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インバウンド需要の拡大に英語表記やユニバーサルデザインは必須

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2022年12月に発売した書籍『クロスカルチャー・マーケティング 日本から世界中の顧客をつかむ方法』(作野善教著)は、外国人ほか多様な文化的背景を持つ人の購買を念頭に置いた「クロスカルチャー・マーケティング」の考え方、また組織づくりからリーダーシップ、市場・顧客分析、クリエイティブ、仕事の進め方などについて解説するものです。

本稿では、書籍に収録したアマゾンジャパンのジョン・キング氏と著者の作野善教氏との対談の一部を公開します。

アマゾンジャパンでファッション部門のマーケティング責任者を務めるキング氏は、作野氏のかつての同僚であり、日本で約16年のビジネス経験があります。

国内市場の成熟が進むなか、国内外の外国人の需要や訪日旅行者によるインバウンド需要を取り込んでいくことは欠かせません。グローバル市場と日本市場の双方を知るキング氏の視点による、日本市場の特性や日本企業の課題とビジネスチャンスとは。

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訪日客6000万人の受け入れ体制は不十分

作野:日本に長く住んでいる外国人の視点で、日本のマーケットをどのように見ていますか。

キング:オリンピックの東京開催が決定したときから状況はだいぶ変わりました。それまでは訪日客に人気の観光地やホテル、レストランには英語メニューがあり、バイリンガルスタッフがいましたが、それ以外ではほぼ皆無でした。メニューは日本語のみ、商品には英語表記がなく、英語を話すスタッフもお店にはいませんでした。コンビニでおにぎりを買うときも、具を想像しながら買っていました。

ジョン・キング(アマゾンジャパン ファッション部門マーケティング責任者)
アメリカ・シアトル出身。ワシントン大学卒。テンプル大学大学院修士課程修了。広告会社レオ・バーネット東京オフィス(現ビーコンコミュニケーションズ)のエグゼクティブクリエイティブディレクターを経て、2018年アマゾンジャパン入社。日本在住歴、日本市場でのビジネス経験は16年以上に及ぶ。

最近はバイリンガルスタッフが常駐している店も多くあり、商品も英語併記のものが増えています。コンビニのPB商品にはしばらく前から英語も記されており、デザイン的にもなじんでいて、日本人にとってもデメリットがないように思います。多くの電化製品も英語表示できるようになりました。

作野:コロナ前の2019年は訪日外国人が3100万人でしたが、国は6000万人を目標にしています。現状、受け入れ体制は十分だと思いますか。

作野 善教(doq創業者・グループマネージングディレクター)
シドニーのマーケティングカンパニーdoq創業者・グループマネージングディレクター。外資系広告代理店ビーコンコミュニケーションズを経て2005年に渡米。米系広告代理店レオ・バーネットのシカゴ本社で勤務したのちオーストラリアに拠点を移し、2009年シドニーにてdoqを創業。異なる文化と背景を持つ多様性に富んだチームとともに、20年で50社以上の越境マーケティング戦略立案を手がける。2022年12月、初の著書『クロスカルチャー・マーケティング』刊行。

キング:私は観光業界に詳しくはないのですが、日本の「おもてなし」は世界に誇れるサービスだと思います。一方で、民泊のルールや、ペイパルやアップルペイといった国際的な決済システムの導入の遅れに不便さを感じます。ATMなどを含めた決済システムは早急に改善すべきです。英語対応はもちろんのこと、利便性を高めて、世界基準を満たすような仕様にしてほしいです。観光客には「日本での滞在はすべてスムーズで快適だった」という印象を持ってもらいたいですね。

作野:その通りです。日本にお金を落としてもらうための施策なのに、ATMやグローバルな決済システムが使えなければ元も子もありません。

キング:特にアメリカでは現金取引が減っており、非接触型決済、スマホ決済に移行しています。日本も以前と比べるとよくなっていますが、旅行者は、現金払い以外のオプションが少ないことに不安を感じるでしょう。

作野:レストランやバーといった飲食店はどうでしょうか。受け入れ体制はできていますか。

キング:大型ホテルや観光客向けのレストランはすでにあるため、3000万人への対応はできていますが、6000万人となると、彼らはどこに行けばよいのでしょうか。小さなお店では5人家族でも座れない場合もあり、10人程度で利用できるレストランは東京でも数少ないです。

宿泊施設もまだニーズを満たしていません。東京ではホテルはラグジュアリーホテルかビジネスホテルと二極化しており、中間があまりない。本来なら民泊がそこを担えるはずなのですが、日本では規制が厳しく、十分に対応できているとはいえません。

そもそも小規模なお店は外国人を受け入れたいと考えているのでしょうか。考えている場合は、その支援はどうするのか。6000万人という人数にどう対応するか、もっと具体的に検討する必要があるでしょう。

