【前回コラム】映画『ある男』の現場には、互いが本気でぶつかり合えるほどの信頼があった(妻夫木聡)【前編】
今回の登場人物紹介
※本記事は2022年11月13日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
「釜山国際映画祭」で上映後には、2度の拍手
中村:現在公開中(11月18日公開)の映画、『ある男』。原作は平野啓一郎さんのベストセラー小説で、妻夫木さんは主人公の弁護士「城戸」を演じられています。これは結構、ストーリーも難しいと思うんですが。先日、釜山国際映画祭でひと足早く上映されたみたいですけど、わかっていただけましたか?
妻夫木:後で聞いた話だと、釜山国際映画祭のクロージング作品に選んでいただいたんですけど、上映が終わった後に2度拍手が起こった、と。
一同:へえ~!!
澤本:すごいじゃないですか。
妻夫木:それが、すごく嬉しかったですね。シンプルに楽しんでもらえた証拠でもあるし、何よりも、映画を愛している人たちが釜山の映画祭にはこれだけいらっしゃっていて。そして、最終上映の映画を、最後の最後までこんなにも楽しんでもらえた、と。そんな作品に僕たちの作品が選ばれた、というのが本当に光栄だったし、嬉しかったですよね。どんな賞をもらうよりも、そういう反応を見られるというのが、とても嬉しかったです。
中村:そうですよね。やっぱり、韓国は映画とかドラマがものすごく盛り上がっているわけですから。そんな中で、素晴らしいですね。
澤本:ベネチア国際映画祭にも行かれましたよね。
妻夫木:はい。ベネチアも面白かったんですよ。観ていただいたらわかると思うんですけど、ベネチアで皆さんと一緒に観ていたら、映画が終わった後に「はっはっはっは!」という笑い声が上がっていて……。
一同:ええ〜!?
妻夫木:「あ、ここ、笑うんだ!?」と思って。どういう意味で笑ったんだろう、とか、どういうふうに感じたんだろうな、と。でも、これが多分、文化の違いってことなのかな、と。
中村:「そう来たか!やるなぁ~!」みたいな笑いなんですかね?
権八:どういう笑いなんだろう……。
妻夫木:一人だったらわかるんですけど、結構な人数がいたんですよ。10人ぐらいは笑っていた感じがして。
権八:へえ~!それは面白い。
妻夫木:でも、日本ではそういう反応は聞いたことがなかったので。あれはすごかったですね。
澤本:日本で上映した後、笑ってたら怒られますよね。お前、なに笑ってんだよ!って(笑)。
妻夫木:たしかに。「え!?」とはなるでしょうね(笑)。
「ある男」を追ううちに、「自分自身」へと行き着く
権八:このお話って、簡単に言えばミステリーじゃないですか?自分がずっと結婚生活を送っていた相手が、名前も過去も全然違う人だった、と。「別人でした」という言い方をしているんだけど、聞いているだけだと「別人って、どういうことだろう?」みたいな。
妻夫木:そうなんですよね。
権八:例えば、僕の結婚相手が妻夫木さんだとしたら、実は「妻夫木」という名前ですらなかったっていう。じゃあ、一体何者なんだ?ということで、弁護士である主人公が追っかけていくんだけど。これは、だからミステリーですよね。
妻夫木:そうですね。追いかけていくうちに、自分自身も本当は何者なのか?っていうところまで辿り着いていくんですよね。戸籍というものはただの「指標」みたいなものであって。僕は妻夫木だけど、妻夫木というのは何でできているんだろう、何をもって妻夫木なんだろう?っていうところまで掘り下げていくようなお話なので。本当に、ストーリーを説明するのは、すごく難しいところがあるんですよね。
権八:それで、だんだん真相がわかってきて、そこに隠されたいろんな過去とか、いろんな人の思いがやっぱり胸を打つ、というか、涙を誘うわけなんですけれども。結局、人は過去を変えられるのか、変えられないのか?みたいな。そういうテーマもあるじゃないですか?
一同:うんうん。
権八:僕の場合、名前がちょっと変わっているじゃないですか?だから、よく名前が言えない時があるんですよ。
澤本:え、なんでなんで!?
