうした仕組みに協力していただいています。限界もありますが、業界全体で活動していくことに手応えも感じています。

−−片桐さんは委員会に参加して、近年の苦情についてどう感じていますか。

片桐:JAROで悪質と判断される広告は、認知獲得やブランドへの好意を醸成するものより、購買に関するものが多い印象です。広告のリンク先ページか、その先の販売のサイトのどちらかが悪い、あるいは両方が悪いものもあります。
いくつか見ていると、短期的に結果が出ればいいという傾向が強い。極端な言い方をすると、違法性があっても購買されればいい、と考えている事業者も一定数存在します。そうした事業者は警告を受けても社名を変えてまた同じことを繰り返していく。いたちごっこの面もあります。

川名:広告規制を知らずに出稿してしまったケースもあると思いますが、一部ではスレスレを狙って、違法性を知っていながら売るために出稿している事業者も存在しています。

特に近年は、アフィリエイトプログラムに絡む広告・表示に問題のあるものが急増していました。広告主側からするとインフルエンサーに頼むことで多種多様な切り口で書いてもらえるというメリットがある。第三者の視点になるので、良いアフィリエイトプログラムであれば消費者にとってもメリットになりますが、アフィリエイターも売りたい気持ちが強くなると、薬機法や景表法に触れるような表現で販売ページへ誘導するケースもあります。中にはアフィリエイター自身が自分でバナー広告を出すようなケースもあるので、そうなると苦情を誰に言えば良いのかもわかりにくいですよね。

−−ヤフーさんもアフィリエイターによる広告の問題には、早くから取り組んでいますよね。

一条:はい。アフィリエイターによる広告出稿は、以前より原則お断りしています。例外的に適法な内容かつ価値のある情報を載せていると判断したアフィリエイト(成果報酬型)メディアのみ掲載をいただいています。ただ、アフィリエイターもコンバージョンを上げるために手を変え、品を変えて来る。私たちもガイドラインをアップデートして、日々変化する状況に対応しています。

片桐さんもおっしゃっていましたが、一度お断りしても名前などを変えて再度、申し込みされる広告主も存在します。その際には、悪質と判断して、広告だけではなくアカウントや人物そのものの審査も行い、データを管理して見極める体制をとっています。相手もその手法がコストに合わないと判断すればやめざるを得ないので、われわれとしてはそのような対応を続けていかなければならないと考えています。

ヤフー マーケティングプラットフォーム統括本部 トラスト&セーフティ本部長 一条裕仁氏

広告主はデジタル広告のKPIにコンバージョン以外の指標を持つべき

−−出稿側として、より良い広告を届けるためにどんなことができるのでしょうか。

片桐:インターネット広告は、結果がどうだったのかをレポートされます。ただ、そこではネガティブな情報について議論できていないのが現状です。コンバージョンがどれだけかは評価していますが、見た人がうっとうしい、わずらわしいと感じたかどうかについてはわからない。それをどうデータ化するのか、そこに手をつけることは第一歩としてあると思います。

私は長年、ライオンでテレビCMづくりに携わってきましたが、インターネット広告は視聴態度が厳しいと感じています。テレビは「ながら視聴」なので、CMが挟まれても抵抗は少ない。一方でインターネットは目的があって見るので、強制的に視聴させられるものは抵抗が大きい。そこをいかに乗り越えるかが重要です。視聴環境に合わせた文字や映像、メッセージの伝え方などを研究していきたいですね。

また今日の議論から一番強く感じたのは、これほど消費者にネガティブな感情を与えている広告を出稿していること自体を、広告主が理解していないということです。こうした項目についても効果測定のひとつに設定する必要があると感じました。

−−広告が与える印象もレポートとして上がってくると広告主の理解も深まります。クリエイティブについても、インターネットが能動的に見るメディアだからこその広告のあり方は研究が必要ですね。

片桐:ネガティブな要素は、いずれ売上にも反映されるはずなのでレポートに含まれるようになるとすごく熱心になると思います。ブランド毀損は広告主が気にするポイントだからです。

ライオン ビジネス開発センター クリエイティブデザイン部長 片桐理氏

インターネット広告の品質向上のために、各社ができることは何か?

−−媒体者、広告主、団体など、どこかひとつの取り組みで広告が改善するわけではなく、業界全体で取り組むべき課題であることがよくわかりました。広告の体験品質向上に対する機運は高まっています。今回お集まりの皆さんの今後の展望を教えてください。

一条:まずはガイドラインの策定です。情報をもっと集めて、アップデートを繰り返して、ストレスを与える広告が入らないようにする。この取り組みを地道に進めていきます。

もうひとつは、ガイドライン上で問題はなくても、組み合わせで不快度が高まるものもあるということです。インターネット広告にはバナーの右上に非表示ボタンが置かれており、その理由をフィードバックする仕組みも用意されています。そこから得られるデータも活用し、どういうときに広告に触れるとストレスがあるのか、その危険性が高まる組み合わせを避けるような配信の仕方も研究していかないといけないと思います。

さらなる研究は必要ですが、広告と出会う場面でもストレスの度合いは変わります。デバイスによっても違いますし、同じクリエイティブであっても表示の頻度で差が生まれます。ユーザーの感性の差もあるので、ネガティブなフィードバックが上がるならその対象への広告を控えるといったような、ターゲティングの除外についても考えていかないといけない。データは存在しているので、より好まれる広告を届けるために会社として取り組んでいきたいです。

片桐:正しい広告体験が長期的なブランドビルディングにつながるということを、広告主としてあらためて肝に銘じたいですね。私自身、制作したCMが社内の法務チェックに引っかかるという経験をしてきました。つくる側として違反するつもりはなくても、情報の横並びから脱したいと考えると表現は過激になる。それをどう規制するのか、まずは社内の自浄が大切です。

もうひとつは、公平性をどう担保するのか。ウチはダメなのに他社はやっている。それで売れているとなると、社内における、規制遵守の理解が得られにくくなる。規制が公平に行われていることは広告主にとっては重要です。「アチラがやるならこちらも」にならない運用が求められます。

川名:一条さんのターゲティング除外の話は面白いなと思って聞いていました。私もテレビCMのプランニングをしていたときに、3回くらいならいいけど10回見ると嫌になるので、オーバーリーチしないようにメディアプランニングしていました。配信の頻度をテクノロジーで解決できるのなら、消費者にとってもよいことですよね。

インターネット広告が登場し始めた頃は、業界みんながワクワクしていた。日本の広告費でテレビを抜いた今、ここからインターネット上の広告・表示をよくしていかないといけないと考えています。消費者と一番接するメディアの信頼が揺らぐと業界全体が危機にさらされてしまうからです。

KPIをコンバージョンだけではなく、信頼性や興味関心に即したブランドへの愛着を高めるようなものなども含めて、広くとらえて、よりよい広告のフォーマットづくりや表現を業界全体で考えていければと感じました。

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(外部サイトにリンクします:ヤフー株式会社実施のアンケートです)

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【調査概要】
ヤフー株式会社自主調査
調査委託先:マクロミル
調査手法:マクロミルモニタを対象にしたインターネット調査
調査対象者:デバイスにかかわらず、週に2日以上インターネットを利用している全国の18歳~69歳の男女 1,545 名
調査実施期間: 2022年6月17日(金)~2022年6月20日(月)