政府は2030年までに「年間の訪日客6000万人」との目標を掲げるが……

作野:北海道のニセコの場合、2000年頃までは国内旅行者が中心でしたが、その後外国人に人気のスキーリゾートとなりました。

外国人受け入れへの対応が遅れ、また地元住民の反対のため、日系ホテルが建てられず、外資系ホテルが大挙して進出しました。訪日客を増やす目的が、人口減によるGDP減少の穴埋めなのに、旅行客は外資系リゾートに滞在し、日本企業には経済的メリットがほとんどありません。日本が変化を拒めば、こうしたことが全国で起こる可能性があります。
 

世界標準のマーケティングとイノベーションが足りない

作野:外国人消費者、そしてマーケターの観点から見て、日本の国内ブランドをどのように感じますか。

キング:ほとんどのカテゴリーにおいて日本ブランドは世界トップクラスです。製品には独自性があり、革新的で、かつ精巧です。デザイン面でも優れており、コストパフォーマンスがいいものも多いです。それゆえ世界中で求められ、この地位まで上り詰めてきました。

しかし最近は、カテゴリーごとに革新的なブランドが登場してきています。AV機器ではサムスンやLG、自動車ではヒョンデアイオニックがトヨタプリウスの強力なライバルです。美容でも韓国コスメがトレンドとなっており、商品とデザインが優れていることもありますが、グローバルトレンドに合ったマーケティングを展開していることも功を奏しています。つまり日本は様々な分野において、トップポジションを脅かされているのです。

これには主に2つの理由があります。まずトップブランドにありがちですが、現状に甘んじてしまうことです。イノベーションが止まり、商品やマーケティングの方法が陳腐化し、消費者の興味関心を引くことを疎かにしてしまうのです。

2つ目は日本の場合、国内市場が大きいことがかえってあだになっています。ブランド本社が国内にあり、世界第3位の経済大国の国民がすぐそばに住んでいる。そうなると海外に目を向けずに、視野を狭くしがちです。

日本は国内でのブランド力や販売状況に満足せず、海外需要の取り込みを意識しないと、これから先もっと追い込まれます。たとえば韓国の場合、人口が少ないので、海外に目を向けざるをえません。そのためイノベーションも加速し、マーケティング手法も海外標準です。

作野:メイドインジャパン(日本製)についてはどのように思いますか。1990年、2000年頃まではこの刻印が信頼と高品質の証となっていましたが、現在での価値はどうでしょうか。

キング:信頼と高品質、良心価格といった印象は保たれており、さらに2000年代に入り、クラフトマンシップというイメージも加わりました。マシンで量産しているだけではなく、製造過程に人が関わっているイメージです。この「クラフトマンシップあふれるモノ作り」という印象は昔はありませんでした。

細部へのこだわりという意味では富士フイルムのカメラなど、大手ブランドにも感じることができます。

最近は、どこで、誰が、どのようにして商品を作ったのか、というストーリーに注目する消費者が増えています。ブランドとして信用してもらうためには、このブランドストーリーが大事なポイントになっているのですが、日本という国自体がすでにこのストーリーを持っていることは強みです。
 

商品の英語併記は必須

作野:もしあなたが在留外国人をターゲットとした日本ブランドで働いていたら、何をしますか。

キング:まずは商品に英語を追加するか、ピクトグラムを用いて文字表記自体をなくします。バルミューダのトースターと電気ケトルがいい例です。バルミューダは日本らしい職人的なデザインでありながら、ユニバーサルには使えない要素は排除しています。

英語への表示切替もやろうと思えばできるはず。英語版説明書の冊子がなくても、QRコードを読み取り、オンラインで読めればそれでも十分です。

QRコードといえば、コロナ禍を背景にQRコードでメニューにアクセスする方法が広がりました。接触を避けるためとしての方法として、それ自体は悪くないのですが、ウェブサイトではなく、PDFファイルにつながるケースが多くて残念でした。サイトであればテキストを検出しやすく、カメラのグーグル翻訳機能を使って、自分のスマートフォンでは英語で読めたのです。

作野:アップル製品のほとんどが直感的にわかり、説明書を読む必要さえないですしね。商品をシンプルにし、言葉での説明を不要にすることが解決策の一つに思えます。

キング:マーク・トウェインが「短い手紙を書く時間がなかったので、代わりに長い手紙を書きました」と言ったように、シンプルにするのは非常に難しいことです。でも日本ブランドがそれを目指すように自らを追い込んだら、長期的に見れば見返りの大きい努力になるでしょう。ユニバーサルデザインにすれば、日本向けと海外向けに別の商品をつくらずに済みますし、コスト削減効果も大きいはずです。簡単であること、便利であることは、国籍人種を問わず、すべての人が求めていることです。

後編に続く

定価:2,200円(本体2,000円+税) 四六判 268ページ

 
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