権八:だって、「権八(ごんぱ)」って言っても、伝わらないから。違う名前を言って予約したりとか。
中村:え、それは「山本です」とか、そういうことですか?
権八:そうそう。
澤本:本当?
権八:本当に。例えば、まあ、ご飯屋さんとかですね(笑)。それはそうと、日々生きていると、「自分って結局、何者なんだろう?」みたいなことを問われるというか。ちょっとずれると、「自分じゃなくなる瞬間」ってあると思うんですよ。石川監督も、実は世の中にはそういう「シュールな入り口」みたいなものがあるんだ、みたいなことをおっしゃっていて。でも、妻夫木の場合は、どこに行っても妻夫木くんだから……。
中村:そうそう。たとえ名前がなくても、見たらもう、「妻夫木くん」だから。
中国名は「ツマブ・キサトシ」!?
妻夫木:それはもう、大変でしたね(笑)。僕も珍しい名前なので、もっと普通の名前だったらよかったのにって思ったことが何回もありました。今では、自分の名前に誇りを持っていますけど、近頃はあまり名前にこだわらなくなったんですかね、年を取ったのか……。以前、中国映画に出演させてもらった時に、よく監督から「チーフー!」って呼ばれていたんですよ。僕、中国読みで「チーフームー・ツォーン」って読むんですけど、「チーフームー」が妻夫木なんですよね。でも、みんな「チーフー、チーフー!」って言うわけですよ。それって訳すと「妻夫、妻夫!」って呼んでいるわけじゃないですか?だから「もしかして……。僕の名字って“妻夫”だと思ってます?」って、聞いてみたんですよ。
一同:はいはい。
妻夫木:そしたら、「え? “妻夫(つまぶ)・木聡(きさとし)”じゃないの!?」って言われて。
一同:(爆笑)。
妻夫木:「チーフー(妻夫)・ムーツォン(木聡)」でしょ?って。いや、違う違う!「チーフームー・ツォーン(妻夫木 聡)」ですって言ったら、「マジか……」みたいな反応をされて(笑)。
権八:面白い!(笑)
妻夫木:いや、「木聡(きさとし)」って何、その名前!?みたいな……(笑)。それを聞いた時に、名前って意外とどうでもよかったりするのかな、って。結局、大事なのは人間であって、人と人が付き合う時は、名前ってそれほど重要なことではないのかなぁ、なんて思って。
中村:名前の話もそうですけど、例えば妻夫木さんの場合、デビュー当時は「イケメンモデル」だったわけですよね?
妻夫木:あはははは。
中村:今は「超演技派」という評価ですけれども。そういう意味でいうと、若い頃に起きた意識的な「ジョブチェンジ」みたいなことって、何かあるんですか?自分の中でどんどん変えていこう、というのは。
妻夫木:いやぁ~、それが本当に全くなくて……。高校生の時にたまたまゲームセンターに置いてあった「オーディションマシーン」が、本当のオーディションにつながる、というもので。それで遊んでいたら、うっかり受かっちゃって。だから僕、本当に「運」でここまで来ているタイプなんですよね。だから、自分の将来をこうしよう、ああしようって考えたタイミングというのが、ほとんどないんですよ。
一同:ほぉ〜。
妻夫木:自分自身でジョブチェンジしよう、と思ったことも……。でも、強いて言えば、「転機」というものは確実にありますね。初めて演じた作品があまりにもできなくて、「まあ、いいや」と思っていたんですね。今のホリプロ会長である堀義貴さんと一緒に観ていたんですけど、観終わった後に、会長から「まあ、初めてだからしょうがないよ」って言われて。その言葉で初めて挫折感を味わいましたね……。でも、その挫折がなかったら、僕の意識改革にはならなかったかもしれない。それが多分、僕にとってのジョブチェンジだったのかもしれませんね。意識の改革によって、「この職業で、本気でご飯を食べていこう」と。ようやく肝が据わったというか、腹が決まったというか。そういう瞬間だったのかもしれないですね。
中村:なるほど〜!
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